死闘と解放
【スマムキ】とは、日本のとある部族の言葉で「早く死ね!」という意味の呪詛である。
『牙の塚』内部に納められた『狼王牙』から闇の力が漏れ出していた。
「ゼッド、、、あの台座にあるのは、、、」
「あれは『狼王牙』というアーティファクトだ。古代のシャーマンが邪鬼スマムキを封じる際に使ったんだ。既に封印は解けた!来るぞ!」
台座の隣に突然、身体中に刺青を入れた、腕と脚の長い不気味な黒い老婆が現れた。
細い目が薄らと開かれる。
俺達を見つけた瞬間に邪悪な笑みを浮かべて呪詛を吐いた。
【すまむき、、、、、、すまむきすまむきすまむきすまむきっ!!きぇーーーッ!!!】
老婆の腕がグンっと伸びた!
「初撃は盾でいなせ!!防御可能なら押し込め!!」
ガキィン!!と俺の手元から耳障りな音が鳴り響いた。
ベガの施したルーンが無ければ盾は貫通していただろう。
『身体強化』無しなら手首を折るほどの衝撃だった。
「ゼッド!!いけるぞ!!」
「ぐぉお!とんでもない力であるな!だが、負けん!!」
俺とグフマン、ケイレヴがスマムキの腕を盾で弾き、剣で斬りつけた。
【すまむきぃ!!】
「サリフ!!カールストン!!護符を投げろっ!!」
ベガが手塩にかけた護符だ。
属性は気にしてはいけない。
邪鬼スマムキにはなんでも試せ。
「喰らいやがれエテ公め!!」
「やぁやぁ!!」
護符がスマムキの腕に当たり、盛大に弾けた!!
千切れ飛ぶ黒い腕。
【すまっ!?むきぃーきききききき!!】
老婆は嘲笑いながら更に胴体から腕を生やした。
「んなっ!?ずるくねぇかそれ!?」
グフマンがボヤいた。
「怯むな!!盾でいなし!護符を投げ続けろ!!」
俺は浮遊する黒い魂を見つけて手持ちの片手剣に『真血』を注ぎ込み投げつけた。
「いっけぇぇぇ!!!」
土壁にめり込んだ剣が取り憑かれたアスィーナーの魂を縫い付けた。
【ぎゃぁあああ!!!】
邪鬼スマムキは苦しみ、大量の腕で俺を襲い始めた。
パキッ、と盾に亀裂が走る。
「やべっ!!??」
「やぁやぁ!!ゼッド!!受け取って!!」
剣を投げた空の右手でサリフから盾を受け取り、壊れた盾はスマムキに投げ付けた。
【すまぁぁむきぃぃ!!】
奴は怒り狂い俺への攻撃に固執し、注意が散漫になり始めた。
黒い魂が再び視える。
「グフマン!!奴の痙攣してる手が見えるか!!?『真血』をぶち込め!!ケイレヴ!!ビーズ!!前に出て脚を狙え!!奴のペースを乱すんだ!!」
「ぐぉぉおお!!」
「ぬぁぁぁああ!!」
「グルルッッッ!!」
俺達の後ろに隠れていたビーズがやつの脚に噛みつき、ケイレヴが斬り落とした。
しわがれた手に『真血』の剣が深々と刺さる。
2つめの魂が縫い付けられた。
さらに続けて俺が3つ目の魂を縫い付けて捕らえた。
「うらぁ!!」
【あぎゃあああ!!!すまむきぃぃぃ!すまっむきっ!!】
奴が痛みに耐えかねて、岩壁を崩し、行く手を遮ろうとしている。
「逃がさん!!」
俺は爺を『憑依』させて、風魔法を繰り出した。
土くれが吹き飛び、奴の腕がズタズタに千切れていく。
【ぐぎゃああああ!!!】
(ほっほっほ!!このドッツェン家最強を自負しとるワシ!8年ぶりに魔法を使ったが調子良いわい!!)
