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恒星間艦隊vs魔法王国 −2つの文明の相克−  作者: 林海


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第4話 まずは表の手


 いずれにせよ、数日分の魔素を定期的に失うのは、あまりに痛い。

 魔素の節約のため、天からの大岩を動かすのは最小限にとどめ、隣の国に落としてしまえという甚だ情けない国々のせめぎ合いもこれから起きてこよう。

 この世界の国すべてが一致協力して事に当たるなど、一国の王が夢見て良いことではない。


 そして逆に、世界の国すべてが一致協力できたとすれば、それはどこかの王、もしくは王数人が、えげつなく、狡く、策を弄し手を回した結果である。

 ……そして、この世界最大の版図を誇るゼルンバス王国の王以外、誰がその任に堪えようか。


 王は、玉座から立ち上がり、声を張った。

「諸侯に告ぐ。

 これは我が国の危機にして、我が国にとどまる危機にあらず。

 未曾有の事態にて、王国は王、貴族、臣民共々に皆死するおそれあり。

 諸侯、領地に戻りて、山野よりまた海川より調達、備蓄に励むべし。これが臣民を救う近道となろう。

 その間に、王は王権に因る力で、天よりの大岩に対峙し時を稼ぐ。

 そして、天にいる侵略者どもに手痛い教訓を与える」

 これは、王としての宣言である。

 諸侯は揃って片膝をつき、恭順の意を示した。


 そこに、諸侯の中から一人の男が立ち上がった。

「我と我が領民は、王家と共に有りたい。

 王の言葉に反する意思ではあらずして、この危機を憂うるからなり。なにとぞ、王家との同道をお許し頂きたい」

「ロベール公爵。

 まこと有難き申し出、感謝の極み。

 なれど、今はまだその時ではない。各国に落ちた後、大岩は再びこの国を襲うおであろう。その時こそ我らが反攻の時とし、卿らの力を借りたし。

 それとて、30日も先のことではありえぬ。ゆえに短き間なれど、十分に貴領の整備を果たしその責を達成されたい。二度とそのような機会、得られぬやもしれぬゆえ。

 次に相見(あいまみ)える(とき)が、今生の別れの場となる覚悟で思い残し無きように」

「承知つかまつりました」

 ロベール公爵は丁寧に一礼し、再び片膝をついた。


 ロベール公爵の領地は肥沃で、面積以上に収穫がある。

 このような、財政に余裕がある貴族の言は重く、他の貴族への影響も大きい。見習うべき対象だからだ。

 王は、内心でロベール公爵に感謝していた。

 たとえ、ロベール公爵のこの言が、我欲からのすべてが片付いたあとへの布石であったとしても、である。


「諸侯に改めて告ぐ。

 未曾有の災いであり、未曾有の戦いである。

 王国のためとは言わぬ、この世界全人民のために、努めを果たすべし」

「努めを果たすべし」

 王の言葉を反復し、諸侯が唱和する。

 とりあえずは、諸侯に目的を与えた上でこの場から去らせ、王として具体的に動くのはそれからとなる。



 王宮の儀官が諸侯を送り出したのを確認し、王は口を開く。ここからは、歯に衣を着せる必要はない。

「まずは表の手を打つ。

 壊滅したニウアの辺境伯、モイーズ伯を呼べ。

 火急の要件につき、即時参上せよと伝えよ。

 それから、天眼アベル、その方の弟子、クロヴィスを貰い受けたい。

 それをもって、その方の罪の償いとする。新たなる弟子を育てよ。

 併せてフォスティーヌ、その方の娘はなんといったかな?」

 王の問いは性急だが、急ぐ理由があった。


「御意。

 ただ、不肖の弟子とはいえ、クロヴィスの身が我が代わりとなって償いの場に赴くなら、我が身をもってその責を取らせていただきたく……」

「安心せよ。その心配は要らぬ」

「はっ」

 師として、弟子の身を憂慮したアベルに王は応じた。

 だが、そもそも天眼を能くする魔術師は、他国からの暗殺リストの筆頭に上る存在である。それほどに普段から危うい自分の身を忘れて弟子を庇う物言いに、王は内心救われた気になった。

 王の腹の中は今、自分でも(おぞ)ましいと感じるほど黒い思案で渦巻いていたのだ。


 天眼通アベルに続き、魔法省のフォスティーヌが答えた。

「我が娘の名、レティシアでございます」

「そう、レティシアであった。

 そのレティシアを借り受けたい」

「不肖の娘、役に立つかどうか……」

「立ってもらわねば困る。

 クロヴィス、レティシアも早急にこの場に」

「ただちに」

 答えたのは、控えていた王付きの書記官である。


 すぐさま、書記官は羊皮紙に王命を記し、王付きの魔術師がそれを飛ばす。召喚の反対、すなわち派遣魔法によって、王命の手紙はロスタイムなしに届くのだ。

 王都内にいる相手に対してのこの処置は、一呼吸の間も無駄にできぬという王の意志の表れである。本来なら、魔素というコストがかかることゆえ、王都内なら使者を走らせるのが当たり前なのだ。


「さらにフォスティーヌ、その方に問う。

 魔法省で現在自由になる、魔素が貯まっているキャップはどれほどの量か?」

「およそ120。

 ですが、そのうちの20個は残しておかないと、明日からの国内の病人の治療にも事欠きましょう」

「では、その100個を即時運び出せるように。

 財務省パトリス、残り20個の運用について、緊縮運用案を作っておくように。キャップの増産自体にも案を出せ。

 次に、大将軍フィリベール……」

 矢継ぎ早の王の呼びかけに、フィリベールは先回りした。


翼竜(ワイバーン)であれば、危急に備え、いつでも5対が対領空侵犯(スクランブル)可能な体勢にあります。

 それを、いつでも回すことができまするぞ」

「さすがだな」

「目的地は北の隣国、セビエの王宮ですな?」

「そう言うことだ」

 このあたりは、王とフィリベールの長い付き合いが、阿吽の呼吸を成立させている。


「それでは、3対を出しましょう」

「良きに計らえ」

 大将軍フィリベールは王に向けて一揖し、配下の者に命令を伝えた。


 つまり、こういうことだ。

 翼竜(ワイバーン)は、対と呼ばれる2頭で運用されている。そして1頭あたり重武装兵を2名乗せることができる。そして、そのうちの1名は、飼い主担当兼操竜者であり外せぬ。

 なので、モイーズ伯、クロヴィス、レティシアで3頭の翼竜(ワイバーン)が無条件に必要となる。それにモイーズ伯の立場上、護衛には各翼竜(ワイバーン)の兵に加え、伯の子飼いが最低1人は必要となるだろう。

 そして、重武装ではないモイーズ伯たちの装備の重さの分の余裕と、もう2頭の翼竜(ワイバーン)で、魔素を貯めたキャップ100個を運ぶのだ。

同時に王様は、黒い手も考えているのです……

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