遺跡都市と『死者の書』
「美味いな!なぁ、ベガ。この串物はなんだ?」
「羊のタマとニンニクだ。周りの奴らが普通に食べてるからな。実際美味い。あと、魚のすり身とジャガイモで出来たつくね串。これも美味いな。こっちは羊の頭を煮込んだものだ。見た目に目を瞑れば美味いのは間違いない。明日以降は沿道に店が無いから、塩漬けのタラに蒸しパンだ。それと、ジャガイモから作った『黒酒』も買ってきたぞ。南と言えど、冬はまだ終わってないからな。長官に持たせておけば、俺達に適量が振る舞われるのは間違いない。あの方は酒を愛しておられるから。」
「そりゃあ良い。俺達傭兵にはお似合いの夕餉だな。冷める前に食べちまおう。長官!ベガが屋台メシを調達しました!」
「良い匂いがするな。。。」
「バウバウ!!バウ!」
ビーズが待ちきれないといった顔ではしゃぎ回っていた。
今俺達が目指している遺跡都市マギキャ・エル・クラシコは王国領の中でも魔導士と冒険者が多い領だ。
領主も魔導士で、元冒険者であるアルーノ・クワンツ・フェ・フェスタデラノーチェ。
王国筆頭魔導士だった頃は数々の賊を討伐した事で知られ、『鉄拳のフェスタ』の異名を持つ、鍛えられた筋肉を用いる格闘魔導士である。
若い頃に東の国ヒノハナにあるカラ・ディ道場に弟子入り。修行を重ね、王国出身者初の『カラ・ディ・マスター』となり、王国に凱旋し、素手で魔物や賊を倒す豪傑冒険者として名を馳せた。この頃からクワンツ一族としての魔法の才に遅咲きながら目覚める。王国の剣技大会にて腰に短剣を提げて素手で参加し、優勝。『イースト・バーバリアン』オニ・バールの生まれ変わりと持て囃され、王国の語り草となる。その後王国筆頭魔導士として盗賊討伐に尽力。王国の遺跡都市マギキャ・エル・クラシコにて大規模な盗掘団を弟子達と共に撃破。王国筆頭魔導士を引退後は遺跡都市の領主を任されている。
「ほとんど魔導士というより、俺達と同じ『身体強化』が主体の冒険者なんだろうな。」
「だな。魔導士らしいところなんてクワンツ姓しかないな。おそらく、王国としては領主にクワンツを推しておけば当たり障りが無いという判断が垣間見えるな。」
「きっと本人が一番馬鹿馬鹿しいと思ってるだろうさ。カラ・ディって、俺達が傭兵ギルドに入った時に触りだけ練習した東の拳法だろ?武器を奪われそうになった時にやる突き技とか、蹴りとか。」
ベガとそんな事を話しながら歩いているとショカ・ジンがカラ・ディについて知っている事を話した。
「『鉄拳のフェスタ』がカラ・ディで剣技大会を制したのは大分昔の事だが、彼の『身体強化』はグフマンや俺を遥かに上回る技量だったと聞いている。現役を退いた今も自分の興した道場で弟子達に指導をしているが、やはりカラ・ディのヒノハナ的儀礼や風習に戸惑って入門する者は少ない。親がヒノハナ出身の者は子供を通わせていたりするな。」
カラ・ディか。
武器を奪われたり、武器を使えない場所での立ち回りにはかなり役立つ武道だ。
王都では剣や槍、弓以外の武道は発展しなかった。
俺も少し興味あるが、今は依頼を優先しよう。
(『鉄拳のフェスタ』か。懐かしいのぅ。あやつに魔法を教えてやったのがついこないだのようじゃわい。しかし、引退か。やはり歳には敵わんか。)
(爺、知り合いなのか?)
