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修行と真血と邪鬼スマムキ

「良い湯だったなぁ!!サリフ、温泉には誰も居ないから入ってきて良いぞ。」


「やぁやぁ、恩に着るよゼッド。西の人間はこればっかりはどうにもならないものさ。」


戒律で人目を忍んで風呂に入らなければいけない西の出身者は、着替えも入浴も個人の空間で行わなければならない。


「グフマン、カールストン、ケイレヴ、ベガ、あとから合流するサリフ、そしてビーズ。お前達はこれから2人1組で仮眠を取りながら交代で男爵の館の周辺を警戒しろ。」


「「「了解」」」

「バウ!!!」


「それと、今から俺は男爵に会ってくる。1週間の護衛の予定だったが、少しばかり帰りは余計な仕事が増えるかもしれん。各々、いかなる状況にあっても対処出来るよう、周囲を警戒しておけ。カールストン、分からない事があったら予めグフマンとケイレヴの指示を仰げ。ベガ、悪いが魔力探知を頼む。負担が大きいだろうから、警戒する間だけで良い。今から男爵に魔力ポーションを少し融通出来ないか聞いてみる。ビーズ、俺がいない間皆を頼んだぞ?」


俺の言葉に気を引き締めた傭兵達は鋭い目付きに変わった。


(ゼーレ坊もすっかり傭兵じゃの。)


爺は嬉しそうに笑った。


〜〜〜〜〜〜


「かつてウィンドホーンに現れた伝説の魔物について教えろだと??ゼッド、地元民しか知らないそんなマイナーな話をわしにわざわざ聞きに来たのか?」


ルグノー男爵が書類と睨めっこしながら羽ペンを弄んだ。


「いや、うちの面子に魔導士がいるでしょう?魔力ポーションを融通してもらえないかと。そのついでで聞いてみたかっただけです。」


「なんだ。そんな事か。ほれ。1週間分だから、2つで足りるだろう。」


ルグノー男爵は戸棚いっぱいの魔力ポーションから2つ取り出した。


「ここは年度末に忙しくなるからな。わしも仕方なく魔力ポーションを飲んで無理くり目を覚ましつつ、この書斎で書き物をする事がある。それで?昔からわしの様な地元の貴族から農民まで知っとるウィンドホーンの魔物に興味があるって?」


「はい。衛兵がそんな事を言っていたので。」


「冒険者や英雄譚が好きなやつなら聞きたがるような話だな。邪鬼スマムキの話だ。邪悪な幽鬼スマムキが突然異界から現れ、人々を殺め始めた。勇敢なる古代の傭兵、ウルフヘズナル達が己が命を神々に捧げ、燃える剣で邪鬼の心の臓を穿ち、『牙の塚』にスマムキを封じた。そういう話だ。『牙の塚』には夜中行くと呻き声が聴こえるとか、取り憑かれてスマムキに食べられてしまうとか、両親に言われたりしたのぅ。」


「『牙の塚』、とはどこにあるのでしょうか?」


「そうか、言ってなかったから気付かなかったか。薪を卸す時に通った教会があるだろう?あの教会の裏が『牙の塚』だ。毎年夏になると教会主催で10日間の『ウィンドホーン鎮魂祭』が開かれ、ウィンドホーン中の人間が集まって飲めや騒げやのどんちゃん騒ぎ。衛兵も交代で全員参加だから領の騎士は全員二日酔い!最後にその年成人になる者の代表が邪鬼スマムキに見立てた人形に剣を突き立て、皆で火を掛ける。楽しいぞ?その日はエール一杯が銅貨1枚だ!」


「半年後にまたウィンドホーンに来なければいけませんね。御相伴に預からなくては。」


「なに、その時はわしが自ら案内してやろう。無料の護衛も手配出来るしな!ワッハッハッハ!おっと、話し過ぎたな、警備に戻ってくれ。メイドのおばばにどやされてしまう、、、」


ルグノー男爵はしーっと人差し指を立ててウィンクした。


それから俺は領主館を出ると、兵舎の横にある岩に座り亡霊に話しかけた。


(アリバイ作りは完了だ。あんたに確認したのをわざわざ男爵に聞くのが面倒だったが、必要な事だ。俺が死霊魔導士(ネクロマンサー)である事は秘密なんだ。)


ウルフヘズナルの頭目は困惑した様子で俺を見つめた。


(最近のシャーマンは色々と大変なんだな。まぁいい。これから教えるのは『身体強化』だ。)


何だって?


