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傭兵隊長ショカ・ジン

【皆んな、あのスマムキさ戦ってけでありがどねぇ!!悪いんだげっとも、暫くこのでっけぇ『塚』で寝っぺさ。百姓どが、お年寄りどが、困ってる人いっぺどオラんどごさ来!】


亜神アスィーナーが消えると、グフマンの傷が塞がり、汚れが払われた。


アスィーナーの手向けだろう。




「グフマン・・・・」


俺達はグフマンの遺体を前にして彼の冥福を祈った。


俺には彼が視えているのだが、、、


グフマンの魂が淡い光と共に薄らいでいく。


(これが、死なのか?痛みも無く、不安も無い、、、俺は、、神の元へ行くのか、、、)


神がどんな存在なのかは分からない。


だが彼を悪いようにはしないだろう。


(そうかもな。役目を終え、この世に未練が無い霊は、そうやって去るんだ。)


グフマンは安堵の表情を浮かべた。


(かみさんと娘には悪いと思ってるが、先に逝く。ゼッド、家族に『すまない、ありがとう』と伝えてくれ。あと傭兵ギルドの口座も頼むな。あ!冒険者ギルドの口座は俺のヘソクリなんだ。引き出せなくなるとあれだから、娘にこっそりカードを渡しといてくれ。さらばだ。)


(グフマン・・・・情けないおっさんだな。)


(ほっとけ。)


彼の魂は天界へと消えていった。


別れはいつも突然だ。


死霊魔導士(ネクロマンサー)になったとしても、生者と死者を繋ぎ止め続ける事は困難を極める。


この世に居残る霊は、殆どが強力な未練や憎しみで繋ぎ止められている。


それが無くなれば、本来の魂の流れに還るのは自然な事なのだ。


(爺。爺はいつ逝くんだ?)


爺は首を振った。


(わかっとるじゃろう、ゼーレ坊。神は必ずや機会を下さるじゃろう。目的を果たし、坊の心配をしなくなれば、ワシはいつでも天界へ還ろう。)


「やぁやぁ、、、グフマン、、安らかに神の身許に召されん事を、、」

「あの禍々しい敵相手に天晴れな闘いぶりだったであるな!さらばだグフマン!」

「俺は・・・・俺は強くなる!・・・アンタよりも・・・ゼッドよりも!!・・・」

「クゥ〜ン」


それぞれが別れを済ませ、俺は彼らに指示を出した。


「さぁ、グフマンと帰ろう。皆が心配しているはずだ。」


俺達はグフマンを担ぎ、『牙の塚』を後にした。



『牙の塚』は武器を持った男達に囲まれていた。


「おぉ!傭兵達が戻ったぞ!!」

「神官は治療に当たれ!!」


教会には邪鬼スマムキと闘う為に集まった勇敢な騎士、傭兵、冒険者が集結していた。



「邪鬼スマムキは倒した。仲間が一人討たれた。俺達は傭兵ギルドの部隊だ。あとで来る援軍に俺達の事を伝えてくれ。」


俺は手当てしている神官に言いたい事を言った後、意識を手放し、その場に倒れ込んだ。


〜〜〜〜〜〜


「バウ!!!」


見慣れたビーズの顔だ。。。。


「よう。起きたか。これで気絶は2回目だな。」


「ベガ、、、」


ベガは王都でアスゲルト中隊長に報告をし、異変を知った傭兵ギルドの傭兵隊長ショカ・ジンが、幽鬼に詳しい神官や魔導士を引き連れ、早馬で急ぎ1日かけて駆けつけていた。


目を覚ました俺の元にショカ・ジンが現れた。


「ゼッドか。アスゲルトの部下で、今回の護衛任務の部隊長か。」


「はっ。ゼッドであります。邪鬼スマムキを辛うじて討伐出来ましたが、グフマンを失いました。」


ショカ・ジンは落胆した様子だ。


「グフマンは傭兵ギルドに入った時、俺と同期だった。貴族組の俺と違い、現場で叩き上げられた、まさに傭兵の鑑だった。あいつを失ったのはミューズリース傭兵ギルドの大いなる損失だ。あの男は魔法こそ使えなかったものの、この国の誰よりも洗練された剣技を用いて、ギルドに舞い込む数々の困難な依頼を、あらゆる国に跨って達成してきた。王国近衛騎士団に対して剣技の指導を行い、王国の戦士を更に精強にした功績もある。堅実な仕事ぶりにも定評があった。今回の邪鬼スマムキ討伐は神の御心によるもの。致し方無いとはいえ、残念だ。」


