鑑定の弱さ
グランドはまたも将希ごと剣を弾き飛ばして木刀を投げ捨て左手を前に出しファイデングポーズを取る。
「木刀が無くとも将希殿には勝てます。」
懐に考えなしに入ってきた将希をグランドは少し左に避け躱す、それに反応した将希だがすでに脳天に拳が入り意識を失い倒れる。
「勝負あり!」
その声と共にグランドは木刀から力を抜く。
「基礎体力を増やす必要がありますな、今のままでは冒険者にもなれない、サンディ様は対魔物のプロですなので対人には弱く、倒せた、しかし私は魔物だけでは無く盗賊などの対人戦もやります、その差がこの結果となった、しかし基礎体力を付け、対人そして基礎訓練をすれば強くなります。」
グランドはそう、今の将希の現状を突きつける。グランドの言っていることは何一つ間違っていないだけに将希の身に染み込むだろう。
「サンディ様、今のままではランクをつけることはできません、なので強化指定冒険者にします、」
そもそも彼はスキルを使った気配がなかった、何故使わなかったのか?それともスキルの使用には制約があるのか?例えば炎系のスキルは火山や火の周りでは威力が強くなることが知られている、逆に水場周辺では弱くなる。将希殿のスキルもその一端と見るのがいいのか。例えば条件でもあるのかそれは本人しか知らないだろ、それか本人も知らない何かがあるのか、そこまでは私にはわからない。
どちらにせよ面白そうだ。サンディ様も気付いている様子だが何も言わない、こちらもこちらで何か隠しているように見える。試されたのは将希殿では無く、私が試されたなんてな。そんな事ないだろう。
「強化指定冒険者ですか、今回は妥協しましょう、一応魔物は狩れますし、」
サンディは倒れている将希を回復スキルを使いながら起こす。
「高ランク帯はできませんよ、出来るのは小型の魔物のみですそれも上位の冒険者に同行した場合のみ。」
「なら私がいる、ランク最高位Sを持っているこの私が」
「ランク最高位。そこだけやけに強調するじゃねぇか、お飾り団長」
「あらら、引退しても甘い蜜を吸うためにギルドに居着く、支部長」
「これは、これは、ランクがつけられないほどに弱い将希殿に負けたサンディ騎士団長」
「簡単に勝てる相手に勝てると思い込ませてズタボロに負かしたギルド支部長ではありませんか?」
ねえ、俺は?俺の入る隙がない。
この2人の冷酷な笑顔は将希が止めに入る余地をなくすほどに冷たく、尖っている。
「そう言えばいつ交代するんだ団長辞めるなら俺が引き受けてやるけど、面白そうだし、」
「支部長もいつ後進に身を譲り隠居なされるのですか?」
「騎士団長殿はいつ愛の巣を作るのですか?、そもそも騎士団長のお眼鏡に叶う相手が居るのかですけど」
「支部長こそ、いつ娘さんが独り立ちするのですか?今もギルドで雇ってらっしゃるとお聞きしましが?」
「団長こそいつまで裏口入団を続けるのですか?いつか爆発しますぞ」
「支部長こそいつまで『自分に勝て』なんて絶対不可能な条件でも試験を行いますの?」
「俺に勝てる奴が居たらそいつにギルド支部長の座は譲ってやるぜ、それで団長殿はいつまで走らせるだけの訓練をやらせているのですかな」
「死ぬまでやらせますよ、そもそも死んだものはいませんが」
「逃げた奴は大勢居るんだろ、ギャハハ」
「そいつらはそこまでの奴らですよ、支部長もいつまで自分が最強と言い張るのですか?」
「露骨に話を変えるね団長、そうだな俺を超える奴が居たらもう言わねぇぜ
まぁ、みたことはねぇが」
2人の冷酷な微笑みは視線だけで闘技場を破壊する印象を受ける。
「・・・、あの、そろそろ辞めませんか」
『負けた奴が口を挟むな。』
「はい、」
怖い何これ、そもそも俺スキルなんて使ってないのになんだこの支部長俺がスキル持ってるって的確に言い当てれたんだ?
