出費とため息
幹に寄りかかるように放置された放心状態の勇者ディグラスとそれを遠巻きから見ていたブラム、ワジル。ブラムはゆっくりと勇者ディグラスが寄りかかってる木の反対側に座り込む。
「なぁ、お前さん、騎士団内でなんて呼ばれてるか知ってるか・・・屑だとか馬鹿だとかまだ甘い方だ、クソ野郎勇者って名前だと思われてるぜ、サンディなんか死んでも構わん言ってやがるよ。今日なんて一層の事、暗殺された方が楽だって言ってたよ、これ以上護衛する必要も無くなるからな。
サンディはあれでも大人しい方だ、去年の件で陛下からキツく今年は言われたからな、手を出すなと、だからこそ手は出さなかった。
だが先代勇者とサンディは同じ釜の飯を食った仲だ、こう言ったちゃ悪いが孫であるお前よりもサンディの方が先代勇者を知っている。それも全盛期を1番輝いていた時を。
お前さんは先代勇者の孫だとか爺様がとか散々喚いてたよな、ならサンディは勇者パーティと共に世界を駆け巡った最後の生き残りだ。」
ブラムは言いたいことを言い切ったのか立ち上がり、ワジルを連れて帰る。
「ワジル、俺の部下じゃないが帰るぞ。」
それに頷き、ワジルもついて行く。
「勇者ディグラス。俺らは帰る、外の奴らにはお前さんが1人で居たいから離れてくれ。って言われたことにしてやる。あまり長居はするな心配される」
勇者ディグラスは何も言わない視点すらどこを見ているのか見当もつかない状態である。全身の力は抜け両手はダラーと垂れている。
どこまで聴こえていたのかそれ自体も不明である。
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ブラムとワジルはサンディを追いかけるために走る。
「サンディの秘密まだまだあるぞ、あの性格だ全く身の上話はしないんだろうな」
全く息も上がらず同じフォームで走るブラムと息は上がっていないが出鱈目なフォームで足音立てずに走るワジル。
「でしょうね、我々は陛下にのみ忠誠を誓ってます・・・・陛下を守るのであれば身の上など必要ではありません。」
「本当馬鹿な奴らだな直轄騎士団は」
「それが我々ですよ、団長」
「ブラムで良い団長が2人じゃ面倒だ」
呼び捨てで構わんとブラムは言う。
「そうですかわかりました」
ワジルはそう言うと目の前に見えて来た団長の背中に声をかける。
「団長!」
声をかけられた団長は振り返り笑い、走り出す。
「団長!逃げてどうするんですか!」
「団長も団長だな!馬鹿だらけだ直轄騎士団はあははは!」
「そんなこと言わないでブラムも言ってやってくださいよ。」
「昔からあいつはああいう奴だよ!もう変えられーよ」
「お前ら!用があるなら追いつけ!」
20m近く先を走る団長がそう叫ぶ。
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団長に追いついた2人は団長を捕らえてそのまま国営墓地を後にすると勇者を待つ大勢の観衆と勇者の世話係が待ち構えている。
「ディグラス様は?」
髭を生やした執事風の老人が声をかける。
「1人になりたいそうだ、」
言い訳を考えたブラムがその老人に対して説明する。だがその老人は不自然そうな顔を見せる。
「セバスチャンも大変だな勇者の世話なんて」
「大変ですよ、しかし私は先代勇者に恩があります。あの時返せなかった恩を今返さないと」
サンディはセバスチャンのことを知っているのかフランクに声をかける。
「サンディ様、とうとう堪忍袋が切れましたか」
セバスチャンは周りに聞こえないよう小声で問いかける。
「まぁね、少し檄を入れてあげただけよ」
「サンディ様。こう言ってはなんですが少しばかり聴こえてました」
セバスチャンは言いにくい事だが、正直に話す。
「どこら辺が?」
「先代勇者の名を穢すなと言ったあたりです。」
そう言われた団長には羞恥心などなく本当のことだと言いたげな顔をしている。
「本当の事だ。あいつはアレクトの名前を汚しすぎた。」
「ええ。私もそう思います。」