(そりゃ俺の魔力使ってるからな。しかし、魔法ってこんな感じなのか。属性付与しかやってなかったから知らなかったが、なかなか強力だな。)
グフマンが驚愕している。
「ゼッド!?お前、魔法剣士だったのか!?いったいどこのお貴族様なんだ!?」
「知らん!だが奴の弱点がまた視えた!!あの千切れ飛んだ腕だ!」
「了解だ!」
グフマンが剣で腕の残骸に『真血』の剣を突き刺した。
4つ目の魂を縫い付ける事に成功した。
だが、それは罠だった。
千切れた腕の鋭い爪がギュンと伸びて、グフマンの鎧の腋下から、その一瞬の隙を突いて身体を貫いた。
傷口から赤黒い血が吹き出し、よろけた。
「ごふっ!!??」
「グフマン!?!?下がれ下がれ!!!下がるんだ!!」
俺はグフマンの襟首を掴んで引きずった。
ケイレヴが攻撃を防いでくれている。
「すまんなゼッド・・・ここまでだ・・・予備の短剣だ・・・やつを異界に追い返してやれ、、、、」
グフマンは目を閉じて意識を失った。
「グフマン!!!」
「ゼッド!!もう盾が保たないであるな!!」
「護符はもう使い切っちまったぞ!!」
「やぁやぁ!!『月光の舞』!!」
サリフがどんどん再生していくスマムキの腕による攻撃を得意の回転剣舞で引きつけている。
「カールストン!!あの膨らんでる腕に『真血』をぶっ刺せ!!盾を構えながら行け!!」
「おらぁぁぁあ!!」
カールストンの一撃が5つ目の魂を縫い付けた。
どこからか声が聞こえてくる。
【おら、、ねむぃ、、べ、、誰、、だべ!さ?】
(アスィーナーなのか!?)
【ッッッすまむき!?】
(奴め、焦っているようだな。)
俺の隣にはグフマンの霊が立っていた。
死んでしまったのか!?
くそっ!!
(冷静になれ!ゼッド!奴の右目を見ろ!あそこに黒い何かがあるぞ!)
確かに、黒い魂が視えた。
「うりゃああああ!」
スマムキの右目に俺が放った『真血』の短剣が深々と突き刺さった。
これで6つ目だ。
あと1つ!!!
完全に覚醒したアスィーナーの声が警告した。
【気をつけるんだど!!こいつは身体も分裂するど!!オラが眠りから覚めっど、力強まるべ!!増える前にオラの魂を捕まえでけろ!!】
【【ず・ま゛・む゛・ぎ!!ぎぇえへへへへへ!!】】
黒い老婆が左右に気色の悪い音を立てて分裂する。
(異界の悪魔め!!どうやったら殺せる!?)
(なんと醜いんじゃ!!!)
「ふざけんじゃねぇぇえ!!!」
「ぬぉおぉお!!止めるのであるッ!!」
カールストンとケイレヴが吼えて突っ込んだ。
ニタリと笑った分裂体から腕が伸び、2人の鎧と肉を切り裂いた。
「「ぐぁあああ!!」」
「違う!!そいつらじゃない!!」
どちらの邪鬼スマムキにも魂が視られない!
(ゼーレ坊!!上じゃ!!)
(ゼッド!!身体借りるぞ!!)
俺に『憑依』したグフマンが駆け出し、『真血』で俺の腰に付けた両手剣を投げた。
もう手持ちの剣は無い。
(くそ!!浅かったか!?)
慣れない『憑依』では体格も膂力も違うし、コントロールが効かなくて当然だ。
最後の魂を縫い留められず、燃える『真血』の両手剣が天井から外れて地に落ちた。
ゆっくりと黒い魂が目の前の邪鬼スマムキに取り込まれていく。
【【【【【すまむき】】】】】
「取り囲まれたか。。。。。」
「バウ!バウバウ!!バウ!」
近づく邪鬼にビーズが懸命に吠えていた。
俺達は良くやった方だ。
民衆は逃げ切ったと良いが。。。。
(ゼーレ坊、、、)
(ゼッド、、、)
「やぁやぁ!!辛気臭いなぁゼッド!!俺の武器はまだ血を吸いたりないさ!!邪鬼スマムキに血があるのかは疑問だけどね!」
身体中傷だらけのサリフがサーベルを構えて前に立った。
「武器が無くなっても!拳で倒す!」
「その意気や良し!であるな!」
もう動くのもやっとなカールストンとケイレヴも立っている。
少し押せば倒れそうだ。
だけど闘志は斃れていない。
俄然、勇気が湧いてくる!!
