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古き狼の傭兵団・ウルフヘズナルの亡霊

季節は冬。


ここミューズリース王国にもちらほらと雪が舞い始めていた。


「ぶぇぇっくしょい!!うぅ!寒い!ゼッド!!まぁだ着かんのか!?」


「まだ領地に入ったばかりじゃないですか。馬車に乗ってるんですから、我慢して下さい。昼間に火魔石の浪費は厳禁ですよ。」


「バウ!!!」


ここは北にあるウィンドホーンと呼ばれる田舎領。


本格的な雪のシーズンの前に民衆の命を守る為、薪の搬送が始まっていた。


お年寄りや妊婦、教会などに薪を届ける重要な仕事を、馬車を牽く荷役達が請け負うが、残念な事に、毎年この時期に現れるのが薪泥棒だ。


大概がコソ泥の様な奴らだが、徒党を組めば民衆には厄介この上ない存在だ。


俺達傭兵がいれば奴らは手を出せない。


玉砕覚悟の襲撃もたまにあるが、俺達は優しく縛って街まで送り届ける。。。。


奴隷にはなるが、凍え死ぬよりマシと思えば寛大だ。


俺とビーズが一緒にいる人物はとある貴族。


領主館事件の際、俺が片付けた賊から守っていたのが彼、ルグノー男爵だ。


彼は代官を立てて王都で暮らしていたが、隣の領地の領主が理由無き併合や人頭税を越領しての二重取り、ごろつきを用いた脅迫など、明らかな挑発、違法行為を行っていたため、俺が護衛に出張る事になった。


彼の暗殺を企てていたばかりか、ルグノー男爵の娘を誘拐する計画を知った俺は襲撃者を撃退。


敵対貴族の館に襲撃者の首を投げ込んで、それを捜査するという名目での強引な突撃で事件はスピード解決した。


今や彼は敵対していた貴族の領地を突然引き受ける事になり、手続き上は今後子爵に叙任される予定だ。


ウィンドホーンはルグノー男爵の元からの領地であり、彼の館は珍しく温泉が引いてある。


俺は薪の護衛、彼の護衛、そして温泉が目当てで来ているのだ。


「今は収穫期が終わり寂しい眺めだが、我が領地は大麦、小麦、エールが名産品じゃ。ゼッド、お主が普段飲んでいるエールも大概が此処で作られておる。最近では東から伝播したソイの生産にも着手しておるな。」


「俺にとっては金銀財宝より価値がある土地ですね。何よりもエールが飲み放題だ。」


「ワッハッハ!!ワシも同じ気持ちだ!最近はワインなどの洒落た酒も人気だが、やはりミューズリースの空気には温かいエールが良く合う!たとえこの世から魔法が消えても、エールだけは無くならんだろう。このわしが保証しよう。」


