40話 新入団員グランド
「団長終わりました」
倒れた大男の後ろにはワジルが剣に着いた鮮血を拭いながら立つ。
「ありがとう、それで」
サンディの視線はワジルから座席の上で青ざめている将希に移る。
「何故ここに」
主語がなくても何の話か伝わるが受け取り手つまり将希がダウンしている。
「ダメそうね、」
「どうします」
床に転がっている胴体を跨いできたワジルは団長の隣に立つ。
「これ、しかないでしょうね」
床に転がった槍を拾い上げ穂に着いた鮮血を拭い、持ち手の部分で腹を突くが、
「起きなさい」
反応はない。死んでいるようだ。
「ワジル。将希殿を連れて行って起こさせて手段は問わない。」
ワジルは頷き、肩に将希に抱え馬車を降りる。
「お前達は団長に手伝え」
ワジルは降り際、集まってきた部下にそう伝え将希を宿舎の医務室に連れて行く。それは不幸の始まりであると彼らはまだ知らなかった。
その光景は誘拐犯のようにも思える。
サンディはわざと残した賊の1人に槍の穂を向ける。そいつは既に戦意を完全に失い壁にもたれかかる。
「で、お前達はここ最近市場を荒らしてる奴らだな、」
いつもより冷静さを欠く団長の前に賊の男はものすごい早い速度で頷く。
「じゃあ、何で彼を誘拐してここにきた」
そこまで言うと団長は一歩近づき、左腕を蹴り上げる。
「グヴ・・・」
今ので肘の関節が壊れたようだ。
賊はそのまま肘を抑えるように前に倒れ込むがその顔を団長は蹴り上げる。
「グッュ・・・」
賊は壁に打ち付けられ顔を上げる、
歯が何本か折れて飛び散り血が垂れる。
「もう1発要る?」
「はべります!命だけは!」
歯が欠け落ち、歯の隙間から舌が見える。
歯がないからか賊の発する言葉はかなり聞こえにくい。
「うん。いい返事ね」
団長はにっこりと悪魔のような笑顔を浮かべる。
「うわー」
「・・・」
ワジルの部下達は目の前で人の顔が壊れていく光景を目に焼き付ける。まだ、地獄の入り口であることを彼は知らない。
「は、おはしらが」
「頭ね、そこに転がってるけど、」
団長はさっき斬り飛ばした賊の頭を槍の穂で突き、それはゆっくりとワジルの部下の足元に転がる。それが部下のつま先に当たり転がってきた頭部と目が合うと部下達の顔色はどんどん紫から白に変わる。
「で。頭が何だって?」
「お、お頭がい、いしばであのおどこががね持ってるで言っでで、そ、それでゆうがい・・・しました。」
「うん。そう他には仲間いるの?」
「・・・・」
「うん、いい判断ね喋ったら仲間を裏切るでも残念」
団長はそう言い目に見えるスピードで賊の左足に槍の穂をゆっくり突き刺し足の中で槍を回転させる
「グュギャャヤ!!」
止めようと必死に踠くが腿の部分がズタズタになり膝上から2つ裂ける、神経からの痛みを感じなくなり踠くをやめた。
「ほら、君たち炎系のスキル持ってるんでしょ。ここ止血して」
血のついた槍で指し示す。
「何してるの?」
「・・・はい!」
ワジルの部下のうちの女性の方が賊に近寄りしゃがみ込み、手を当てると、ジューという音と共に煙が上がる。
「ギャャャヤ!!」
賊は痛みから叫び、美味しそうな肉が焦げたいい香りが漂う。
「どう、この匂い、美味しそうに思う?、私は美味しそうに感じるわよ」
ワジルの部下にとってはこれが夢であって欲しかった。しかしこれは現実、
一回美味しいと聞くと脳ではわかっていても鼻腔ではおいしく感じてしまう。
「あらら、寝ちゃたみたいね、」
賊の男は意識がなく壁を伝うように床に倒れる。
「まだ生きてるようね」
サンディは賊の手首を触り脈拍を確かめる。
「2人ともこいつの手足縛って口輪も付けて牢屋に連れて行って左手だけは回復さていいわよ、そうだあと歯も治しといて尋問がやりにくい。」
サンディは馬車を降り宿舎に向かう。
残された2人は指示通り手足を縛り口輪を付けて。引き摺るように宿舎に向かう。
●
翌日
サンディは大広間に各部隊長を集める。
ここに集まっている部隊長は6人残りは王都で陛下の護衛に当たる。
サンディの右隣に座るのは2番隊隊長ワジル。左隣に座る深く帽子を被った3番隊隊長ディルス。そして王都からのお目付け役。その他、略。
そしてサンディに対面する形で座る副団長ギムレット。
ギムレットの左側には3人男女が並ぶ。
(ん?、なんか見たことあるな、あいつだけどどこだっけ?)
