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恒星間艦隊vs魔法王国 −2つの文明の相克−  作者: 林海


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第61話 疑心暗鬼


 ダコールは続ける。

「もしかしたら、敵の惑星は我々をやり過ごすために、高度な科学は持っていないように偽装してきたのではないか?

 そして、我々を監視し、艦隊が侵攻を始めると見て、尻尾を出して見せたのではないか?

 つまり、敵は、画像の異常をこちらに感知させたかったのではないか?

 実際、画像の異常を検知したら、我々は攻撃していなかっただろう。

 ところが、我々は敵の期待する科学力を持っていなかったから、画像の異常に攻撃前に気が付けなかった……」

「我々のやっていることは、敵惑星からしたら児戯というほど差があるのでしょうか?

 それほどのレベルの違いがあると?」

 バンレートの声は震えていた。

 軍人として任務に就くようになってから、初めてのことだ。


「それはわからん。

 専守防衛に徹しているだけなのかもしれない。

 動機はそれなりに考えられるが、敵は我々より遥かに高度な科学技術をもっていて、前線の戦い自体をメッセージとしてきている。ゲームのやり方としては、ありだろうな。

 どうだ、否定できるか?」

「……できませんね」

「となると、我が方面軍では、どうにも対処できない敵ということになる。

 母星に諮り、全方面軍を束ねた大戦力としてこの星に来たとしても、それでも勝てるかわからん」

 ダコールの言葉を最後に、長い長い沈黙が2人の間に過ぎていく。


 当然、戦略上、母星より高度な科学技術を持つ相手との遭遇は想定はされていた。母星の戦略・戦術研究所でも、その場合のマニュアルは作られていた。

 だが、文明、文化とは、広がりを持って深化していくものだ。だから、相手との出会いは、その広がりの末端に遭遇することから始まるはずだという前提がある。だから、「敵を攻撃したら、いきなり超高度文明を誇る文明の母星だった」などという事態は、最初から想定されているはずもない。

 母星が丸裸なのに恒星間航行を可能にしているという文明など、あるはずがないのだ。


 だから、今回、事前に検討された想定がまったく役に立たない。

 そもそも、このような特質を持つ文明の事例は、実際に宇宙のどこにおいても観察されてこなかったのだ。

 こうなると、疑心暗鬼ばかりが先に立つ。


 

「いっそ、敵とコンタクトしてみませんか?」

 ようやく口を開いたバンレートの案は、ダコールからしたらかなり突飛に聞こえた。

「敵とコンタクトを取ること自体はいい。

 だが、負けた直後の、今か?

 足元を見られるだけという、最もやってはいけないタイミングなのではないか?」

 思わず、質問に質問で返してしまう。


「ですが、敵の手段も相当にまどろっこしくはないでしょうか?

 もしかしたら、敵もこちらにどうアクセスして良いかわからなくて、画像加工などという手を採ったのかもしれません」

 バンレートの返答に、ダコールは唸った。

 確かに考えられないことではない。


「なるほど。

 で、どんなメッセージを送るんだ?

 降伏勧告も講和の申し込みもできんぞ?

 下手な内容を送れば、軍律違反を問われかねないし、複雑すぎる内容だとメッセージ自体が翻訳できないかもしれない。

 大体において、我々と同じ論理を共有できる思考を持っていたら、同じような科学史を持つはずだが、全然異なっているではないか。言語論理構造自体が異なっていたら、そもそも翻訳できないぞ」

「そうですね」

 そう言ってバンレートは少しの間考え込む。


「そうだ、数学であれば、宇宙のどこでも通用するはずです。

 例えばですが、円周率とか、√2を送ってみるのはどうでしょうか?

 簡単に解析できますし、小数点を入れても10進法なら11字です。

 たとえば10桁を送ってみて、20桁返ってきたら100桁を送り返しとやっていけば、敵の科学力もわかるのではないでしょうか?

 当然、これなら軍律違反を問われる内容でもありません」

「……なるほど」

 ダコールは中途半端な面持ちで頷く。

 まだ迷っているのだ。


 敵とコンタクトを取るというのは、考慮せねばならぬことがあまりに多い。

 情報の真偽だけではない。

 例えば担当を割り振られた士官が、敵との心理的な依存関係をいつの間にか作られてしまうことはよくあることだし、その結果引き金を引くことができなくなった例すらあった。

 

「それにだが、相手が電波という手段を取っていない以上、どうメッセージを送る?

 有人機だろうが、ドローンだろうが、送れば落とされるだけかもしれん」

「メッセージを積んだドローンを送ったらいかがでしょうか?

 落とされても、メッセージが伝わればいいではないですか」

「敵からの返信手段も考えておかねばだぞ。

 ドローンでは大気圏外に出てこれんし、極端な話、円周率の数字を示すために、その隻数の艦を落とされてはかなわん」

 ダコールの返事に、バンレートは複雑に表情を歪ませた。

 それこそ、「笑えない冗談」そのものだったのだ。


「確かに難問ですね。

 ですが、それは敵が考えてくれるのではないでしょうか?

 こちらの偵察衛星に、加工画像を送り込んでくる相手です。それが不可能だとは思えない」

「……なるほど」

 再びダコールは唸る。


 だが、ダコールはバンレートの案を前向きに考え出していた。

 円周率だけでは不十分だろう。

 複数種類の無理数で送るのが良いかもしれない。図も付けて、だ。

 これなら、敵の翻訳の苦労は大きく減るはずだ。これは、相手の誤解を防ぐためにも重要なことだ。


「円周率、平方根、ネイピア数の3種類を、2進法、10進法、12進法で送る。

 円周率と平方根は、図を付けてなにを意味するか明示。円周率と平方根は簡単に図にできるが、ネイピア数は少し複雑になるかな。

 これでどうだ?」

 ダコールからの逆提案に、バンレートは表情を引き締めた。

さあ、魔法で国を運営している人たちは、数学わかるんでしょうかねw

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