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将希の異世界日誌  作者: 雄太
勇者編
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サンディの災難

 

 王城の堅牢で重厚な扉がゆっくりと開くと勇者が姿を見せ音楽はより一層勇者を歓迎するように華やかになり、その音色に背中を押されるように勇者は王城をゆっくりと後にする。


 その姿はサンディも見ているが、・・・・。


「俺は勇者だッ!!」


 勘違いした悲しい勇者はそう喚き散らかしながらサンディが待つ馬車にまで歩いてくる。残念なことにその声は音楽隊によって掻き消される。


「なんで俺が歩かないといけないんだ!おい!お前馬になれ!」


 音楽隊にそう叫ぶが統率の取れた音楽隊は無視して自分の任務を続ける。


「・・・・・」

「どいつもこいつも使えね!」


 こんなバカで腐っても勇者である。すぐに持て囃されてアホになる。特に地方では勇者とは力の証として今もその信仰が根強く残っている。勇者が立ち寄った地方の都市では先代勇者が残した伝承が数多く残されている。


 先代勇者が入浴したと言われる温泉

 先代勇者が宿泊した宿

 先代勇者が使ったトイレ

 先代勇者が歩いた道

 先代勇者が買い物をした露店

 先代勇者が触った赤子

 先代勇者が名前をつけた赤子

 先代勇者が自分の短剣を渡した子供

 先代勇者が使った食器

 先代勇者がリンゴを落としたおばぁさんを助けたところには石碑が建てられている


 などなど先代勇者はそれだけの人物であったことが伺われるが・・・今代勇者は王都から離れると多少の地域では歓迎はされるが、王都に近くなると嫌われることが多い。実力行使は少ないが街全体が暗くなることは時よりある。


 そんなことをしていると勇者ディグラスは歩いて馬車に乗り込もうとするがわざと戻ってきたサンディと偶然鉢合わせる。


「げっ!テメー!」

「あらら、今日はおむつ。履いてますか?」

「テメーは!あの時のババァ!」


 サンディは珍しく剣を抜かない。いつもであればすぐさま首が落ちるが今日はマリアに散々説得され剣は抜かないようだ。

 そもそもサンディであれば片手でも勇者などには勝ててしまうが、それ以外にもギムレットやワジル、王立騎士団長ブラムでも勇者に勝てる実力がある、


「あの時の威勢はどこ行ったんだ?あ?今日は陛下に首輪でもつけられたのか?ギャハハ、ペットか!良い身分だ!似合ってる」 


 サンディが何もしてこないことをいいことに勇者ディグラスはさらに付け上がる。


「私は今日は剣は抜きません、剣など抜かなくても勝てますので」


 サンディはサンディで勇者に向かい挑発をかける、マリアからは言葉による挑発は止められていない。


「なんだと!テメ!調子乗ってるのか⁉︎」


 調子に乗っているのはどちらなのかわからないが勇者ディグラスは檻に入れられた犬である安全圏から吠えまくる。一方のサンディは襲ってこないとわかっているから安心して挑発出来る。


