七縛魂アスィーナー
(俺達はあと30分くらいはこうしてる。部下が怪しむから勝手に喋ってくれ。)
ウルフヘズナルの頭目の亡霊が語り始めた。
(これは今から1200年前の事だ。『狼の兄弟達』、つまりは他の傭兵をやってた親戚の部族が、異界からやってきた悪鬼の討伐をウィンドホーン豪族から請け負った。当時の報酬は冬の間だけタダで借り住まいさせてもらう事だった。それはどの部族も同じだ。傭兵稼業は食い扶持が不安定で移動ばかりだからな。ただし、その依頼に関しては、成功すれば3年の冬を凌げると言われた。)
ミューズリース王国建国が300年前。
それよりも900年も昔の事か。
俺はグフマンに聞いた。
「グフマン、ウィンドホーンには昔から此処を根城にしていた傭兵ギルドはあったのか?」
「なんだゼッド、なかなか古い話を聞くじゃないか。俺達の知る傭兵ギルドはかつてこのウィンドホーンから始まったと言われている。ここから更に北の方に俺達の祖先が居たと言われ、ウィンドホーンを拠点として南や西、東の全世界に散っていったと言われているんだ。そして地元民と交わって共和国や王国が出来上がったという訳だ。」
傭兵ギルドが世界中にあるのもそれが理由か。
「ウィンドホーンより北に傭兵は居ないのか?」
ベガが興味があり気に聞いた。
「いるとも、いないとも言われている。傭兵ギルドが無いのもあるが、北限には強力な魔物『原初の狼』が居て、普通の人間に行く事は出来ないと言われている。今はもう交易路すら無いんだ。冒険者すら寄り付かない。謎の多い場所だな。」
(その男の言う通りだ。ここより北は『古き狼の王』の住まい。俺達の先祖は王の忠実な戦士であり家族だった。ある時王が言った。「雪降らぬ地にて己の力を示せ。」とな。簡単に言えば、もう食い物が無いから他所へ行けという事だった。部族達の傭兵稼業が始まったんだ。)
頭目の亡霊はそのまま語り続けた。
(討伐の話に戻ろう。結果として悪鬼は打ち倒せなかった。何故ならば悪鬼に縛られた力の元となる魂は全部で七つあり、同時に倒さなければ悪鬼はこの世界から去らない。激昂した悪鬼は俺達人間をこの世から消し去る為に攻撃を仕掛けてきた。多くの兄弟、豪族達、罪無き人々が斃れた。俺達は部族の若い奴らをウィンドホーンから逃がし、長老達の指示に従い生きろと伝えた。)
狼の傭兵の亡霊が頭目に手を触れるとフッと消えた。
次々と消える亡霊達。
ベガが異変に気付く。
「ん?精霊の灯が移ったようだ。ここはそういう不思議な事もあるのか?」
「精霊の灯とはなんだ?ベガ。」
「精霊の持つエネルギーの事だ。見る事は出来ないが、精霊が死ぬ時はそのエネルギーが別の精霊を強めると考えられている。」
頭目の亡霊には強いオーラが宿っている。
(俺達は南からやってきたシャーマンの助力を得て、悪鬼と闘う力を得た。シャーマンによれば、七つに断たれた魂は異界の亜神のもので、亜神と悪鬼は異界での戦いの余波でこの世にやってきた、、、アスィーナーと呼ばれている。アスィーナーの魂を悪鬼から解放する為に俺達はシャーマンと共に戦い、七つの魂全てを『古き狼の王』から選別に賜った『狼王牙』に封じた。だが、その最期の闘いでシャーマンと俺達は悪鬼に殺されてしまった。アスィーナーを解放出来なかったシャーマンは魂となっても闘い、今も『狼王牙』の封印を護り続けていたが、もう時間切れになっちまった。)
俺はグフマンとベガに先に上がるよう伝えた。
「のぼせないようにしろよ?」
「あぁ、もうちょっとしたら直ぐに行く。」
(爺、悪鬼は強いと思うか?)
(歴戦の傭兵や魔法使いが命を落とすくらいじゃ。強いじゃろう。この1200年でだいぶ弱っていると良いのじゃが、、、)
頭目は俺に伝える。
(ゼッド。お前もあの時のシャーマンと同じだな。ドッツェン・ガレー。通称『死者と会話する者』、だったか。やつにも倅がいたのを覚えているぞ。)
(ドッツェン家!俺の先祖か!)
かなり衝撃的な情報だ。
(ほう!ゼーレ坊。ワシらの先祖は南から共和国に入ったらしいのう。ワシもそこまでは知らんぞい。魔法使いの名家としては有名だが、死霊魔術士の血もしっかり受け継いどる!これは運命じゃな!)
(倅は亡霊が全く見えない体質だったらしいがな。お前はガレーの子孫か。確かに運命だろう。これからお前に悪鬼との闘い方を教える。ガレーから教えられた闘い方は、俺達ウルフヘズナルでも完璧に習得する事は出来なかったが、触りだけでも教えよう。)
単純だった筈の護衛任務が、ややこしい事になりそうだ。




