傭兵ゼッド
狩人、冒険者、農夫、炭鉱掘りのドワーフ、仕事終わりの衛兵。
むさ苦しい男達で賑わう酒場の中、ひたすらにステーキを頬張る。
ここのステーキは旨い。
俺が席に着いている使い込まれたテーブルは、肉のエキスが染み込んでいるかのようにテカテカしている。
テーブルに直置きされたカチカチのバゲットを手に取り、ステーキの肉汁でふやかしてから齧っていると、俺に声をかける奴がいた。
「おぉ!ゼッド!生きてたかぁ!」
「お前もな、マルチェロ。早く座れよ。別な奴が座っちまうぞ。エールもう一杯とステーキ追加だ!」
商人の護衛、商品の警備、盗賊の取締、有事の際の戦力。
傭兵ギルドで働く俺やマルチェロの様な人間はすぐに戦で命を散らすかも分からないため、こんな挨拶にはなる。
俺はマルチェロとジョッキを打ち鳴らす。
「「乾杯!」」
「聞いたぞ?ゼッド。お前こないだの領主館襲撃事件の時、現場に居ただろ?お前のせいであの後傭兵ギルドに一般人から苦情が来て大変だったぞ!もうちょっと綺麗に始末しろよな!」
俺は傭兵ギルドで何気なく受けた実入りの良い仕事でたまたま不運に見舞われた哀れな賊を思い出す。
「依頼では襲撃者がいたら見せしめにしろとのお達しだったからな。街道が汚れたのは仕方なかった。」
「賊は全員身体のパーツがバラバラで、領主と敵対してる犯人の根城まで大量の血痕が続いてたぞ?あの後お前、主犯格の首を疑惑の貴族の寝室に投げ入れたんだな。相変わらずイカれてんな。」
時には綺麗事だけで食っていけない事もある。
「そう思われたなら、俺は見事依頼を達成出来た訳だ。ちなみに言うなら、あのバラバラ死体のアイデアは俺が考えた訳じゃないからな?」
だいたいがあのでっぷりと太った領主の思いつきだが。
「そうなのか。ゼッド、俺はいつかお前が縛り首で吊るされるんじゃないかと推測するんだがな?」
「言ってろ。あれで当分、あの貴族はちょっかいを出さんはずだ。」
マルチェロは呆れたようにため息を吐きながらエールを流し込んだ。
「ゼッド。あの貴族なら処刑されたよ。罪状は領主に対する殺人未遂、国家転覆の容疑と、王に対する反逆罪だ。」
俺はステーキの最後の一切れを堪能しつつ、マルチェロには見えない存在を一瞥しながらもエールをちびちび飲み始める。
「あの後領主がお前にビビってたんだぞ。『まさかワシの言った悪態を本気でやるなんて』とかなんとか。犯人が裁かれて満足してはいたが、、、」
「あれタダの悪態だったのか。『バラバラにして奴の部屋に投げ込んでやる!』、って言ってたから、てっきりそういう要望か指示と思って、、、」
「お前、敵を倒す事に関しては優秀だけど、他はからっきしだよな。慌てずに人に話を聞けよ。先走ると死ぬぞ。」
こうして俺は早とちりで悪名が高まるハメになった。
「すまないマルチェロ。ここは奢るからお説教は勘弁してくれ。」
「もう2回程奢るなら許す!ハハハ!」
こうして夜は更けていき、宿屋への帰り路に着く。
(ゼーレ坊!ゼーレ坊!)
常闇から死者の声が聞こえる。
俺がひた隠しにしている秘密。
人々から唾棄すべき邪法と呼ばれて忌み嫌われる魔法。
(なんだ?爺。酒場では静かだったじゃないか。)
(そりゃあの!お前さんが殺した奴らの使役契約に忙しかったからのぅ。どいつもこいつも、下らん未練ばかりの奴らじゃった。いざという時に使えるかどうか、分からんな。)
(お疲れさん。今日はもう寝るよ。)
(ワン公も待っておるからのぅ!)
俺が普段名乗っている、ゼッドは偽名だ。
本名はドッツェン・ゼーレ。
死霊魔術士だ。