そんなの皆使えるぞ?


(それならもう覚えている。ほら。ミューズリース王の近衛騎士ほどじゃないが、傭兵ギルドでは上位の使い手だぞ?)


俺は全身に身体強化をかけた。


それを見た瞬間に頭目は目頭を抑えて天を仰いだ。


(おぉ、神々と『古き狼の王』よ。この若輩者をお救い下さい。)


俺はムッとしながらもこれまでの修練では評価して貰えない事を認めた。


(あ、あぁ、分かった分かった。使えるなんて言って悪かったよ。頼むよご先祖様、教えて下さい。)


少し肩を落とした頭目が言った。


(強度だけならピカイチだがな。だが、それではバカでかい岩を投げるくらいにしか役に立たん。だが、通常より力を上げるだけならばその強度の1/10でも足りるんだ。今から教える方法ならばな。)


かなり少ない魔力量だ。


(どうやるんだ?)


(まずはゆっくりと深呼吸をして胸に手を当てろ。そして最初は心の臓にのみ身体強化をかけるんだ。やってみろ。)


俺は心臓に身体強化を掛けてみたが、なかなかうまく場所が定まらなかった。


かなりイライラする。


(手で魔力を誘導してやるんだ。一度覚えればその動作は必要ない。)


段々と身体が暖まっていくのを感じた。


(これか?この感じなのか?)


(そうだ。ゆっくりと掛け続けろ。これが俺達古き狼の傭兵団・ウルフヘズナルがいうところの『身体強化』の初歩だ。北限の地で生き延びる為、体温を保つにはこれを常時かけ続けなければならない。時代の移り変わり、暖かい土地への移住で忘れ去られてしまったんだろう。全く嘆かわしい事だ。)


俺は全身に魔力が漲っていくのを感じとっていた。


外は寒いのに身体から湯気が立ち昇っている。


(あとで飯をしっかりと食って休んでおけ。おそらく最初の『身体強化』は疲れるからな。それから次は肺と心臓、交互に『身体強化』を掛けてみろ。難しいぞ。)


俺は言われた通りにやってみたが、全身から汗が迸り、身体中の筋肉が隆起し、血管が浮かび上がった。


(よし、体温がかなり上がって来ているな。ひとっ走りして来い。)


「やぁやぁ!ゼッド!本当に良い湯だったよ!感謝してる、ってえぇ!!!???どうしたの!?その汗!?」


温泉から戻ってお肌がツヤツヤになって妖艶な雰囲気すら醸し出しているサリフが俺を見て仰天した。


「すまん、サリフ。悪いが皆には警戒とトレーニングも兼ねて走ってくると伝えてくれ。」


俺は居ても立ってもいられず、走り出した。


風のように身体が軽い!!


「はっっや!!??」


サリフは駆けていった俺を呆然と見つめていた。


〜〜〜〜〜〜


「ハァ、ハァ、ハァ、、、、ここなら、、誰も来ない。。。」


どこなのかは分からないが、人気のない広い草地にやってきた。


(仕上がってきたな。とりあえず、型稽古しか出来ないな。まずやってみせろ。)


頭目はそう言うと俺の前に立ち、かかってこいと手で誘った。


「それじゃ遠慮なく!」


両手剣を振るうが頭目に全て(かわ)される。


(おうおう、なんて荒々しい剣技だ。まるで豪族みたいな剣筋だな。)


(豪族が何かは知らないが、俺はこういうのしか教わってないんでね!!)


頭目は(かわ)しながら評価を下しつつ指導を始めた。


(まぁ及第点だが、スマムキ相手ではちと苦しいか。よし。足の付け根から膝、腰、そして腕の関節に段階的に『身体強化』をかけながらゆっくりと型稽古をしろ。もちろん、今まで教えた事もやりつつ、な。)


俺は草地で型稽古をやり続けた。


汗で前が見えなくなりそうだ。



頭目が俺の顔を覗き込む。


(これで『身体強化』を習得したわけだが、どうだゼッド、覚えたか?)


