団長の懸念
「そうですか。では稽古を再開しましょう」
「え、」
と、いつになく低く冷たい声が出るがギムレットは気にせず、将希から距離を取る。
「えっ。ちょっと待って」
「将希殿は魔物に待てが通用すると思いますか?」
「それどっかで聞いたことある!」
将希の全神経が警告を発する逃げろとしかしすでに足はカクカクで動かない。
助けてスキルさん!
『身体機能向上を作動』
ギムレットが踏み込む、いつもなら影すら見えないが今はゆっくりと動くギムレットが目で捉えられる。
将希は向かってきた剣を楽々と躱す。
「スキル、ですか」
『スキル身体機能向上、弱に補正。』
先ほどまで止まって見えたギムレットが早く動く、
「えっ、なんで・・っ・・」
将希は急いでしゃがみ込みその無防備の頭に剣の腹が直撃する。
「将希殿?」
サンディさんがこっち見てる。あっ、マリアが・・・・
「・・・将希殿?」
張本人ギムレットはふらっと倒れた将希の頬をツンツンと突く。
「完全に伸びましたね」
「本気でやったからね」
「将希殿が避けないのが原因では?」
「将希殿、大丈夫でしょうか?」
2人の会話に魔法で氷を出していたマリアが問いかける。
「大丈夫でしょう」
「最悪治癒魔法でもかければ」
「すぐ起きるでしょ」
息のあった掛け合いが繰り広げられる。
「仲良いですね、騎士団内恋愛ですか?」
「あいにくですがギムレットにそのような感情を抱いた事はありません。」
あえなく流れ弾が直撃し撃沈していた。沈みゆく船であった。
「俺。何か悪いことしました?」
「あはは振られてる」
「もう一回おねんねしますか?」
人の不幸は蜜の味。将希が起きた。正確には起きていただが。
「いえ。大丈夫です。」
「そうですか。では次としましょう。次はランニングです。」
その後、生き返った将希とマリアは膝が立たなくなるまで走らされた、その後瞬発力を試すだとか言ってサンディの剣を避ける練習をさせられた。
●
そして翌日。
サンディは明後日またリベリシュに向かう準備をしていた。王立騎士団のブラムから許可が出てエリシアが同行をすることとなった。そしてほぼ時同じくワジル、サムウェル、ブラットリーも身支度と最後の別れを仲間に告げる。
「まだ。死んだと決まったわじゃない」
その輪を外から眺めるギムレットが呟くが誰も聞いていない。演技に夢中である。
「サムウェル、ブラットリー、例え・・・たとえ、帰って来れなくてもお前達のことは俺は・・俺は忘れない!」
まるで最後の別れかと思うほどの演技で三馬鹿トリオ唯一残されたカールは泣いている。それをその他無関係な騎士団員達は眺めている。
「何してるんだ?こいつら。なぁ?帰ってくると思うか?」
「帰ってくんじゃねえの?」
「俺的には帰ってこなくても良いと思うが」
「まぁな、」
今生の別と言ったほどに三馬鹿トリオはうるさく皆に迷惑をかけてる。
「お前ら今生の別れじゃねーぞ。頑張ってこい俺は安全圏から応援してる。あはは、安全圏っていいなぁ」
安全圏にいるギムレットは自分には関係ないと2人の生死など割り切る。
「副団長ヅ、安全圏にいるかって」
「そうだよ。ならあんたがいけよ!」
「私は副団長だ。それに私は呼ばれていない。呼ばれたのは君たち2人とワジル、紅一点エリシアだ」
紅一点。ギムレットがそう言った瞬間全騎士団員の背中に虫唾が走る。
「殺されますよ、副団長」
「あははあは、・・・誰にも言うな。」
乾いた笑い声と脅迫が騎士団王都本部に響く。
その直後扉が音を立て開く。逆光で姿は見えないがその声が特徴的であった。
「なんか変な空気が流れてるな。」
「だ、団長、おはようございます。」
背中に手を置かれたギムレットは飛び上がりすぐ振り返る。
「どうした?ギムレット、いつになく謙って?」
「いえ!何もありません。」
「うーん、そうか」
団長はギムレットに不信感を抱いている。
いつになく言動が怪しく挙動不審である。
団長は聞いていた。だが泳がせている。
「あー、そうだ。これやるからさっきここで何があったか聞かせて欲しいどうする?」
団長は胸ポケットから暖かい紙切れを2枚取り出す。
「2人分あるぞ。先着2名だ。」
団長はその紙切れを天井に向かってふわっと投げる。
「俺のだッ!」
「邪魔だ!」
「死ね!」
「このやろう!」
