ワジルの過去と今
ワジルはほとんどの団員が寝た直後、手を叩き起こそうとする。
「お前ら!お開きだ!起きろ!」
夢の世界へ旅だった団長に変わりワジルが仕切り始める。
所々呻き声や喚き声が聞こえるが誰も起きようとしない。
事情を知らない第三者が見たらそれはアンデットをれんそうするだろう。
団員達は各々、テーブルの上や椅子の座る部分、ソファーにブーメランのようにもたれかかり、床に大の字、壁に頭叩きつけて、テーブルの下に潜り込んでソファーの背もたれの後ろ入り込んで窓から首を出した首なし遺体が4つ。うぅ、と、気持ち悪い声を出す。
そして壁に寄りかかり、ジョッキを大事そうに抱え込んだまま寝た団長。
で深酒のし過ぎて皆死んでいる。
「はぁ、なんで遺体ばっか増えるのだろうか。」
「大丈夫ですかワジルさん。」
ワジルのため息に反応したのか裏で休んでいたミーシャがやってくる。
「大丈夫に見えるか?これで」
「見えませんね、ほとんど死んでいますし。かわいそうに」
ミーシャは見たままの光景を口にする。団員達が戦場の死屍累々のように横たわり。一部の遺体の顔の周辺には虹がかか股は変色し、窓の外では三馬鹿と将希が虹を掛けている。
「一層の事死んでもらった方が後始末が楽そうだ。はぁ、やれやれだな。」
「死んだ方が厄介では?」
「そうでもない、死んだ方が後始末が楽なんだ、だって死にましたって上に報告すればって、その上も死んでるのか、やっぱ、どっちも面倒だ。」
騎士団員は識別番号を書いたプレートを鎧であったり首元につけることが義務付けられている。もし死亡した場合それを回収して初めて死亡が認定されるだからこそ一部の騎士団員は誰しもが触れたく無い場所に着けている不届き者が居ると。過去にそんな疑惑が湧き上がった事もある。
今では行方不明から1週間で死亡扱いにしている。それでもまだ不完全である。たまに1週間が経ち正式に死亡が認められた後に戻って来た者も時々いる。
「そうなんですね・・・なら起こさないとですね。」
「起こしたいけどね、」
「なんか毎年こうやって飲み倒れて、毎年お父さんとこうして話してる気がしますね。」
「気、じゃないよ。毎年してるよ、去年も一昨年も、ミーシャがここで働いてから毎年同じ事を繰り返してる。はぁ、ため息しか出ない。」
「そういえばそうですね。レディに年齢の話をしていけないのでは?」
「あぁ、悪かった。どうせどんな奴らでも年取るもんだ、団長だってエルフの末裔だ。あの見た目で何万年生きてることやら。俺だって今年で45だ『引退』の2文字かもう遠くない手の届く範囲に近づいて来てるよ、ここに通い始めて早五年か、年取ると時間が早く感じるって言うが本当なんなだ、」
ワジルは過去のある日の思い出に蓋をする。
街を人混みが埋め尽くす。
まだ目線は他人の腿にある。
そこら中で人々の笑い声、歓声が響く。
目の前から向かってくる男、血走った目手に持つ鈍い銀色の光を放つナイフ。
手を繋ぎ楽しそうにはしゃぐ子供とそれを嗜める女性。
目の前の異変。人々が、割れるように左右に動く。
女性はそれに気づきその子を守るのように抱え込む。
一瞬、女性の身体がぐらっと揺れる。
強く握られる手。
音もなくその手に流れる生暖かいサラッと液体。
響き渡る悲鳴。
逃げ惑う群衆。
力無くその子に倒れ込む。
その子は力の限り、叫ぶ 叫ぶ 叫ぶ 叫ぶ
女性は口内に血が混じりながら喋る。大丈夫。大丈夫。だが一言喋るごとに血が飛ぶ。
その女性は子供にそう優しく声をかける。
だがその子は叫ぶ。
血のついたシャツだけが子供の記憶に絶対忘れることのない記憶として残る。
その子は今も血の色だけが残った自分のシャツの切れ端とその時その女性が着けていたネックレスを未だに身につける。
俺と同じ不幸な子供を1人でも助けるために。自分の道が見えなくなった時必ずそれ握る。そうすると目の前にはその女性が『大丈夫』と言い背中を撫でる光景が今も見える。
「まだ思い出すのですか?お父様。」
また、喋らなくなったワジルを見て背中を摩る。先程までの仕事口調ではなく家族としての口調に変化する。
「大丈夫。大丈夫。悪いなミーシャ。お前は関係なのに。」
自分に言い聞かせるように呟く。
「関係ないことはありません。私はお父様の娘ですお父様のお母様は私のおばあちゃんですから。私に力があれば団長さんみたいな強い人になれたのかもしれません。」
「いや、あの人は例外ってやつだ。」
ワジルは少し笑う?ミーシャにはそんな風に見えた。
「うちの団長は規格外に強い、化け物だよ」
「誰が化け物だ!」
ワジルは顔が青ざめ、すぐさま団長に視線を投げる。
「寝てる・・・」
団長は寝言を言っただけであった。もしかしたら実際に聴こえていたのかもしれない。
「そう言うこと言うから〜」
「実際事実だ。」
そう言うと足元に這ってくる大の大人の影を見る。その影は「酒にはつまみだ!」と喚いている。
「まぁ。いいや、今日は帰るわ。こいつら連れて帰らないと。ミーシャ、修理代と、清掃代と、迷惑料は、騎士団につけてくれ、後で払う、多少水増ししても文句は言わない。はぁ、」
やつれた声がポツリポツリと出てくる。
「わかりました。」
「起きろギムレット、」
ワジルの脛に齧りつこうとするギムレットを蹴り上げる。
