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恒星間艦隊vs魔法王国 −2つの文明の相克−  作者: 林海


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第69話 敵の会話記録


 宇宙文化人類学の学術チームの団長がダコールの自室を訪れたとき、ダコールはその切羽詰まった表情にただならぬものを感じていた。

 事前に団長から「得た情報の内容に難があるため、外に話が漏れないようにして欲しい」と言われていたため、バンレートの同席も一旦話を聞いてからと保留にしている。


「なにか、わかったことがありましたか? ゲレオン准教授」

 ダコールが聞いたのは、口火を切るためだけの目的である。その顔色を見れば、話し始めたら止まらないだろうことは想像がつく。

 まだ若く、理知的な印象を受けるが、フィールドワークで鍛えられた身体は軍の訓練を受けている一等兵より逞しい。


「実は、実験レベルではあるのですが、我が大学で量子コンピュータによる一生分の人間の脳の働きの再構築が試みられております」

「たしか、団長はヴィース大でしたな。

 総統府のお膝元、最高学府と誉れ高い……。

 理工部門でも最先端の研究がされていると聞きましたが、連携されているのですね。

 ですが、いまさら量子コンピュータですか?」

 ダコールは無遠慮に聞いた。

 というより、3世代も前の量子コンピュータに疑問を呈しないとすると、そちらの方が話を真面目に聞いていないと取られる可能性があった。


「簡単な話ですよ。

 量子コンピュータの仕組みは、生物の脳に準じているからです。

 生物の脳を分析するには、そもそものハードが類似したシステムの方が良い。そして、類似であっても、人間の脳の一生分の作業を数秒で終わらせられるのが量子コンピュータです。

 あとはソフトの問題ですが、人間が生まれて死ぬまでの脳の働きをトレースし開発するテーマの研究ですから、文化人類学上においても極めて興味深いものです。

 異なる環境で、人間の脳がどう適応するかのシミュレーションができますから。

 最終的に、複数の人格間で社会を作って切磋琢磨させあい、神に準じるほど人間のことを理解した、完璧な疑似人格が作るのが目的です」

「なるほど。

 戦略・戦術シミュレータを鍛える作る方法ですな。それを疑似人格でも行うと……。

 興味深い話ですが、それが今回のことどう繋がるのですか?」

 ダコールの問いに、ゲレオン准教授は薄く笑った。


「その研究の付随的成果として、高度な連想能力から人間が言語を覚えるように言語を覚え、しかも速いという疑似人格も得られているのです。そもそも、どのようなものであれ、論理構造を持つ言語を覚えなければ、人格が形成されませんから、この成果は重要視されています。

 そこで、ですが、総司令の作戦で、敵に送り込まれた偵察ドローンがありましたな。円周率を記したものです。

 それが敵の惑星の、人間の会話を記録していたので、その疑似人格に聞かせてみたのです

 トータルの会話量が少ないので、従来の翻訳プログラムでは対応できず、総司令もそれについては早々に諦められていましたね」

「軍としては、偵察衛星からの観察が主体でして……。敵性言語の解析は早いに越したことはないのですが、捕虜でも取れないとなかなか踏み込めないのです。

 なので、今の戦術ステージで、敵の音声データが得られる事例はめずらしいのです。そもそも音声データは、ドローンとはいえ敵に軍機材を渡さねば得られぬデータですから……」

 ダコールはなんとなく角度の異なる返答をしながら、ゲレオン准教授の話を期待に満ちて待った。


「では、これをお聞きください。

 ドローンを回収した人間が、行動と話す内容を一致させてくれたので翻訳の緒は掴めたのですが、誤訳もあるにせよ、それでも翻訳された話の内容は謎に包まれています」

 そう言うと、ゲレオン准教授は持参の端末からデータを選び、再生させた。

 2人の人間の会話が流れ出した。

 

 − − − − − − − − − − − − −


「ここが負の感情を起こすので、布を掛けておきます」

「感嘆詞、これは天からの敵の所有物ですよね?

 敵から観察されるのは、一般的に嫌です」

「それでは、私は分解を始めます」

「少し待て。

 その前に、他のドローンと違う点はないか?

 分解前に、観察する方が良い。これは機能を失っていない」

「肯定、さすがは飛び抜けた能力者。

 そのようなことも理解するのです」

「感嘆詞……」


 − − − − − − − − − − − − −


 ここで、ゲレオン准教授は一旦再生を止めた。

「まずは、この会話でカメラに布が掛けられました。

 これがすべてのヒントになったのです。

 で、1つ確認があります。ここに誤訳があると話がご破産になりかねないのですが、作戦遂行上で『他のドローン』も敵に贈った経緯があるのですか?

 これは軍規違反かもしれないと思い、まずは総司令と2人きりで話そうと思ったのです」

「お心遣い、感謝いたします、ゲレオン准教授。

 ですが、ご安心ください。

 偵察ドローンは送っていますが、贈ったものはなく、これは極めて正当なものです。敵惑星大気圏内の偵察にドローンを送り込み、その後すべて敵惑星での海中投棄処分としました。ドローンは大気圏外脱出ができないのです。なので、これはマニュアルに沿った適正な方法です。

 戦闘艦橋での命令の記録、各ドローンの全ログ、すべてそのまま残っていますよ」

 ダコールは一旦はそう言ったが、さらに続けた。


「ですが、連中は『これは機能を失っていない』と言いましたな。

 裏を返せば、『機能を失っている』ドローンは回収したことになる。だが、我々は偵察衛星からの地形リンクデータを使用して、浅い海などには投棄していない。

 敵は、どうやったのかはわからないが、深海からドローンを引き上げたことになる。

 偵察ドローンは高水圧には耐えられないから、機能は当然停止しているでしょうが……」

「その辺りの謎は、さらに出てくるんですよ」

 ゲレオン准教授は、そう予告し、音声再生を再開した。

連想と、数限りない試行錯誤、それによって言語は学習されるのです……

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