アパムの恋文と『銀狐』ヴィレミナ
女盗賊『銀狐』ヴィレミナはゴブリン達の慰み者にはされていなかった。
銀髪に褐色の肌、強気な瞳。
瞳は左右、紫色と緑色だ。
酷く傷付けられてはいたが、オッドアイを殺せば闇の力に呪われるという迷信によって生かされていたのだ。
どうやらこの迷信はゴブリンの様な魔物の間でも共通認識であり、俺としては理解に苦しむ。
呪いを恐れるのに神々が忌み嫌う強盗殺人や強姦は何故許されると思うのだろう?
考えるのは止そう。
そして、少女はあの穢らわしい盗賊達をどうやって率いていたのだろう?
答えは簡単だった。
「『知恵の指環』よ。あたいは馬鹿なクズを言いくるめて顎で使ってただけだよ。生き残る為にね。ゴブリンがやってきて、指環を奪われて、子分も捕られた。どうする?あたいを突き出すかい?忌子のあたいを誰が守ってくれるんだい?」
「さぁな。俺は神官じゃない。その答えを出せるのは、お前自身なんだろう。それよりも、アパムって奴から手紙を預かってる。死ぬ間際にお前に渡して欲しいって。」
「う、嘘よ!!あいつ!!ゴブリンが来た時も、いの一番に逃げ出したの!!あいつらに捕まる訳ない!!」
明らかに動揺するヴィレミナ。
彼女の後ろで哀しげにアパムの霊が立っていた。
「お前が人生を諦めていると悟ったアパムは、お前を助けに戻ったんだ。命懸けでな。そして闘い、敗れた。惚れた女の為に死ぬ。男の誉れだ。」
俺はまだそんな相手がいないけど、アパムって奴は青春して死ねたな。
「ぐすっ!ぐすっ!!ふぇええぇん!!ふぇぇええん!!」
ヴィレミナの涙がアパムの手紙に付いた血の上に落ち染み込んだ。
彼女はこれまで、様々な罪を重ねて来ただろう。
だが、それはきっと彼女が望んで犯した訳じゃない。
ならばバランスを取れば良い。
あの亜神が言う通りならば、彼女にもやり直すチャンスはある筈だ。
「生き残りは数人か。教会の神官を手配しておこう。」
アスゲルト中隊長がそう言うと、伝令に短い指示を出した。
(アパム。約束は果たした。宝はどこにある?)
(国境に生える巨大な精霊クヌギの生え際にある目印から左に10歩、右に20歩の所に石が積んである。そこだ。)
良かった!!そこは国境警備の巡視経路だ!!
思わずガッツポーズする俺。
(分かった。もう逝っていいぞ。)
(あのさ、聞いていい?)
(何だ?)
やけに食い下がるな。
(守護霊って、俺もなれる?)
爺が話を遮った。
(やめとくんじゃ坊主。惚れた相手の守護霊なんか出来るわけないじゃろ。あのヴィレミナとかいう女子に男が出来たらどうするつもりじゃ?)
(イヤ、かも?)
(話にならんわい!天界にさっさと逝ってしまえい!)
爺はしっしっとアパムを追い払った。
(ゼッド、彼女をよろしくね?)
(あぁ、心配するな。)
俺はアパムの霊が逝った後に爺に聞いた。
(なんであんな意地悪したのさ?)
(甘いぞ?ゼーレ坊。わしのように魂を保持する術を持たぬ霊魂は危険じゃ。愛は憎しみにいとも容易く転化する。)
(爺も怨霊みたいなもんじゃん。)
(ばっかもん!!わしはゼーレ坊とドイツェン家を守る義務があるのじゃ!!神がお許しになられておるから守護霊が務まるのじゃ!!!)
爺は天界を指差した。
指差すなよ、、、、爺、、、
(それに、ほれ、あやつの手紙の言霊、血とそこの女子の涙で結界が成立したわい。最強最悪の呪いですら弾き返すじゃろうて。)
「ねぇ?さっきからアンタ大丈夫?様子が変だけど?」
もう泣き止んでる。
さすが『銀狐』。
野生児は強いな。
「いや、なんでもない。暫くしたら神官が来る。それまではあの女達と居てくれ。」
「あの犬は?」
「俺の飼い犬のビーズだ。仲良くしてやってくれ。」
「あたい!遊んでくる!」
手紙を握りしめたまま駆け出した。
俺達は未だ知らない。
あの元盗賊の少女が、傭兵ギルド、共和国、王国、そして死霊魔術士である俺の運命を巻き込む旋風になる事を。