将希は記憶を掘り巡らすが出てこない、サンディはそんなこと露知らず話出す。
「部隊長会議を始める。異論のある者は?」
団長は周囲を見渡す。そして誰も異論がない事を確認する。
「居ないようだな」
そう言い一息吐き話し出す。
「ではこれより部隊長会議を始める。
今回の議題は副団長ギムレットがスカウトした人材を入団させるかどうかだ。アドバイザーとして将希殿を同席させる。」
サンディはお誕生日席に座る将希に視線を送る。
「え?俺っすか」
「この通り会議には首は突っ込まない。異論のある者は」
そうすると部隊長の1人が手を挙げる。
「その者は何者ですか?」
手を上げたのは王都からカイブロスに乗り込んだ騎士団員ではなく、部隊長会議の為だけに招集された部隊長イリスである。余程のことがないと呼ばれる事がないからその声に不満の色が滲む。
「イリス、この者は陛下直属の宮廷料理人、私達、騎士団別働隊は将希殿にこの世界の食文化を認識させる為に陛下の命によりここにいる。これで満足か?」
「分かりました」
イリスは満足はしてないが団長に不満の色があるのを察してこれ以外は踏み込まない。
「では異論が無いようなので、ではギムレットその3人で間違いない?」
1人は女、線は細いがバネがあるように見える。1人は男、1人はフードを目深に被っているが体格はかなりでかい。
「あと1人いますがその者は戦闘タイプではなく後方支援タイプでしてここには招集していません、後日、招集予定です。」
「わかった。あともう1人に関しては私が時間を空けよう。ここリベリシュにいる間に会いたい行けるか、」
「大丈夫です。」
団長は全部を副団長ギムレットに丸投げする。
「やはりですか」
「あなたが連れてきた人でしょ説明する責任はあるかと思うけど」
ギムレットは団長はどうなんだって言う感情を押し殺して説明を始める。
「手前の女の子から」
「気持ち悪いな『女の子』って言い方がムカつく」
「団長の機嫌が悪いの知りませんが続けます。この子が最初にスカウトしたナナサ・ソーラ」
ナナサと呼ばれた若い金髪ロングは立ち上がる。
「ナナサ・ソーラです。」
一礼してすぐ座る。
「なんか喋ったらボロが出るそう言ってるように聞こえるな、まぁいいが。」
サンディは聞こえるように呟く。ギムレットはそんな事、意に介さず続ける。
「ナナサは東の都市リーズでスカウトしました、身体能力は建物4階まで飛べる跳躍力とスキルの向上を得た上で50mを最速2秒台で走れる力があります。」
サンディは頷き、次を促す。
「次」
ギムレットは一瞬言葉に詰まるがすぐ元通りになる。がしかしサンディはここでスキルの話したくないみたいだ。ハイエナ貴族の目を嫌がったのだろう。
「・・そうですか。では次、彼は南西の小さな町ニルスでスカウトしたギアラです」
「ギアラです」
立ち上がる事はせずその場で自己紹介する。
「立ち上がることぐらいしたらどうだ」
名前も知らない隊長から嫌味が飛ぶがサンディが制する。
「やめとけ、別に立ちあがろうと上がらまいと、私の知ったことでは無い。我々、陛下直属騎士団に必要なのは陛下に対する忠誠心とそれを維持できる実力だけだ」
冷たい声が会場を支配する。
普通の騎士団にとっては名前も知らない部隊長が言ったことが正論なんだろう、しかしここは陛下にのみ忠誠を誓う陛下直属騎士団。陛下の前でのみルールを守れば良しとされる風潮がある。常識の範囲内だが。
「ギムレット、続けてくれ。」
「分かりました、彼は剣術の才能を持っています私に10戦2勝しました。」
「ギムレットに?」
団長の目はギアラを見つめる。その目は一目惚れなどど言う優しい者ではなく、騎士団副団長ギムレットに土をつけたことに対する真偽を見ているようだ。
「ええ、まぁ最初2戦はお遊びで負けその後は全部勝ちましだが。」
団長はそんな事意に介さず「うん、」と呟く。
「副団長交代も視野に入れるべきかしら」
「団長ジョークは置いといて次は、ここリベリシュで昨日スカウトしたグランドです彼は騎士団の指南役を務めてもらいたい。」
グランドはフードを脱ぎその顔をあらわにすると先ほどからずっとサンディから放たれている冷たいオーラが冷たさを感じなくなるほどに冷たく鋭くなる。
あ〜ぁ、だからサンディさんはさっきからずっと不機嫌なんだ〜なんであんなに嫌そうな顔をしてたのかやっとわかった。目深にフード被ってて気づかなかったけどサンディさん気配で気づいたのか?グランドさんだって。
「何故俺がお前らに教えないといけない?立場を弁えろ、若造」
ギムレットが例のギルド支部長グランドを連れてくるなんて団長にとったら悪魔なんだろうな。
まぁ支部長やる実力はあるんだからギムレットの目は間違ってはないんだろうな。選んだ人物を間違えたけど。
それで賊はどうなったのか。かわいそうに。知りたくない。さぞ酷い死に方をしたんだろうな。人間に生まれて後悔するほどにだがあんたらはそれ以上の事をしている。




