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恒星間艦隊vs魔法王国 −2つの文明の相克−  作者: 林海


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第47話 王の洗脳


「ロレッタ殿」

 ゼルンバスの王は、改めてその名を呼んだ。


「先ほどのお前の言は、己を殺す消極の極みであった。まぁ、ロレッタ殿がそれでよいのであれば、それでもよかろう。

 だが、1つ聞いておきたい。

 己を活かそうとする、積極のお前の言はどのようなものか?」

 ロレッタは両手を広げ、腰を落とし、ゼルンバスの王に深々と礼をした。外交プロトコルに定められた、淑女として最大の敬意を示す礼である。


「私めは不肖の魔術師ではありますが、天から敵が攻めてくるような事態に対し、じっとしてはいられませぬ。

 ですが、口惜しいことに、天足通の術はそれのみでは意味を持ちませぬ。

 例を挙げるならば、天眼通の術にて行き先を示してもらわねば、知りたる場所以外には行きようがありませぬ。行ったことのないセビエに行けと言われても、どこに己の身体を実体化して良いかわからぬのです。

 したがって、いくら天からの敵を憎もうが、敵陣に斬り込むことさえも能わず。

 天足通の術のもう1つの柱、魔素に依る物質変性の術さえも、結局は物質を知らなければ何事もなし得ませぬ。知らぬものは作れぬのです。ところがコリタスでは、物の理、物が化ける理を学ぼうにも、ゼルンバスの学院ほどの知は集積されてはおりませぬ。

 験と知なき天足通の術はあまりに意味なく、口惜しく、もどかしく。

 コリタスにいるもう1人の天足通の術の魔術師は、そのことにすら気がついておりませぬ。ようやく得た、ゼルンバスへのこの機会、私としては……」

「なるほど。

 モイーズ伯に飼い殺しにされれば、願ったり叶ったりでここゼルンバスで天足通の術を極めようとてか?」

「御意」

 ゼルンバスの王は、軽く頷いた。


「では、ロレッタ殿自身は、天足通の術を極めた己をどう使うつもりかな?」

「王命に従い……」

「コリタスの、か?」

「……御意」

「それで満足か?」

「私めは、コリタスの副王の娘。

 それ以外に生きる道はあろうはずもなく……」

「それが、コリタスにとって最善と、ロレッタ殿は信じられておられるのかな?」

「……」

 ロレッタは、口を開くことができない。


 コリタスの王命について問い詰められるのであれば、誤魔化すこともできた。嘘も言えただろう。受け答えも考えてきている。

 だが、ゼルンバスの王が問うているのは、ロレッタという人間についてなのだ。まだデビュタント・ボール(初めての舞踏会)に出たこともない乙女が、他国の王に自身について問い詰められて、誤魔化しきれるものではなかった。


 王は、話の切り口を変える。

「ゼルンバスに来て、まだ時は経っておらぬ。

 だが、王都マルーラを見て、どう思われた?」

「見事なものと。

 コリタスの王都は、マルーラの街区に過ぎませぬ」

「王命に従うのと、ロレッタ殿自身の思いに従うのと、どちらがコリタスの王都の発展につながるか?」

「もう、お許しくださいませ。

 なにとぞ、なにとぞ……」

 ロレッタは顔を伏せ、苦鳴を漏らした。

 取り繕える範囲を超えてしまったのだ。若く、それゆえに持つ理想は高い。それを、外交の道具とされたことで諦めたのだ。

 ゼルンバスの王は、そこを執拗に突いていた。


「モイーズ伯に問う」

 ゼルンバスの王は視線を移す。

「ははっ」

「伯はロレッタ殿というこの娘御に対し、嫌悪の情はありや?」

「あろうはずもございませぬ」

「では、コリタスの王の望み通り、この娘は伯に任せる。

 天からの敵を討つにあたり、ゼルンバスもコリタスもない。

 極近いうちに余から『己を賭けて、天からの敵を討て』と、他国の者であっても命を出さねばならなくなる。

 そのときまで、数日の間にしかならぬにしても、身柄を預かっていて欲しい。

 なお、ロレッタ殿は魔法省への出入りを許す。留学扱いゆえ、学院へもだ」

「ありがたき幸せ」

「モイーズ伯、伯が礼を言うことではあるまい」

「そうでしたな。

 貴族とは顔つなぎを一つの仕事とするものゆえ、つい。はっはっはっ」

 モイーズ伯は、茫洋とした表情のまま笑った。


「伯、そろそろその擬態、却って相手を警戒させるぞ」

「……我が王には敵いませぬな」

 モイーズ伯の顔が憮然としたものになった。


「もう少し工夫をしておけ。楽しみにしている。

 さて、ロレッタ殿。

 コリタスの王が、一度口に出した意地だけでそなたをゼルンバスに送ったとは、到底思えぬこと。

 その命については想像がつく。

 その上で、だ。

 その命と、天眼通の術を深め天からの敵と戦うこと、しばらくの間、これは相反することはあるまい。

 ゼルンバスのためとは言わぬ。この星の民すべてのために、その力、振るうことを考えておいてくれぬか?」

「なんともありがたき申し出にて……」

「コリタスの王には、先々『功をもって果たせなかった命の償いに』と、余から口を利く。

 その後は、好きなように生きるがよい。

 モイーズ伯が後見人じゃ」

「伏して……、伏して礼を申し上げます」

 ロレッタに対し、王は笑ってみせた。



 モイーズ伯一行が玉座の間から退出すると、王は外務省の長、ラウルを呼び出した。

「セビエとコリタスとカリーズは人質を出した。さらに、コリタスは国の柱である魔術師までもゼルンバスに送った。アニバールの生き残りの魔術師も、その大部分がゼルンバスに到着した。それを、残りの4国に伝えい。

 早ければ早いほど、その見返りも大きい、とな。

 敵の攻撃は3日後と余は見ている。

 利用できるものはすべて利用する。3日後、いや、2日後までにすべての体制を整えい」

「はっ。

 筋道はできております。

 2日の間に、この星の王国すべて、ゼルンバスの膝下に」

 ラウルの表情は、数日前とは別人のように厳しいものとなっていた。

 先日までの融和と譲歩の外交はすでにない。日々、書面でとはいえ、強気の交渉を繰り返していることが顔にも出ているのだ。


「よろしい。

 引き続き頼むぞ。

 話は変わるが……」

 王の顔が悪いものになった。

ゼルンバスの王様、悪質ww

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