「!イッテ!何すんだよ!」
床に自由落下し起き上がりケツを摩るギムレット。
「帰るぞ!」
「まだ始まったばっかじゃねえか」
ワジルは頭を抱える。
「お前今何時だと思ってる」
「ん?まだ6時じゃないのか?」
「0時過ぎたよ!!このアホ!」
ワジルは目を見開き、このアホを思っ切り怒鳴る。
「大きい声出すな!何が0時過ぎた?何を馬鹿な・・・馬鹿な事を?」
ギムレットはまだ頭が回ってはいないようだが壁にかけられた時計は認識できた。
「ありゃりゃ、本当だ。・・・・え?」
やっと頭が冴えて来たようだ。酔っていても時間はわかるようだ。
「それに言っとくが酒が切れた。予算足りるか?」
「酒代だけだろ?持つに決まってる。足りないなら追加すれば良い」
偉そうにそう言い切るギムレットだがワジルがギムレットの体を持ち上げおねんねして大惨事となっている団員達の方を向けさせる。
「・・・持つに、・・・」
言葉を失うとはこう言った事を言うのだろう。ギムレットのその目には床に紐が切れた操り人形のように力無く倒れている死体の数々が目に飛び込んでくる。
「わかったか?。飯代だけじゃない。修理費、清掃費、慰謝料、あとなんだ。まぁもろもろ、だ。」
もろもろにかなりの意味合いが入っている。
「こいつら連れて帰るぞ。連れて帰らないと、寝かせるなら墓地にしないとな」
「台車、使います?」
「おー、ミーシャか、久しぶりだな一年ぶりか?」
ギムレットが下心丸出しで近づくが2人とも無視する。
「うん。そうだな貸してもらえるか?」
「はい大丈夫です?」
「ミーシャ?聞こえてる?おーい?」
「明日、返しにくる、」
「何か美味しいもの持って来てもらえます?」
「わかった、考えておく。美味いスイーツの店があるんだ。そこでなんか甘いもの買ってくる。」
「おーい、聞こえてる」
「お前は黙ってろ!」
ワジルの足がギムレットの胴に入る。
ギムレットの影だけがその場に残りその本体は姿を消す。
「人の娘に手を出すな!」
「お父様、かわいそうでは?」
「このぐらい当然だ。それで台車どこだ?」
「今、持って来ます。」
ミーシャは裏に台車を取りに向かう。
ワジルは飛んであったギムレット本体に近づき。その隣にしゃがむ。
「どうするつもりだ?ギムレット、落とし前つけてくれるんだろうな、人の娘に手を出して生きて帰れると思うな。」
「イテテテテテ。何すんだよワジル!」
「帰るぞ、これ以上お前たちがここで寝てたら迷惑だ!」
「そうかよ、団長は?」
ギムレットはゆっくりとわざと時間をかけてゆっくり起き上がる。
「団長なら墓地でおねんねしてる」
「してない!」
「本当に起きてるんじゃねえか?」
またも寝言で反応する団長。そして先ほどのワジルのようにすぐ振り返るギムレット。
「なんだ寝言か、」
ほっと胸を下ろし、笑みを浮かべる。
「寝てるなら何にも聞こえるはずない 多分そうだろう」
ギリギリ聞こえるほど小さな声量でギムレットがぶつぶつ呟く。
「何言ってるんだ?」
「こっちの話だ」
「そうかよ、」
ギムレットはイヒヒと嫌な笑みを浮かべ団長に近づぐかその前に台車をミーシャが戻ってくる
「お父様〜台車、持って来ました」
「おぉ、ありがと」
「もう一台あるけど、他人たち寝てるんでしょ」
ミーシャは死んでいる団員達を見ながらそう言う。
「だからその人のも、ってことで2台持って来たよ〜」
そう言うミーシャの足元の台車には折り畳まれた台車が乗ってる。
「悪いなミーシャ。この馬鹿達のせいで面倒かけて。」
「いえいえ。だけどこれ1台に2人が限界だと思うけど大丈夫?」
そう言い台車を手のひらで叩く。
「大丈夫だ問題ない。起きないなら無理矢理でも起こす。途中で寝るならそこに置いていくだけだ。それに明日も仕事があるのだろ、大丈夫か?」
「大丈夫〜だってば一台あれば一応足りるし」
「そうか。まぁ明日なるべく早く持ってくる」
「わかった、お土産もね」
「わかってる美味しいものを持ってこよう。」
ワジルはそう言い手始めに壁に埋もれている団長のところまで台車を押して行き、そこに乱雑に団長を投げつける。
「痛いじゃないか」
「そう言ってるなら起きてください。」
「スピー。スピー。」
「はぁ。」
もう一台の方には窓から首を突き出し死んでいる将希を摘み上げ、乗せる。
「ギムレット、団長を持ってけ。」
「お前は?まさか逃げる気か?」
「いいや、そこで寝てるゾンビどもを起こすよ」
ワジルは適当な団員の横にしゃがみ込み振り子のように手を振り落とす。ばちん!そんな音が40数回酒屋に響き渡たる。その度に悲鳴と激痛に耐える呻き声が響く。
そして深夜にカタカタと台車の音と50人近い死にかけ騎士団員がゆっくりと転びながら宿舎に戻るのを目撃した住民は恐怖に駆られたと言われ、その次の日からゾンビ達を鎮めるために慰霊祭がおこなわれることとなった。そして三十年近く経ち、その祭りは子供達の祭りとなりハロウィンと呼ばれる行事が生まれることとなるがまだその時ではない
ワジルの過去は想像を絶するものがありそれが今、騎士団で部隊長に上り詰めた原動力となっている。
自分にみたいな不幸な子供を増やさないために。
だからこそワジルは今日も騎士団としての仕事を全うする。