セバスチャンも同じことを思っていたのかそれ以上は言わない。
「そう言えばセバスチャン、馬鹿勇者が最後に変なこと言い出したんだ、アレクトはディグラスこう言ったって力があるってどう思う?」
「それはないでしょう先代勇者は、晩年もふらっとどこかに冒険に行く方でしたたまに帰って来ましたがそもそも先代勇者が亡くなったのは10年前その時ディグラスはまだ6歳でした」
「誰がそんなことを言い出したのかだな」
「ここだけの話、先代勇者様がお亡くなりになられたのはリベリシュでした。そこから我々が先代勇者の死の報告が来るまで数年かかりました帰って来た時はすでに灰でしたが」
「だから?」
「影武者疑惑があります。サンディ様はその頃王都には戻って来ませんでしたよね」
「あぁ、死んだって私のところに連絡が来て、それで久しぶり王都に戻った、そのおかげで陛下に使えることになりましたが。」
「その数年間屋敷に出入りしていた先代勇者は影武者だということです。もしかしたらそれがディグラス様に何か吹き込んだのかもしれません。今となっては闇の中ですが。」
「・・・私がいない間にそんな事がね、」
団長がそう考えていると群衆と化した観衆から黄色い歓声が上がる。
無駄にイケメンなせいでこんな終わってる性格でも真実を知らない民衆やおばさま軍団にとっては勇者とはそういう存在である。
勇者ディグラスがトボトボとお昼の太陽に照らされ手を挙げながら墓地から出てくる。
ここからは遠くて表情まで見えないがサンディの目にはやつれた顔した勇者ディグラスが見える。
「では私はこれで。ディグラス様のところに行かなければ」
セバスチャンはディグラスを迎えに行こうとするがその背中にサンディの嫌味が投げられる。
「ちゃん躾けてくださいね」
「ええ、できる限りどうにかします。」
セバスチャンはディグラスを追いかけるために再度歩き始める。
「さて、飲みに行くか2人とも」
今年1番のストレスがのしかかる勇者の護衛を終え、団長は両肩に乗っていた重石が取れたのかすでに足は居酒屋の方に向かう。
「良いですね行きましょう。」
ワジルも一切不審に思う事なく、団長の意向を汲む。
「流石はサンディの部下だな。部下は上司に似るって事か」
ブラムは嫌な予感がするのかついて行くとは言わず、やんわり払わない姿勢を見せる。
「どうですか?ブラムも一仕事終えた後の酒は格別ですよ」
団長は何か策略でもあるのか執拗にブラムを誘いたがっている。
「いえ、お共したいんですけど、そのですね。」
ブラムはなんとなくだが、連れていかれたら最後オレが歩く財布になると気づき始めた。
「なになに?どっか予定でもあるか?不倫か?奥さん悲しむぞ」
サンディは雰囲気に酔い始めたのか少し口調がおかしくなり始める。
「そんな事はしませんよ」
「夫婦仲には時より油を入れて燃え上がらせないといけませんよ〜」
「油だと適温を過ぎて高温になりますよ」
サンディのアホな言動にはブラムも慣れてはないがおごりだけは避けようと必死だ。
「わかった、じゃ、明日ブラムのところと私のところで合同で飲もう、全額、金払わせされば問題ないよ人数多くなればそれだけ巻き上げる金も増える。そうすればブラムも奢りじゃ無くなるだろ」
ブラムの魂胆などサンディにはお見通しだったみたい
「そうだ、リナちゃんにスイーツも作ってもらおう。決定だ!よし、私は店を取りに行こう約100人な全員が入る店なんてない50人ぐらい選んでおいて」
言うだけで言い放ちサンディは早速店をとりに行く。
「時間は?」
「朝9時から飲むぞ!」
ブラムははぁ、とため息をつく。
「なぁ、陛下直轄騎士団はいつもこんな感じのか?」
「いえ。いつもではありませんな。団長が精神的ストレスを多く抱えたらこうやって騎士団全員で発散させる事はありますが、割り勘で、もれなく全員死ぬほど飲みますが、それが何か?」
それを聞いたブラムはさらにため息が重なる。
勇者も大変だな
騎士団も大変だな。
平団員も大変。
つまり全部大変。何それ嫌だ。