しな事を胸に抱い将希とほぼ同時にネタバラシが起きる。
「そう言えば、将希殿」
支部長と言い争っていたサンディは唐突に話を変える。
「はい?なんですか」
「何故、グランドが将希殿のスキルを当てれたのか気になりません?」
まぁ、鑑定か何か持ってるそう考えるが当たり前だろうな。
「鑑定のスキルかなんかですか?」
「お見事、その通りですグランドは鑑定のスキルを持っており、大体のことはわかります。」
「気持ち悪い」
「ええその通り気持ち悪いです、」
「おい!スキルは変えられん!」
食い気味にグランドは話を遮る。
「気持ち悪いですよ、鑑定のスキルは全部がわかります、年齢、性別、種族、スリーサイズ。例えば、国家、派閥、反政府組織の所属など、それがわかれば間者の判定、テロの可能性全てがわかります。他にも職業、相手の持ち技、攻撃力、防御力、スキル全てがある意味最強であり最弱です。それに将希殿が異世界の旅人だと言うことも」
「それまで、わかるん。悪用したら何でもできるじゃねぇ、本当だな人の秘密を全部握れる。最強であり最弱、自分の力に溺れればすぐやられるってことか、」
そう将希は口にする。実際全てがわかったところで自分にそれだけの力がないならば勝てることはない。鑑定で相手の強さがわかったとしても、そいつに勝てる力がいる。
「鑑定ってスキル自体。この世界じゃ嫌われている、まぁ、そりゃそうだわな全てがわかる、嫌われるわな、ほんと最強であり最弱。過去にはこの力を頼り、国王まで上り詰めた。スキルが判明した時に殺されることもあった、貴族のおもちゃされた、それも自分にとって不利な奴を消すために」
グランドは誰かの半生のように呟きながら話すが将希がふと気づいた。
「ちょっと待ってグランドさんも?」
ほとんど説明してない将希の発言にグランドは肯定する。
「ああ、そうだ、細かいことはあんまり言いたくない、俺は知れるに悪いな」
「そう言うことなんです、グランドは過去の記憶を持っています、それも凄いことに全部、名前はグランド。」
「あぁ、そうなんだ、なんでだろうな?神の悪戯なのか、まぁ、おれにとっちゃ、そんなら鑑定なんてスキルこの世から消してくれた方がいいがな。将希、やっぱり強化指定冒険者は無しだランクEにしてやる最弱だけどなサンディと居るなら問題ないだろ、ニヒヒ、」
独特の笑い声を出しその顔が一気にキモくなる。
「そう言えば、お二人さんはカップルか?」
「違います」
サンディは真顔で即答する。なんで俺だけダメージ喰らうの?。
「即答かよ!悲しいな将希、がはぁはぁ」
グランド高笑いをして将希の肩を叩く。
「なんですかこれ?一方的に言われて一方的に振られた。そもそも俺には心に決めた人がいます」
「あぁ、あいつか」
グランドはそう言うと隣に立つサンディの視線がダメだと言っている。
(こいつ知らないのか?)
サンディの目が上下する
(知りません)
(何故教えない?)
(教える前に行き着くところに行きました、それで私が処理しときました。)
「まぁ、頑張れ将希、次いつ会えるんだ?キャキャウフフな彼女さんと」
「え?決めてません。」
「そうか、いいか将希、人生の先輩からの忠告だ、獲物は早く捕まえろそうしないと逃げられて鮮度が落ちる。」
「なんですかその肉食獣の考えは?」
「女って生き物は肉食獣より怖い。・・・ほら見てみろあの顔」
グランドはサンディの方に視線を流すそぶりを見せ、すぐ戻す、それに釣られた将希は見てしまった。冷酷な微笑みを見せるサンディを。
「今、何故私を?将希殿」
「・・・い、いや、その、あのですね、これはこれは、あれなんですよ、そう!あれあれって、あれなんですよ、だから、それの、これの・・・ですね」
言い訳をしようにも言い訳が全く出ずあたふたしている。
「まぁ、将希殿はそう言うお人です、しね」
「・・・」
「まぁまぁ、サンディ、将希の奴も悪気があってお前を見たわけじゃねぇよ、まぁ咄嗟に1番怖い奴を見るわな、」
そう。助け舟でもない助け舟を出す。
「2人は私が怖いとそうおっしゃる?」
「怖いとかじゃねぇ、将希はサンディ、お前さんのきつい訓練しか見てないんだろ、普段の愛らしい普段着なんて見せないんだろ」
何それ気になる、将希だがカチャと甲高い音が鳴りサンディの手元を見ると腰に備え付けられた予備のレイピアがグランドの首元にぴったり張り付いている。
「それ以上、言ったら、殺しはしないけど血で入れ墨でも掘ってあげようかしら?」
いつも以上にこれには冷たさが張り付いていて一言一言が刺さるように痛いと感じる。
「降参だぜ」
グランドは両手をゆっくり上げ、サンディもレイピアを鞘に戻す。
「チッ、残念ね試してみたかったけれど」
「人を実験台にすんなって、」
「実験ではなく実習よ、実物使って」
「おいおい、怖えーよ、お前そんなことやって何したいんだ?」
さりげなく、酷いことを言っているがこれでもまだジャブに過ぎない。
「さぁ?どうでしょう」
サンディはしらを切る。1番最初に刺青の被害に遭う可能性のある騎士団員達は今頃お出かけ中。
鑑定ってスキル強そうに見えるけど案外弱いですね。
結局スキルを持つ人間ががどう考えるかなんですかね。
スキルの有用性に気づき努力するのか
スキルの有用性に気づきスキルに頼るのか
どちらも間違いではないのだろう。
この場合、鑑定のスキルは全部がわかるだからそれを無闇に公表すればハイエナ貴族の餌となる可能性がある。
一方公表しないのならば、もし秘密をつい言ってしまった場合。何故それを知っているのと周りからは不審に思われる。
だからこそ鑑定というスキルは最強であり最弱の存在なのかもしれない。
使い方を誤ればその有用性で自らを潰す事になり
使い方が正しくもその有用性で自らを潰す事となる。




