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恒星間艦隊vs魔法王国 −2つの文明の相克−  作者: 林海


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第30話 観るという修行


 クロヴィスは、天の大岩を改めて見ている。コリタスの天眼通の魔術師ディルクは、この天の大岩が落ちてこなくなった瞬間に、関心を失っている。

 クロヴィスからしたら、考えられないことである。


 そもそも、見れば見るほど単なる大岩ではない。目的の定かではない、人為的な機能がいろいろと取り付けられている。

 それは、師アベルから聞いた、飛竜旅団を監視していた10個の空飛ぶからくりの中身と同じようにクロヴィスには見えた。つまり、複雑に絡み合った銅や礬素(ばんそ(アルミ))が見え、それがなにやら光を発しているように見えるのだ。その光は、未だ一向に衰えぬ。

 おそらくは、天の大岩にも偵察できる機能が付与されていたということで、その機能は今も生きているのだ。


 そして、さらに怪しいことがある。

 大岩同士はぶつかり合い、それぞれが自転を始めた。コリタスの魔素の吸集・反射炉から送り込んだ大岩は、今も回りながら飛んでいる。だが、天からの大岩は回るのを止めてしまっている。


 これは、物を見るからくりが付与されていることと併せて考えると、今も天の大岩は敵の手の中で自在にあることを意味しているのではないか?

 回っていては、思うようにこちらを見ることができないからだ。

 ということは……。

 回るのを止められるのであれば、進路を修正できないはずはないのではないか?

 もしかしたら今からでも急カーブを描いて、コリタスの第二の都市バーニアに落ちてくるのではないか?

 逆に落ちてこないなら、それは自分たちはバーニアを敵から守れたという錯覚を与えられたのではないか?


 疑えばいくらでも疑える。

 不安に押しつぶされそうになりながら、クロヴィスは改めて巻き起こった周囲の喜びの声に片手を上げて応えた。

 そして同時に、モイーズ伯の姿を探した。1人で抱えているには、問題が大きすぎたからだ。

 術を使うまでもなく、すぐにその目は、レティシアがモイーズ伯に声を掛け、こちらに誘導してくるのを捉えていた。


 偶然か、自分の不安な心をレティシアが無断で読んだのか、それはクロヴィスにはわからない。

 だが、今は無断で心を覗かれたのだとしても、モイーズ伯と話せてありがたいという気持ちの方が大きい。


「ゼルンバスの王へ、吉報を届けねばならぬ。

 クロヴィス、魔術師として、王に報告しておかねばならぬことはあるかな?」

 そう聞くモイーズ伯の顔は紅潮して、内心の高揚を示している。

 何事にも慎重なモイーズ伯をしても、「一矢報いた」という気持ちは隠しようもないのだ。


 レティシアは、モイーズ伯にクロヴィスの不安を伝えていないらしい。それとも、やはりレティシアはクロヴィスの心を読んではいなかったのかもしれない。

 クロヴィスは、モイーズ伯の喜びに水を注す自分の役割に、ふと嫌悪を覚えていた。

 だが、口は開かねばならぬ。


「申し訳ありません。

 ですが、どうも可怪しいのです……」

「可怪しいとは?」

 と聞いたのは、モイーズ伯ではない。コリタスの魔術師、ディルクである。

 いくら大雑把とはいえ、天眼通の術を使うディルクには下手な隠し事はできぬ。これはもう仕方ない。

 すべて話してしまおうと、クロヴィスは決意した。


「天の大岩は、落ちてくることはありませぬ。

 そうは思うのですが……。

 でも、あの大岩は未だ敵の手の中にあり、そのまま操られております。

 落ちてこないと、そう敵は私たちを(たばか)っているのではないかと思うのです」

 途端に、クロヴィスを囲むモイーズ伯とディルクの顔色が変わった。レティシアのみ、予想していたのか動揺は見られない。


「クロヴィス殿。

 後学のため、どうしてそう見られたか、お教え願えませぬか?」

「そうだな。

 ゼルンバスの王への報告もある。

 ぜひ聞かせてもらおう」

 ディルクとモイーズ伯は、表情を改めてクロヴィスに問う。


「天の大岩には、師からの手紙に書かれていた敵のからくりが仕込まれているのが見えました。

 ディルク殿、貴殿には、複雑に絡み合った銅や礬素(ばんそ(アルミ))が見えましたでしょうか?

 さらに、それがなにやら光を発しているようにも?」

「それがなにかはわからぬが、そういうものは……、たしかに見えていたな」

 どうやらディルクは同じものを見ていても、気にも留めなかったらしい。無条件に、「そういうものだ」と受け入れてしまったのだろう。


「天の敵は、この星の周囲に空を飛ぶからくりをいくつも置いているようです。それらはすべて、この複雑に絡み合った銅や礬素(ばんそ(アルミ))を積んでおり、光を発しているのです。

 さらに御覧ください。

 すでに進路を変えられ、用済みになったはずの天の大岩から、今でも多くの光が発せられているのを。

 そして、我々がぶつけた岩はかなりの速さで自転しておりますが、天の大岩はぶつかったときこそ回りだしましたが、今はその動きを止めております。

 つまり敵は、この大岩を自在に動かせるのです」

 クロヴィスの言葉に、ディルクは改めて天に向かって目を凝らした。


 だが、口にしたのは、クロヴィスの期待に反する言葉だった。

「……クロヴィス殿、考え過ぎでは?

 上手く作られた独楽とて、いつかは止まるものではないか。回る動きが止まるのも、別に怪しむことではございますまい」

 これは駄目だ。

 クロヴィスは絶望的な気持ちになった。


「我が師の教えによりますと、独楽が止まるのは、その軸と地が擦れあって制動が掛かるため、と。また、周囲の空気がさらにその回転する力を奪うがため、と。

 ものを見るときは、才に溺れず、そのような見えぬものをも観ろと仕込まれました。

 天の大岩は擦れあう軸を保たず、そしてその周りには空気もありませぬ。

 したがって、自ら止まることなどありえませぬ」

 自分の語調がきつくなることを自覚しながらも、クロヴィスはそれを止めることはできなかった。「天眼通の術を使いながら、なぜここまで無為に見ているのか?」と、若いクロヴィスは、ディルクに対する苛立ちを抑えきれなかったのだ。

見えるがゆえに、観ることが疎かになるのです。

それをクロヴィスの師アベルは、十分にわかっているのです。

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