(ワシも冒険者じゃったからの。東の国に冒険に行った時、生意気な武者修行中のカラ・ディ小僧におっての。武器も無しに突っかかって来たもんじゃから少々指導してやったわい。相手に距離を取られたくなくば、其れを超える俊敏さや工夫を身に付けろ、とな。ゼーレ坊に教えたのと同じじゃ。そもそも『雷属性付与』は雷撃を与える為のものではないんじゃぞ?それはあくまでおまけじゃ。あれは筋肉の反応を高めて極限まで素早さを上げる、れっきとした『魔法』なんじゃ。あやつ、クワンツとか名乗っておきながら最初は魔法のセンスがかけらも無いタダのチンピラじゃったんじゃ。そこはまぁ、ワシがちょちょっと改善してやったんじゃがな。ゼーレ坊よりはセンスあったがのぅ。)
(うるせぇやい。)
若干イラッとしつつ爺との念話を切り上げ、旅路を急いだ。
〜〜〜〜〜〜
「ここが遺跡都市マギキャ・エル・クラシコか。」
壮大な遺跡をくり抜いて作られた街。
そしてダンジョンから取れる資源を求めて集まる商人。
領の衛兵は皆カラ・ディ道場出身者ばかりなのか、動きを阻害しない軽鎧に変わった武器を携帯している。
ローブを着た魔導士と、冒険者達。
彼らが口々に噂していた話題。
それは『古文書盗賊団』の盗んだ、ある禁書だった。
「『死者の書』?」
「あぁ、かつて魔王が求めた禁書と言われた本でな。勇者が魔王にこの禁書を利用されるのを恐れて西の地から持ち去り、遺跡都市に封じられていたんだ。盗んだのは魔導士だとか魔族だとか言われてるが、どうなんだか。」
ショカ・ジンは私達を遺跡都市の傭兵ギルドへと連れ立った。
「ハスクルーク連隊長、ケシャイア連隊長、報告しろ。」
おそらくカラ・ディの使い手である2人の傭兵連隊長がショカ・ジンの前に立った。
「ハスクルーク連隊長!報告!敵勢力は襲撃後、複数の受け渡し人を金で仲介させ、首謀者の足取りを掴めない様にしており、捜索は困難を極めております。我々の検問をすり抜けた様子はありませんので、未だに遺跡都市のどこかにいると思われます。以前、中隊長隷下部隊が捜索中!報告終わり!」
「ケシャイア連隊長!報告!襲撃実行犯3名はその場で殺害!遺体を検めましたが、捜索に役立ちそうな物的情報なし!実行犯の体格、性別から、洗脳系統の魔法を受けた可能性大!被害者は先ほど一命を取り留め、意識が回復しました。早急に長官との面会を求めておられますが、どうなさいますか?」
「断れる訳が無かろう。すぐにでも。」
「は!それと、面会は未ださせられませんでしたが、王都の教会からロゼッタという女性が派遣されましたが、、、」
「後にしろ。今は彼に会うのが優先だ。ベガ、ゼッド、ビーズ、ついて来い。」
俺達は傭兵ギルドの三重に設けられた鉄の扉を通過し、ベッドで包帯をぐるぐる巻きにされて治療を受けている人物に引き合わされた。
「がーーっはっはっは!!!いててて!こりゃ一本取られた!!!」
「なーにが一本取られた、ですか!大人しくしてください!!娘さんに言いつけますからね!!」
「意識が戻られたか、フェスタ殿!」
目の前にいる人物が『鉄拳のフェスタ』。
遺跡都市マギキャ・エル・クラシコの領主、アルーノ・クワンツ・フェ・フェスタデラノーチェ、その人だ。
「あやつら、絡め手でこのおれを殺ろうとするとは、なかなかやるな。だが『死者の書』はここにあるぞ?奴等が持ってったのはおれが作ったレプリカだ。今頃ぬか喜びしたって気付いて発狂してるだろうぜ?がーーっはっはっは!はっ!?いつつつつ!」
フェスタが傷を抑えた。
「全く、貴殿も人が悪い。」
「弟子どもが良くやってくれたから助かったのさ。ありがとよ、お前たち。」
ハスクルークとケシャイアは深々と礼をした。
俺はフェスタから凄まじいエネルギーを感じ取っていた。
(ふむ。やはり、全盛期ほどではないようじゃが、『魔気』を習得しておったか。カラ・ディとの親和性はバッチリじゃのぅ。)
(爺、『魔気』とは何だ?)
(そうじゃのぅ。未熟な魔導士達が詠唱して魔法に用いるのが『魔力』じゃ。ワシやフェスタの様に強力な魔法の使い手はいちいち魔力を練ったりなどせん。常日頃から瞑想を繰り返し、魔力を極限まで小さく圧縮するんじゃ。小さくすればするほど魔力は漏れ出るロスが少なく、体外への伝導性が高くなり、放出した時の威力が増すのじゃ。勿論、小さく出来れば蓄えられる魔力総量も増す。カラ・ディの体術はかの古代の傭兵達の『身体強化』と似ている様で違う。『イブキ』と呼ばれる呼吸法を用い、全身にかける『身体強化』を底上げする。カラ・ディの修行は、戦闘でもその『イブキ』が乱れぬ様に、日々心身を鍛錬するんじゃ。そして敵に加撃する瞬間に『カツ』と呼ばれる発声をした瞬間、『イブキ』が全身を活性化させ、大きな攻撃力を生むのじゃ。これをまともに一撃でも受けてしまえば、骨は砕け、臓腑が潰れ、命は無かろう。これに『魔気』による魔法や属性付与が加われば、魔導士に敵うものなど、そうそう市井にはおらん。)
(ずいぶん詳しいじゃないか、爺?)
(なに、フェスタの小僧っ子も役に立ったという事じゃ。ローブに身を包み、杖を振るうのが魔導士の真髄では無いという事じゃ。それにあやつは冒険者じゃからな。遺跡都市にときめいてしまったんじゃろうて。分かりやすいやつじゃ。)
どうやらお互いに冒険者として腕を磨き合った仲の様だ。
ベガは『死者の書』を見て身震いしていた。
「あんなもん、良く触れるな!」
確かに。
触手が表面を蠢いているようだ。
どうやってレプリカなんか作ったんだ?
【そこな、そこな、ぬし、我を目覚めさせし資格あるものか??】
・・・・・・
「「「「本が喋った!!??」」」」
「バウ!!」
ギロリと眼光鋭く『鉄拳のフェスタ』が俺を睨んでいた。




