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恒星間艦隊vs魔法王国 −2つの文明の相克−  作者: 林海


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第71話 准教授の疑問


 再び、翻訳された会話の再生が続けられた。


 − − − − − − − − − − − − −


「平方根は、四角を斜めに切った線の長さです。これも(不明)に使うのですが、計算で出せば出せるのですが、時間がかかる下級技術ですよ。

 飛び抜けた能力なら一瞬で解決することを、工学で手数をかけてやるしかない。

 飛び抜けた能力の素がさらにあるならば、工学者は明日から辞めます」

「いいえ、それは違う。

 工学者は、よい仕事です」

「飛び抜けた能力者の方に言われると、悪い話です」


「この図の斜めに切れている線の長さは、どれくらいになりますか?」

「この辺の長さを1としたら、1.41か、1.42かですね」

「すばらしい。

 すべて覚えているのですね」

「このくらいはわかっていないと、工学的成果は作れませんから」

「なるほど」


「この文字は、1という意味じゃないですか?

 3.1も1.41もある……」


 − − − − − − − − − − − − −


「ここまでで終わりです」

「……なるほど。

 この後、分解されて機能停止したわけか……」

 総作戦司令ダコールは、その交わされた言葉だけは理解した。

 

「平方根の下りは、前から訳せていたので……。

 総作戦司令から聞かれる前に答えますが、『飛び抜けた能力』、『飛び抜けた能力者』、『飛び抜けた能力の素』、どれも私にはわかりません。存在自体は証明できたとは思いますけれどね。

 ですが、それは我々の科学とは別体系の、何らかの技術の存在を示唆しています。

 そして、それはあまりにも未発達な数学や工学を、カバーすることが可能な技術です」

「そこまでは、私も理解していますが……」

 ダコールの得てきた科学的知識とどこまでも反するこの星は、敵の会話を聞いた今も相変わらず頑としてその謎の解明を拒んでいる。


「結局は、訳せないので『飛び抜けた能力』、『飛び抜けた能力者』、『飛び抜けた能力の素』となっているだけです。

 つまり、我々の概念にはないものだということです。

 それこそ、いっそ『魔術』、『魔術師』、『魔素』とかに翻訳すれば、却ってすっきりするかもしれないですね」

 ゲレオン准教授の言葉に、ダコールは思わず笑い出した。


 そして、憮然とした表情になったゲレオン准教授に、今までの経緯を説明した。

「失礼。

 決して、馬鹿にしたとかそういうことではないのです。

 結果として我々も、同じ結論に達していたのです。

 いっそ、『魔術』、『魔術師』、『魔素』と置き換え、理解することを放棄し、それはそういうものだと受け入れようか、と。

 そうすれば、謎の解明自体は先に進まないものの、戦略を考えること自体は可能になりますからね。

 結局、我々が科学力の最先端を持ち寄ってさえも、そこに落ち着くのかと思ったら可笑しくなってしまいました」

 その言葉に、ゲレオン准教授は力なく笑った。


「わかりますよ。

 その無念さは。

 そして、軍との距離が近くない私でも、軍が前に進まねばならぬ組織だということも、そう受け入れねば先に進めないということも、です。

 ただ……」

「まだあるのでしょうか?」

 ダコールは、それがさらなる大きな問題を含むものと自覚できないまま聞いた。


「あのドローンのデータログを見せていただいたんですが、素人にはわからないのでお聞きしたいのですが……」

「なんでしょうか?」

「着地後、その地点から2kmほどの距離を一気に移動して、先ほどの会話が送られてきていましたよね。

 その移動については、検討されたのでしょうか?」

 その問いに、ダコールは微笑んで答えた。部外者からは、よくある質問なのだ。


「着地時の誤差修正でしょう。

 たかが2kmほどですし、我々はこの星の大気状態のデータを十分には持っていませんからね。

 つまり、惑星によっては、電離層に通信状態が不安定になるようなスポットが高頻度で生じることもありますし、そこを抜ける際に短時間とはいえ位置を見失うことがあるのです。その後、再度位置の捉え直しがあって、位置データの誤差修正がワープしたように見えるのは、『よくあること』とまでは言いませんがなくはないことです」

「では、その後、このドローンが機能を停止するまでの間、移動していないのはどう思われますか?」

「誰かが動かさない限り、動くことはないでしょうから別に不思議では……、っ!!」


 ダコールは頭が痛くなる思いで、ゲレオン准教授に聞いた。

「どうして、そこに気が付かれました?」

「私は文化人類学のフィールドワークのプロですよ。

 現場での採取回収と解析が日常ですから」


 そうなのだ。

 回収した機器を、露天でそのまま分解するだろうか?

 解析のための機器の分解であれば、いくら海底から引き上げたドローンで手慣れたとしても、いや、手慣れたからこそ工具の充実したラボ内になるはずだ。

 つまり、どこかの屋内に回収されていなければ可怪しいということだ。

 なのに、着陸地点から動いていないということは、ドローンの着陸直後の位置情報の移動は、地点誤差の捉え直し修正の結果ではなく、強制的に瞬間移動させられた結果ということになる。


 ただ、ダコールを始めとする軍関係者が、そこに気が付けなかったのにも理由がある。

 そもそも偵察用ドローンは、着陸を前提としていない設計になっている。敵に回収されることなどあってはならないので、海中投棄なり、高い位置からの墜落で完全に破壊するのが基本運用だ。


 だが、今回に限り回収させるのが目的だった。そして、攻撃の意図を疑われて撃墜されたくもなかった。だから、敵の街の郊外の、だが見つかりやすい場所として大きな建物の脇に無理やり着陸させたのだ。もちろん、速度もできうる限りの低速で、である。


 だから、カメラは着陸制御に付ききりで、着陸してからようやく周囲を確認した。

 低速で着陸させたので、敵の回収要員がいたことも不思議に感じなかった。

 そして、撮られていたのは、文様が刻まれたそこそこ遠い壁。ドローンが着陸した後の画像なのだから、建物の外壁だと無意識に思い込んでいた。

 せめてその壁が近かったら、室内との疑いを抱いたかもしれない。また、さらに観察が続けられたら、違和感も感じたかもしれない。だが、ドローンのカメラにはすぐに布が掛けられてしまった。

 

 つまり、ドローンの一連の流れを押さえていたからこそ、気が付けなかったのである。

さてさて、謎解明の緒になるかどうか……

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― 新着の感想 ―
サラッと書かれていますけど、会話での状況説明がすごく分かりやすいですね。込み入った状況なのに把握しやすくて助かります。
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