「どうだ化け物、、、、俺の仲間は、、、超強えだろ!!傭兵舐めんじゃねぇえ!!!」
やつが俺達を嬲り殺しにしようとしたその時、亜神アスィーナーが俺達に呼び掛けた。
【待たせたど!!!おらは皆んなを守るんだど〜!!!今のうちにやっつけるんだべ!!!】
邪鬼スマムキの分裂体が急に燃え上がり、苦しみ出した。
ぼろぼろとしわくちゃの黒い皮膚が崩れていく。
【うぎゃあああ!!!???】
「突っ込めーーッッッ!!!」
皆がそれぞれに最後の力を振り絞り、剣を振り、弱体化した無数の腕を斬り落とし続けた。
(アスィーナーよ!力を貸してくれ!!)
【オラの魂の力を貸すど!!】
「『亜神憑依』!!!」
凄まじき力の本流だ。
身体中が大いなる力で満たされている。
俺はかつて謎の亜神から貰い受けた能力、『魔力の剣』を召喚し、『真血』を発動して邪鬼スマムキの魂を串刺しにした。
一瞬にして風景が灰色になる。
【な!?なんだべ!?】
【すま?むき?】
「いやぁ、ゼーレ君、久しぶりだね。」
フードに包まれた謎の存在が現れた。
不思議な安心感すらある。
「調停者か。またあんたが出て来ると思ってはいたが、このタイミングなのか。」
(またあの、亜神じゃな。)
(あ、亜神だと?ゼッド?教会の神とは違うのか?)
「このタイミングだよ、ゼーレ君。あ、お婆ちゃん、あなたはこっちね。そしてさよなら。」
【すまっ!?】
邪鬼スマムキは謎の亜神のフードに吸い込まれて消えた。
「あ〜初めましてかな?亜神アスィーナー君?」
「お、おらは皆んなを助けるんだど!」
七つの魂が浮遊しながら人の形になり、燃え盛る髪を生やした真っ赤な身体の大男が現れた。
明らかにコイツを警戒してるな。
「まぁ、落ち着いて、皆んなもう助かったから。あの亜神は君から分割したし、君自身が魂の支配権を奪った時点でもう安全だよ。」
「そう、なん、だべが???」
頭を傾げる亜神アスィーナー。
「わたしも忙しいから、手短に言うね。アスィーナー君は長き封印で力が衰えてるから、この地で精霊達と仲良く療養して欲しいな。ほら、君優しいからここにすぐ馴染むでしょ。元の大きさに戻るまでまた数百年かかるだろうし。君が良ければ、この功労者ゼーレ君に力を分割して、貸してあげてくれないかい?」
「もちろんだべ!!おめだづのおかげでスマムキさ勝でだんだがら!オラは火と土を出せるんだべ!力も強いんだべ!おっきいタンガラもあるど!?」
胸を張るアスィーナー。
(ざっくりし過ぎて何を話してるんだか分からんな、、、)
(どこの田舎から来たんじゃ??農民出身の亜神なんておるのか??)
「あんまり人外な能力とかは要らないからな!本気で!ところで、タンガラとはなんだ?」
「タンガラはタンガラだべ!!」
だからそれを聞いてんだよ。
「ゼーレ君。タンガラとは亜神が持つ空間収納の事だ。人族の基準だと、無限に物が入る、見えない袋みたいなものだと思ってくれたまえ。たぶん。」
それは便利だな。
派手で強力過ぎる武器なんかよりよっぽど使える。
「じゃあ、そのタンガラ、ってやつをくれ。」
「そう言うと思ってもう分割してあげたよ。もう時間だ。あ、そうだ!あの台座の『狼王牙』はゼーレ君のものだ。君以外が触ると発火するようにしたよ。機能はそのままだから、上手く使ってね?それじゃ。」
「おいおいおい!!ちょっと待て!!」
風景が色を取り戻した。
あいつ最後に変なモノ押し付けやがって、、、
「か、勝ったのか???」
カールストン、ケイレヴ、サリフが呆然としていた。
「ああ!俺達の勝利だ!!!」
「「「うぉっしゃあああああ!!!」」」
邪鬼スマムキとの死闘は勝利で幕を閉じた。
グフマンという名の、傭兵の死を以って。