「さあ?なんのことでしょう、去年、漏らしたのは貴方では?記憶にありますか?」

「そんなことを忘れたよッ!」


 勇者は腰に付けたロングソードを抜こうと手をかけるが。


「それを抜いたら、赤い噴水ができますよよろしいですか」


 つまり首を落とし天然の噴水を作る。


「勇者様時間が押してます馬車に乗ってください」


 サンディがさらなる挑発をするが2人の間に割り込むのように同じく騎士団長であるブラムが止めに入ると勇者は剣から手を離し思っ切り地面を踏みつけて馬車に乗り込む。


「覚えてろ!殺してやる!」

「はいはい、わかりました早く乗ってください時間が押してます。」

「俺に触るな!」


 ブラムは勇者ディグラスを押し込みドアを閉める。窓からは鬼の形相でこちらを睨む勇者ディグラスが見える。


「サンディ、あまり怒らせないでくれ中でも煩くて大変だったんだ」

「それはそれはご苦労様です。」


 ブラムのため息だけがその場に残りサンディは列の先頭に向かう。そのブラムはその背中を見ながら馭者として馬車に乗り込む。


 団長はそのまま団員達の真ん中を歩き先頭に出ると列は最後尾につけた音楽隊の演奏と共にゆっくりと前進を始める。


 ●


 約1時間の行進の末、勇者の車列は国営墓地に着き、王立騎士団長ブラムが勇者の乗る馬車の扉を開ける。通りて来た勇者ディグラスは観衆に手を上げ答えるが・・・


「もっと揺れないようにしてくれても良いと思うけど」


 ブラムの周辺にしか聞こえないようにそう言うとブラムは勇者からは見えないように舌打ちする


「申し訳ございません、これが最上級の馬車でしてこれ以上のものはありません。」

「そんなことわかってるよ!そもそも俺は二流の馬車なんかのらねぇーよ!このクズが、役立たず!」


 勇者ディグラスは捨て台詞を吐き捨て、1人先代勇者の墓に向かう。その5歩後ろをサンディやブラム各騎士団の団長とワジルの3名が護衛としてついていく。


「本当に暗殺されても良いと思い始めて来ましたよ、サンディ」


 1番近くで暴言を吐かれたブラムはそう言う、その顔は心なしがきなり疲れている。いつもは暴言を吐く側に立っているが今日に限っては吐かれる側の気分がわかるのであろう。


「でしょ、本当、殺されても文句は言えないわよ、ブラム。それで暴言を吐かれる側になった気分は?」

「思ったよりキツイものがあります、私は部下にこんな事を言っていたんですね」


 何故かブラムは懺悔を始める。


「貴方宗教は信じていないのでは?」

「王立騎士団と言う宗教に入ってますよあはは、」


 相当勇者ディグラスの暴言が心に刺さっているようだ案外ブラムは打たれ弱いのかもしれない。


「末期ね」


 一言ボソッと漏らす。


「どう?ワジルは見てて」

「私もあれはダメそうです、そもそも私と勇者、信念が全く違います。」


 ワジルも嫌だと言うが2人とはまた違う感じであるようだ。


「それでワジル、ワジルの理想は叶っている?」


「まだ道半ばと言ったところでしょう・・・・・街を歩いていてもいまだに裏路地には身寄りのない子供が多くいます。いくら私でも全ては救えません。かと言って一部だけをを救えば軋轢が生まれる。」


 ワジルの脳裏にはパルク、リベリシュ、そして王都で見て来た、数々の光景が浮かんでいる。わざと裏路地を歩くとすぐ見窄らしい格好をした子供がスリを働く、ワジルも被害あったがその姿を見た瞬間、止めれなかった。


 盗んだ額が何日ぶんの生活費になるのかわからないがこれでこの子は当分の間は生きていられるそう思ってしまったら足は前に出なかった。


「しかし、着実にこの国は変わろうとしています。笑顔の子供が増えました。それが証拠です。子供が笑顔でいられれば良い国と言えるでしょう。我々大人が子供達を笑顔にさせないと、我々が苦しんでいるのであれば子供達はすぐに気づきます。貼り付けた笑顔ではすぐバレてしまいます。」


「変わって来たか、で、貼り付けた笑顔というのは私への嫌味か?」


 サンディの目線がブラムを挟みワジルへと向くがそのブラムが口を挟む。


「サンディはいつも笑わないだろ貼り付けた事すら無いだろ、俺はサンディが笑ってる姿見たことねえよ、だろワジル」


 ブラムが口を挟むタイミングとしては良いタイミングだったが言ったことが最悪であった。


「ブラム貴方、一生笑えないようにしてあげようか?」


「・・・いえ結構。」


 サンディの方が凶悪な笑顔という意味では勝っていたようだ。


「そう、なら黙ってて」


「「・・はい」」


 サンディの今年1番の笑顔のもと2人はほぼ同時に調教が完了した。


「おい!後ろ、さっきからうるさいぞ!俺は勇者だお前らは黙ってついて来い!この鈍間!」


 勇者ディグラスは叫ぶが3人は聴いていない。いや3人はアイコンタクトを取り足を速めて勇者ディグラスを脇目に追い越す。


「おい!俺は勇者だ!俺を抜かすな!」


「我々は鈍間と言われので少し早く歩いただけですこの鈍間」


 サンディはいつもの仕返しというように言う。

 ブラムは振り返ることなく勇者を置いてさらに先に向かう。


「私はこういうことは好きではありませんが仕方ありません。」


 ワジルは少し考えたがブラムと同じように勇者ディグラスを置いていく。一方のサンディは立ち止まり振り返ると勇者ディグラスも立ち止まる。


「な、なんだよ!」


 サンディはにっこり笑い腰につけた鞘に手を当てる。


「今年もこれで微塵切りにされますか?

