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恒星間艦隊vs魔法王国 −2つの文明の相克−  作者: 林海


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第59話 敗戦処理


「敗戦の報告ってものは、慣れることはないのかもしれないな」

 総作戦司令ダコールは、そう愚痴った。

 眼の前には、カップが薄紫色の水色の茶を湛え、良い香りを放っていた。

 この艦隊で唯一残っている高級茶である。


 日常の糧食は艦内の3RS(Resource recycling and resynthesis system)で合成されるが、贅沢品はそうもいかない。乗組員の精神的安定のために、補給艦がそういうものを積んでいたが撃沈されてしまった。なので、個人としてダコールが私室に持ち込んだ茶葉だけが残ったのだ。

 母星から新しい補給艦が来るまで、しばらくは節約せねばならない。


「慣れるほど負けていたら、降格か馘首です」

 そう答えるのは、副司令兼艦隊旗艦艦長のバンレートである。

 3RSで高級茶は合成できないが、チープな味のカフェイン飲料なら可能だ。

 バンレートは、ダコールの茶葉の残量を慮って、勧められた茶を断ってそれを飲んでいる。


 2人は、ダコールの私室でソファに座っていたが、はなはだお行儀はよろしくない。ダコールの足はカップの横のテーブルの上に伸びているし、バンレートはソファの上に足を上げてしまってとぐろを巻いている。

 そして、床中に書類やメモの紙が散乱し、オンステージの軍組織に有るまじき惨状である。食べ物が散乱していないのは、単に軍律で私室に持ち込みができなかったからに過ぎない。さすがに、従卒に軍律違反を強いる無理は言えなかったのだ。


 1度や2度の敗戦で立場が怪しくなるほど、母星からのダコールの評価は低くない。負けて得た情報もあるし、悪い負け方でもなかった。だが、だからといってそれが慰めになるものでもない。

 多数の艦の轟沈は、さらに多数の乗組員の命を巻き添えにした。

 その責任がないと、強弁できる心臓も持ち合わせてはいない。


 本来なら呑んだくれたい気持ちではあるが、それが許される状況でもない。そして、心を蝕むような「なぜ負けたか」の検討が続く。だが、デブリーフィングは早いほどよいのだ。

 その結果が、この部屋の惨状である。


 本来、戦術分析班の仕事でもあるのだが、ダコールとバンレートも出席した2時間の会議の末、なんの結果も出せなかった。仕方なく全員で持ち帰り、検討を深めてから再度検討することとなったのだ。

 どうせ艦の補修ができるまでは、そして母星から物資が届くまでは取り立てて判断を急がねばならぬこともない。ダコールとバンレートは、2人で集中して考えることにしたのだ。

 そして1つずつ、おかしな点が洗い出されていった。


 まずは、小惑星弾からの映像、偵察衛星からの映像を、繰り返し繰り返し100回は見ただろうか。そこで生じたかすかな違和感を、旗艦のコンピュータに画像解析させ、微妙な遠近の誤差が発見されたのが皮切りだった。

 人間の目視では気が付かない。いやむしろ、現実よりも遥かにもっともらしい画像が偵察衛星から送り出されている。だからこそ、初見のオペレーター士官が気がつくはずもない。


 もっともらしさの要因は遠近法の歪みだったが、これにより、正確な端正さのある画像から迫力が増したものになっている。これは、戦っている最中であればこそ、気がつくのは難しい。

 一旦置いた冷静さがあってこそ、気がつけたのだ。

 そして、一度気がつけば、新たに解析プログラムを組むことが可能になるし、その結果、続々と画像加工のあとが洗い出されていった。


 洗い出しの結果が蓄積すると、他の画像加工も見つかってくる。

 例えば、複数の偵察衛星の画像は、正確にどの角度から見ているかの算出ができる。だが、その角度も微妙にずれていた。これも、もっともらしさが増す方向で、である。

 そして、今このときも、偵察衛星はその歪んだ画像を送って来続けている。


 当然のことながら、今まではこの種の解析はされていなかった。

 オペレーター士官がモニターを目視し、着弾と戦果を確認する。その後、戦果評価を確定するための画像解析はされてきた経緯があるが、自ら配置した偵察衛星の画像が最初から加工されていたという前提など、あるはずがない。



「衛星の画像は信用できない」

 ダコールが断じ、バンレートが深くため息を吐いた。

「となると、それ以前の戦果も疑わしくなりますな」

「艦載機による威力偵察が必要かも知れん」

「ですが、それはあまりに危険です」

「そうだな。

 まず、無事には戻ってこないだろうな」

「せめて、小惑星弾と対惑星地表用弱装弾、どれが着弾し、どれが着弾しなかったかがわかれば、危険度の評価ができるのだが……」

 話は堂々巡りになりがちで、生産的な話にはなかなかならない。


 だが、今はそれでいい。

 足を地に付けて、落ちがない検討が必要なときだ。落ち込んだ気持ちでのブレーンストーミングは、雰囲気に上げ足を取られなくてすむ。逆を言えば、全員がイケイケの状態でのブレーンストーミングほど、怖いものはない。


「そもそもですが、どのようにして今も偵察衛星を誤魔化しているのかがわかりません。

 制御プログラムにウィルスは侵入していませんし、それどころか全衛星で制御ブログラムはインストールし直してます。

 ですが、状態は変わらない」

 バンレートも打てる手は打ち尽くしているのだ。


「敵母星から、衛星をハックするための電波信号が定期的に出ているだろう?

 その信号自体を解析すれば……」

「それが……。

 報告どおり、そしてその後の観察でも、あの惑星の文明の外見通りで電波の『で』の字も出ておりません」

「馬鹿に強調するなぁ。

 惑星内の通信とか、メディア報道とかの電波も……。

 ないんだよな……」

 バンレートは黙って頷いた。

負けた要因の解析は、勝った要因の解析よりも深く行われるのです。

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