「・・・・覚えた。」


俺は草地に寝転がりながら思わず念話じゃなく素で答えてしまった。



(ゼーレ坊、もはや今までの魔力の流れとは打って変わって、それは誰のものとも違うのう。静かでほとんど見えず、それなのにとてつもない圧迫感じゃ。強者は坊を見て、かなりの使い手と見る事間違い無しじゃ!!)


俺はそんな厄介な事に毎回巻き込まれたくないんだがな。


頼むから普通の依頼をさせてくれ。


あ、依頼自体は今回は普通か。


くそっ。何でいつもこうなる?



(へばってるところ悪いが、最期にスマムキを倒す方法を教えてやろう。)


(やっと本命か。どうすればいい?)


(まずそこの枝を拾え。)


枝?


俺は側に落ちていたナラの木の枝を持った。


(良いか?悪霊や幽鬼は本体を具現化させるか、特殊鉱石、聖水、又は聖属性や微弱な魔法付与を武器に使わなければ倒す事が容易ではない。これは知ってるだろうな?)


(あぁ。それは今の時代も変わらないぞ。)


バーゲストやゾンビ、スケルトンなどは魔力を武器に付与する事で、その活動機能を楽に止める事が出来る。


(スマムキにはその何れも効かない。奴は悪霊というよりも、邪悪な性格の亜神なのだ。そしてその活動を止めるには、こちらもアスィーナーやシャーマンと同じ魂の力を用いなければならない。いいか?これまでの『身体強化』に加えてもう一つやる事がある。お前の『血』そのものを『身体強化』してみろ。そうだ、その前に鎧を脱いでおけ。)


(分かった。)


鎧を脱ぎ、一通り『身体強化』をかけた後、頭目に言われた通りに『血』に『身体強化』をかけるようイメージしてみた。


熱い熱い熱い熱ぃーーーっっっ!!!


「あぁっっつ!!!」


(止めるな!!『死者と会話する者』なら分かるはずだ!!神々に祈れ!!お前自身の魂の光が見えるはずだ!!)


全身が灼熱の焔に焼かれているようだ。


神に祈ってしまうくらいには熱い!


(爺〜〜っ!!!どうなってる!!??)


(ゼーレ坊!!腕を見るんじゃ!!)


「何っ!?」


血管が青白く光り手まで伸びている。


(さぁ!!その枝に『真血』を通せ!!!)


俺がエネルギーを枝に通した瞬間、持っていた枝がボロ炭になった。


そして俺はそのまま意識を失ってしまった。


〜〜〜〜〜〜


「バウ!!」


見慣れたビーズの顔だ。


ここは、、、、、


「あ、ゼッド!!やぁやぁ!心配しちゃったよ!!皆〜、ゼッドが起きたよ〜!!」


サリフの声が聞こえる。


どうやら俺は兵舎まで運ばれてきたらしい。


グフマンが怒りの形相で俺を見下ろしている。


「寝たままでいいぞ、ゼッド。時間ならたっぷりあるからな。話を聞かせろ。」


あぁ、やってしまった。


「訓練をしてたら、倒れた。」


「それなら知ってるぞ。今のお前さんの身体から精霊並みの力を感じる。いったい何をやらかした??なんなんだその魔力は?聖気とも違うな。」


ベガが早速突っ込んだ。


どうやら隠し通せなさそうだぞ?


(爺、どうすればいい?)


(ゼーレ坊、死霊魔導士(ネクロマンサー)の部分は秘密にしつつ、他は正直に話すべきじゃな。指揮官としてのう。)


(あいつは?)


ウルフヘズナルの頭目がいない。


(彼奴なら天界へ逝った。これ以上の事は知らない、とな。その『真血』という技は武器がダメになるから最期に使え、と言っとったぞ。スマムキにとどめを刺す唯一の武器だそうじゃ。)


「分かった。もうお手上げだよ。俺一人じゃ、始めから無理だったんだな。」


俺は諦めて傭兵達に告白する事にした。

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