美味いステーキには美味いエールだ。


「俺が傭兵じゃなかったら、男爵のお抱え騎士も悪くないですね。」


エール飲み放題は魅力的だ。


ルグノー男爵は髭を撫で付けながら言った。


「個人的にはわしはゼッドを気に入っとるが、お前さんはトラブルの種になるだろう。ひとところの騎士には向いとらんな。」


適材適所と言いたい訳だ。


今日は薪泥棒は現れず、街の教会に薪を卸した後、中心部にある倉庫まで薪を護衛し、そのままルグノー男爵の館に向かった。


「ここの館の隣は兵舎になっとる。今日はそこに泊まってくれ。全部で何人だったか??」


「6人と1匹です。」


「なら大丈夫だな。お前たち傭兵のおかげで薪を無事に搬入出来た。1週間よろしく頼むぞ。」


「護衛なら任せて下さい。」


俺は今回の護衛任務で5人の傭兵部隊の指揮官を任される事になった。


俺の補助者として壮年の傭兵グフマン、傭兵見習いのカールストン、ターバンを巻いた美少年『月光』のサリフ、元騎士のケイレヴ、魔導士のベガ。


この編成を組んだのはアスゲルト中隊長だ。


傭兵は年齢で序列が決まる訳でもなければ、力量で序列が決まる訳でも無い。


編成を組んだ際の人選の根拠になるのは『死を避ける為の考えを如何に捻り出せるか』だ。


そして『生き残った者達』を寄せ集めて、その系譜を継ぐ事が、傭兵の育成方針だ。


指揮官の経験の浅い俺にグフマンが付き、中堅傭兵が命令を受け、その様子を見習いが学ぶ。


このやり方は昔から変わる事がない。


傭兵が失敗を繰り返さない様、または成功で増長しない様に、かつての傭兵達が守ってきた合理的なシステムなのだ。


(ゼーレ坊、部下達はなかなかやるぞい?魔力の流れに淀みが無く、自然じゃ。)


(はいはい、、、せいぜい舐められないようにしっかりと仕事はするさ。)


「ううっ!寒気がする!氷の精霊でもいるのか?」


爺の気配を感じ取ったベガが呻いた。


「今回は領主館の護衛はありがたい事に地元の騎士がやってくれるそうだ。あまりでしゃばらないようにしたいところだが、流石に全員が温泉に浸かる訳にはいかない。1時間交代で汗を流そう。」


「やぁやぁ、それなら俺は入らないよゼッド。いつも湯冷めしてすぐに風邪を引くからさ。」


サリフは温泉に集団で入らない。


西出身の傭兵は温泉や浴場を苦手とする傾向がある。


爺から聞いたが、これは単純に風呂が嫌いだとかではなく、西部の人間は臍から下は他人に見せないという戒律があるのだとか。


結構苦労しそうだが。


「無理するなサリフ。お前は皆が入った後に一人で入ると良い。俺は気にしないから。」


サリフが少し驚いた顔をしたが、嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうゼッド!」


ふん、とグスタフが鼻を鳴らした。


まぁ、今のは若造にしては気が利くな、みたいな意味合いだ、と思っておこう。


カールストンは不満気な顔をしたが、周りの傭兵が何も言わないのを見て、自分なりに考えている様だ。


良い傾向だ。


「まず、温泉に入る前に装備の点検を済ます。ここまでの移動で異常が無いか確認する。各人、剣と盾、鎧と靴を見せろ。」


点検が終わると、皆、旅の疲れを温泉で癒した。


「ゼッド殿、交代である。なかなか良いですな、温泉とやらは!」


ケイレヴがお肌ツルツルになって戻ってきた。


「なんでも若さを保つ成分が入ってるとか男爵が言ってたな。」


俺とグフマン、ベガが、温泉に入ると、思いも寄らぬ先客が居た。


(おいおい、霊が温泉入ってるぞ。)


(うむ、その様じゃな。しかも大所帯で。)


「うん?ずいぶんと精霊が多いんだな。温泉てのはいっつもこうか?」


ベガが感づいた様だが、姿が見える訳じゃない。


「温泉地には精霊が住むと聞く。もしくは亡くなった英霊が来るとも言われるな。」


グフマンが年長者の含蓄ある発言をした。


ばっちり見えてますよ、英霊。


(そこの坊主、俺達が見えるのか?)


(坊主じゃない、ゼッドだ。静かに温泉に入らせてくれ。)


俺は亡霊に苦情を入れるも、久々の来客に騒ぎ始めた。


(古き狼の傭兵団・ウルフヘズナルたぁ俺達の事よ!!皆んな殺されちまったが、何百年もこの地を守護してんのさ!)


こんなに大量の守護霊だと?


いったいどうしてこうなった?


聞いてもいないのに狼の毛皮を纏った頭目が話し始めた。


(俺達が見えるなら助けてくれよ、ゼッド。やつがまた現れる時期になっちまったんだ。ウィンドホーンが滅ぼされちまう。)


トラブルがやってきた。

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