 今年は、おもつを履いていると聞きましたが?準備万端ですね」


 カラカラカラと金属が擦れる音がしレイピアの刃元が太陽に照らされ鈍く光る。


「っ!き、貴様!殺して・・・や、る?・・」


 サンディはレイピアを抜くことなく勇者ディグラスの首をトンと叩き気づいた頃には地面に向かって倒れる最中であった。サンディはそれを受けとめ引き摺る。


「うるさいので少し躾けました。」


 国営墓地は今は先代勇者の命日ということで完全封鎖されておりここにいるのはサンディ4人のみ。それを良いことにサンディは日々の恨みなどなどを勇者ディグラスで晴らす。


「静かになりましたか、丁度うるさいと思っていた頃です、さてこの丸太どうしましょう?放置するのも流石にではありませんね、放置しましょう、こうなったらサンディは後で大目玉だな俺のせいじゃないし良いか。」


「あとが大変なことになるのでは?団長。勇者に手を出したら2度目はないと陛下よりキツく言われているのでは?私は関係ありません」


 実力行使はしなかった2人は保身に走る。


「起きた時に自分で転びましたと言えばどうにかなるのでは?幸い目撃者は2人、いますし、勝手に躓いて転んだことにすれば言い逃れできるかと、どうですか?2人とも」


 団長はにっこり優しく2人に問いただす。ここで言える答えなど一つしかないが団長はわざと言葉として答えを求める。


「私は勇者が転んだ場面は見てないしサンディが手を出したところも見ていない見ていない」


 騎士団ブラムは何も知らない、音がして初めて気づいたそう弁解する。


「俺も同じく、転んだ現場は見ていません、団長が手を出したようには見えませんでした。」


 ワジルも大筋はブラムと同じである。目撃はしていない、音がして後ろを向いたら勇者ディグラスが倒れていたそう証言する。


「2人とも良い子じゃないの、珍しくわね、それじゃこの屑を向こうまで運んで、2人ともお願い。」


 しかし2人は嫌な顔を見せる、


「私、か弱い乙女だから重くて運べないの〜」


 何度も庇護欲を感じさせられる言葉とポーズだが何故だろう2人には全く効果はないようだ、それ以上に何言ってんだコイツ、と思っている。実際態度にも出ている。


「騎士団員がそんな態度でいいの?」


「・・・サンディそれは通用しないぞ、何が乙女だ」


 ブラムはやれやれと言った表情である、


「どっちにしても勇者の死体なんか運びたくない。」


「団長、まだ死んでいません、生きてますよ・・・」


「丁度ここは墓地だ埋葬してあげるか面倒だか、ワジル足持て」


 上司でもないがブラムは勇者の肩を持ちワジルも諦めて脹脛の辺りに持ち上げる。


「では私は誘導をしよう」

「そうしてください、ちゃんとしてください。」



とうとう勇者ディグラスに手を出した騎士団長サンデ

ィ。幸いにもここにはこの3人以外の目撃者はなし。口裏を合わせどうにか切り抜ける。


サンディさんが嫌ってる理由がわかった。ありゃー嫌になるわな。ブラムなんて数十分で疲れ果ててるし。


大変だなー(他人事)


大人が子供達を笑顔にしないといけない。

大人が貼り付けた笑顔で会社に帰るのであれば、子供はすぐに気づく。

子供が笑顔で、笑えのであれば、大人達も楽しいという証拠ではないだろうか。


子供達の笑顔がないのであればそれは国とし成り立っていない。

大人達の偽物の笑顔は子供にも伝播する。



勇者が使ったトイレ?(笑)何それ。

先代勇者に比べ今代勇者はあれである。


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