そして彼は厳しい目で俺に聞いた。


「託宣は1週間前だったな。何故もっと早く報告しなかった?」


俺は首を振った。


「当然の事ですが、私が伝説の悪鬼が復活する、と言って、直ぐに信じて貰えるでしょうか?」


「思わんな。」


「それです。だからこその託宣だったのでしょう。神々は時に試練を与える。時間的に、猶予はありませんでした。」


実際、急だった。


『身体強化』と『真血』の発動練習だけで丸1週間使った。


戦闘状態でもない限り、救援は難しいだろう。


「あい分かった。概要はだいたいベガから聞いた。ルグノー男爵と、その騎士達からも聞き取りをして、お前達が邪鬼スマムキ討伐の為に特殊な訓練をしたとも聞いている。回復したら手合わせ確定だ。逃がさんからな?それと、あの『狼王牙』とやらは何だ?神官が危うく火傷をするところだ。未だに触れずに『牙の塚』にある。」


俺も『狼王牙』の事について詳しい事は分からない。


北限にいる『古き狼の王』の牙なのは間違いないが、それを俺の先祖、ドッツェン・ガレーがどのように用いたかは未だに謎だ。


「あれは『狼王牙』と呼ばれるもので、古代のシャーマンが傭兵ウルフヘズナル達と共に戦った際、悪鬼の封印に用いたアーティファクトです。あれには異界で悪鬼と戦い続けた善良なる亜神アスィーナーの七つの魂も封じられていました。今は空っぽですがその機能は健在です。亜神は混乱を齎さぬように手を加え、私にしか使用出来ないようにしました。他の者が触れれば焼かれてしまうでしょう。」


調停者(バランサー)』の事は話さない方が良い。


「亜神だと?異教の神か?いったいどんな神なんだ?」


ミューズリース王国としては主神以外の神はまずい存在なんだろう。


「悪鬼との闘いで弱っていましたが、我々が闘う事で目覚め、力を貸してくれました。とても優しい性格で、農民や高齢者、困っている人間を助ける亜神です。火と土、そして力を司る神でした。今はこのウィンドホーンの『牙の塚』にて数百年の眠りに付きました。きっと遥かなる未来で、主神と共に我々の子孫達を守って下さるでしょう。」