「屑が!ゴミくそ」
その紙切れに団員達が群がる。まるで餌を見つけたハイエナのように素早く狡賢くせこい。
「それを取った者には全部吐いてもらうが・・な」
時既に遅し団長がそう言った時には既にワジルの手の中にあった。
「お前ら、何回騙されれば良いんだ?見てみろ」
ワジルは手短な場所にいた三馬鹿に手渡す。
「白紙じゃねえか!」
「なんだよこれ!」
「そもそもワジルも騙されたってことか」
サムウェル、ブラットリーは真面目に何も言わなかったが、カールは言ってしまった。その時周り中からはぁーとため息が漏れる。
「よしワジル吐いてもらおう。」
「スイーツ券良いですか?」
スイーツ券つまりスイーツリナの整理券である。この間メイド部隊と騎士団の一部がスイーツリナでお菓子を食べすぎ太り職務に影響が出たため、サンディとリナ、マリアが相談のもと週に1人2枚チケット方式として発売が再開された。
今、裏では転売行為が相次いでいるがサンディ達は黙認している。
「わかった。取り寄せよう。」
サンディは何も考える事なく即答する。
なお、サンディは身内とのこともありスイーツ券の取り寄せが可能な2人の人物のうちの1人である。もう1人はご想像の通り陛下である。それでもサンディが目を光らせており太りそうな傾向が見えたらすぐにストップをかけて騎士団員と共に訓練を受けさせる事にした。
しかしそれも、あまり効果はない。
騎士団の馬鹿どもが陛下のジャージ姿を見て興奮しているため(特に胸やポニテにした首筋、足回りを如何わしい視線で見ているため。マリアはわかって見せているが)ともあれここ最近はサンディと一対一で訓練をしている。
そして明後日からリベリシュ遠征のためにサンディはまた王都を留守にする。その時陛下を止めれる人間はいなくなる。
「で何があった。」
ギムレットの視線が(お願いしますやめてください)と土下座している。
「ギムレットがですね団長の事、女性として見ていないことが判明しました。今回の遠征、エリシア殿が唯一の紅一点との発言がありました。」
それを聞いた団長だが、そんな事だろうと予想はついていたのか実に淡白である。
「そうか、その事か、まぁ良いだろう、いつでも始末できる。最後の晩餐だ楽しませておけ。」
団長の去り際アキャキャキャと悪魔の笑い声がギムレットには聞こえた。
「あっそうだギムレット、私が明後日から王都を離れるだろ」
団長は如何にも今思い出したとばかりに振り返る。団長が帰って気を許したギムレットは飛び上がる
「高く飛んだな。私が王都から離れるだろ」
今日の団長は変な物でも食べたみたいだ。
いつもならすぐに〆ているが今日はそんな素振りすら見せない。
「お、おっしゃる通りかと」
「それでだ」
「・・・なんでしょうか?」
今のギムレットの心臓は既にパンク状態である。団長からどんな酷い躾がされるのか嫌だという思いが心臓の鼓動として現れる。
「それなんだよ。私が王都を離れる」
「え、えぇ聞いております。」
「でだ最近騎士団の一部とメイド部隊の面々が太り始めた。」
騎士団の一部がつまり三馬鹿トリオである。それ以外にもお菓子の魔の手に捕まったものはいるが。
「そ。そうなんですか」
ギムレットも心当たりはあるのか目を背ける。
「それで陛下も少し太り始めた」
「・・・・・・」
流石の口軽ギムレットもこればかりは何も言えない。陛下が太ったなどサンディ以外のものが言えば、それは死を意味する。
「私が王都を離れる間、陛下の子守り係必要なんだお菓子を食べさせないために。リナちゃんにも言っておくが心許ないだからギムレット、君に重大な使命を与えよう。陛下がお菓子を食べすぎないよう目を張っていてくれ?ダイエットの方は私が人選しとく」
サンディは呆然と立っているギムレットの肩を『頑張って』と言いながら叩き、自分の執務室に帰っていく。
サンディはとうとうリベリシュに向けて旅立つこととなります。今現在陛下に首輪をつけれるのはサンディだだ1人。そのサンディが居なくなったらあの陛下何を仕出かすか・・・想像しただけでゾッとする。
大臣達は大変なことになるんだろなぁ〜まぁいいか大臣だし。
三馬鹿はいつも通り過剰にリアクションしますねまるで今生の別れ的な感じでまぁ、その方がサンディにとっては都合がよさそうだ。