これを聞いたショカ・ジンはとても満足そうだった。


主神と共に、という部分が大切だ。


「そうだな。精霊神アスィーナーなる存在が主神により召喚されたと神官に伝えよう。『狼王牙』については引き続き『牙の塚』に安置し、聖域とする。それで良いな?」


「ええ。必要ならば私を呼び出し、使用すれば良いでしょう。」


「まず、そうならんようにするべきだ。俺達はお前が生きている間に、あの『狼王牙』が使われない様に努力する。」


案外、使われないかもしれない。


何もなければあの牙が使われる事はまず無いのだから。



その後、ゼッド隊は解散。


ケイレヴは傭兵ギルドとの契約を解除し、ルグノー男爵付きの騎士となる。


領を守り、『牙の塚』を監視し、ミューズリース王都とウィンドホーンの繋ぎになってくれるだろう。


『月光』のサリフは出身地である西に戻る。

アスゲルト中隊長と共に、西で傭兵ギルド向けの仕事があるようだ。



カールストンはタイケンと共に依頼で東へ行くようだ。


何でもタイケンが快気祝いに持ってきた、東の国・ヒノハナの最新にして極上の料理、『ラァメン』と『ギョ・ザ』という料理に心打たれてしまったという理由らしい。


その材料である小麦の護衛依頼だ。


俺も、、、、食べたかった。。。


もっと早く気絶から醒めていれば。。。



俺達が体験し、古き狼の傭兵団・ウルフヘズナル達が使っていた『身体強化』はミューズリース王国で復元され、近く体系化されるだろう。


ショカ・ジン曰く、『真血』はミューズリース国王により『重要機密魔法』とされ、今回討伐に関わった俺達5人は軽々しくその技術を漏らせなくなった。


しかし必要ならば誰かに受け継がなければならないだろう。


次にまたあの様な悪鬼が現れた時に、俺達がいなくとも対処出来るように。


邪鬼スマムキの残骸は全て回収され、王都の教会で何重もの魔法陣結界を施して封印し、『狼王牙』と共に『聖遺物』に指定された。


異界から来た原因もこれから調査される予定だ。


教会は『精霊神アスィーナー』を正式に主神に連なる亜神と認定した。


ウィンドホーンにある教会裏『牙の塚』に眠る、燃える髪と赤い肌に怪力の持ち主とされ、心優しい農業の神として、全世界で崇められる事になる。


〜〜〜〜〜〜


グフマンは『傭兵の墓石』に埋葬された。


彼の奥方に会い、頭を下げた。


指揮官として、俺が出来る事はこれ以外になかった。


「貴女の夫、グフマンは紛れもなく、この国とウィンドホーンの民にとって英雄です。私達傭兵ギルドの誇りだ。」


彼の訃報は世界中に届き、俺達が居ない間も弔いの花が絶える事は無かった。


彼はミューズリース王国を、その命を以って護った、英雄である事は間違いないのであった。


「これを。グフマンから貴女に預かりました。最期に「すまない、ありがとう」と言っていました。」


渡したのは傭兵ギルドカードと口座番号だ。


「あの人は仕事以外はてんで不器用だったわ。最近ではあたしの名前と娘の名前をあべこべに言うくらいだったもの。『ただいま、おい、飯、寝る、行ってくる。』しか聞いた事ないし。お金だけはちゃんと革袋いっぱいに置いてってくれたわ。たまにはね、、、、一緒にね、、、、買い物行こうって、、、言ってたのに、、、、」


俺は彼女の涙を見ている事しか出来なかった。


知りたくもない、中年傭兵の悲哀。


この仕事はすれ違いも多い。


いつ死ぬかも分からない。


奥方はとても不安だっただろう。


あのバカヤローめ。


傭兵なんかになるからだ。


近衛騎士にでもなっておけば、今頃良いポストについてたはずだ。


俺が言えた事ではないが。


「それでは、娘さんによろしく言っておいてください。」


グフマンの妻は首を振った。


「もう、ここにはいないわ。南で良い人見つけて、嫁に行ってしまったの。『ノスタルジア』って酒場の女店主をやってるわ。旦那さんは東出身の料理人で、料理以外はてんでダメだ、って言ってたわ。わざわざ父親に似た人を選ぶなんて、バカよね?でも、いつも一緒に居られるだけ幸せよ。あの娘は幸せ。そうよね、あなた。。。。」


俺は天界にいるグフマンが、少しだけ泣き笑ったような気がした。


〜〜〜〜〜〜


「バウ!!」


愛犬ビーズは、銀髪美少女ヴィレミナの腕の中だ。


「おっそいわね!!ビーズはもう挨拶してくれたわ!!久々に見たと思ったら鎧の色、少しだけ変わったのね?」


いつか会ったじゃじゃ馬娘は少し気の強さが増したか?


「ウィンドホーンでちょっと鉄火場があってな。ダメージがあったので張り替えになったんだ。」


俺はウィンドホーンでの一件の後、一週間以上離れていた馴染みの宿に戻り、酒場でステーキに舌鼓を打ち、エールを飲み、ビーズと散歩した。


酒場でエールを飲むと、ルグノー男爵に連れられた彼の地に、小麦の波が風でうねっているのを想像た。


今は亡きグフマンの勇姿を思い出して、それを酒の肴に酒場で大宴会となった。


傭兵ギルドから渡されたウィンドホーンの依頼達成報酬は、金貨が4桁くらいまで増額されていた、とだけ言っておこう。


おかげで俺はギルドで稽古をしつつ、余暇を楽しんでいた。


次、いつ依頼を受けるかはまだ考えていなかった。


先の闘いで革鎧はボロボロになったため、酒場に入り浸っているドワーフの鍛冶屋に修理を頼んでいた。


ヴィレミナは傭兵ギルドで宿代と小遣い稼ぎに、ちょっとした雑用仕事もしつつ訓練しているようだ。


おそらくヴィレミナにはダークエルフの血が入っている。


軽い身のこなし、優れたバランス感覚、抜群の隠密能力、鋭い聴覚、豊富な魔力、遠見の効く視力などで斥候(スカウター)としての能力を磨いてる。


彼女は『エルフェン・ヴァルキリー』、クワンツ・フェの昔話に憧れてレイピアでの剣技を練習している。


ボクス連隊長は「お前の様な小娘にはダガーですら勿体ない!スプーンでも持ってろ!」となじられても、意地でもレイピアを使うつもりだ。


(爺、ヴィレミナにレイピアって向いてるのか?)


(なんじゃゼーレ坊?やぶから棒に?そうじゃな。まだ身体が出来上がっとらんうちから重い柄物は手首を壊す。かといって短いダガーは戦場で敵を相手にするに適しているんじゃろうか?ワシは戦士では無いから、分からんがのぅ。)


「ヴィレミナ、何を言われようと、レイピアを手放すな。お前自身がお前を信じろ。自分を疑う様な奴は、戦場で真っ先に死ぬんだ。これからも、その気持ちを曲げずに頑張れ。」


「う、うっさいわね!言われなくともよ!」


プイっとヴィレミナは顔を逸らした。


いつものようにビーズを宿で待たせて、酒場でヴィレミナとステーキを食べていると、我が傭兵ギルドのトップが現れた。


「懐かしいな、、ここは。アスゲルトのやつとも良くステーキを食べに来たな。お!いたかゼッド、それに見習いのヴィレミナだったか。食事中にすまないな。」


「いえ、恐れ入ります。食事はここで?」


「ああ、一緒にはダメか?」


「とんでもない。店長!エールとステーキを頼む!1人追加だ!」


焼き立てのステーキとエールが運ばれて来ると俺達はジョッキを打ち鳴らした。


「「「乾杯!!!」」」


『エールの前では笑って乾杯』


ミューズリース王国では下々の民から国王まで守るべき美徳とされている。


それはいつ如何なる時も守れという事だ。


ショカ・ジンがエールを飲み干すと言った。


「ゼッド。お前はこれより魔導士ベガと共に、この俺、長官ショカ・ジンの補佐として各地を回る事になる。お前とベガは俺と共に南への出張が決まった。行き先は遺跡都市マギキャ・エル・クラシコ。依頼内容は『古文書盗賊団』の調査追跡、奪われた本の奪還だ。敵は魔法を使うと聞いている。」


「魔法、か。かなり危険な相手だ。」


俺はエールを飲みながら、爺を『憑依(ポゼッション)』した時の事を思い出した。


俺達傭兵は『身体強化』や武具への微弱な『魔力付与』や『属性付与』で対処しているが、それで充分かと言われたらそうではない。


ベガ1人でもなかなかの実力だが、俺達の様な前衛の戦士が多少苦戦するくらいだ。


だが爺に至っては。。。


(ワシくらいの魔導士相手となると生半可な『身体強化』では風魔法でバラバラになるのぅ。今のゼーレ坊やあの新しい『身体強化』を覚えた者達なら耐えられるかもしれん。何にせよ不意打ちは避けたいところじゃの。)


(俺もあの威力にはかなり驚いた。爺があんなに自慢してたのは耄碌してたからだと思ってたんだが、、、)


(何を言うとるか!!!我が孫とてその言い草はないじゃろ!?)


「あー、、、ちょっとゼッド?ボーっとしてるけど大丈夫?酔った?」


「ん?あぁ、何でもない。」


「おおかた、そこにいる精霊が気になったんだろう。教会に居る時から気付いたんだが、ゼッドに憑いてきているな。」


「視えるんですか?」


ショカ・ジンは首を振って否定した。


「流石に姿は見えん。だが気配は分かるぞ。俺は『スピード・オブ・セインツ』の血を引く魔法剣士だからな。早々に王位継承権を放棄して傭兵への道を歩んだが、今ではちょこちょこ宮廷や教会が恨み言を言ってくる。だいたいが、「あなたに傭兵業は才能の無駄遣いだ。」といった感じのな。馬鹿馬鹿しい。今更辞められるものか。一体何人の仲間の命を預かっていると思っている。他の奴には任せられん。今はまだ、な。」


彼は次のジョッキを飲み干すと言った。


「教会から以前、禁書狙いの危険な魔導士が暗躍しているとの通報が入った。俺は古文書の件と関係があると予想している。忙しくなりそうだぞ、ゼッド。」

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