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県道4号線を新宿方面に白馬に乗った王子様が駆けてきた!

作者: 葉桜 笛
掲載日:2021/06/02

 火曜日の午後2時過ぎ

 紺井こんい有菜ゆうなは、レストランの制服の上にカーディガンを羽織はおって、県道4号線沿いを歩いていた。

 働いているレストランで「昼の混雑が落ち着いてきたから、今のうちにお願い」と、お使いをたのまれたからだ。


 日中にっちゅうも新宿は人が多いなと思いながら歩いていると、いつもと違う何かを感じた。

 人がザワザワしている。

 この先で何かイベントかドラマか映画の撮影があるのかもしれない。

 有菜ゆうなはポケットからスマホを取り出した。

 話題になりそうだったら、写真を撮って友達に送ろうと写真アプリを起動しようとした時、「パッカパッカ」と馬のひづめの音が聞こえた。



「うっそ……」



 紺井こんい有菜ゆうなは自分の目をうたがった。





(白馬に乗った王子様が、普通の車と一緒に県道を走ってる――――――――――!!!!)





 県道4号線。片側2車線の道路を新宿駅方面に車と一緒に走る白馬はくば

 しかも背中に王子様を乗せている。

 顔をよく見ると王子様は日本人と思われる。

 金の糸で細かい刺繍ししゅうが入った派手はでな赤い軍服に、これまた金の糸で細かい刺繍がほどこされている白いテカテカしたはばの広いたすき

 黒のズボンにも金の糸で刺繍が入っていて、誰がどう見ても「王子様」としか思えない姿だった。


 “スタイルがよくてアイドル系の顔の王子様”というわけではないが、胸をって姿勢しせい良く手綱たずなにぎる姿に有菜ゆうなはドキドキした。




 そう。女性は王子様に弱い。




 目の前にあらわれたら、テンションも上がる。

 もうすぐ30歳になる紺井こんい有菜ゆうなも王子に弱かった。



「え”っ!?」



 何故なぜ紺井こんい有菜ゆうなの目の前で、王子様は馬を止めた。

 近くで見上げる白馬は迫力はくりょくがある。

 しかし、なぜ自分の目の前で立ち止まるのかわからない。

 「なぜ?」と考えているうちに、王子様は馬からおりて有菜ゆうなの前で片膝かたひざをつき「僕と結婚してください」と有菜ゆうなにプロポーズをした。




 白馬に乗った王子様が突然とつぜんあらわれプロポーズ!




 有菜ゆうなわけがわからなかった。

 だが、目の前の王子は緊張しながら有菜ゆうなの返事を待っている。



「え?! ドッキリ? 何の番組?」

 と混乱こんらんする有菜ゆうなに「あなたは忘れているかもしれないけれど、僕達は半年前に会っています。その時、僕はあなたに恋をしました」と王子は言った。

 顔が赤くなっているので、嘘を言っているようには見えない。

 しかし、有菜ゆうなは王子様に会ったおぼえはない。

 白馬に乗った王子様に会えば忘れるわけがない。

 しかも、ここ一年は旅行や遊園地にも行ってないから、テーマパークとかの人でもなさそうだ。



 王子が説明するには、「朝の本屋で出会っている」との事だった。



(朝の本屋――――――――――――――?)



 そこで、有菜ゆうなは一つ思い当たる事があった。







 それは半年前の事。

 その日は大阪へ出張に行く日だった。

 働いているレストランの本店がある大阪で、店舗同士の交流会があり、新宿店からは有菜ゆうなが参加することになっていた。

 店長や先輩が、「交流なんて面倒だから」と有菜ゆうなに押しつけたのだ。


 この日は気になる漫画の発売日だったので、有菜ゆうなは本屋によった。新幹線の中での時間(つぶ)しにもなるからだ。

 目当めあての漫画を見つけてレジに並ぼうとした時、ほぼ同じタイミングでレジにならぼうとしている男性を見て、有菜ゆうなは気がついた。


(あっ! バッグとスーツケースがあるから、レジでもたついてしまうわ。

 さりなく順番をゆずって私が後ろにつこう)


 そう思って、なるべく自然に順番をゆずったのに、有菜ゆうなの前にレジに並んだ男性が突然ふりかえって「どうぞ」と言ってきた。

「え? 私、荷物多いんでいいです」と言っても、「いえ、あなたが先だったのでお先にどうぞ」と、男性は引かなかった。


 時間がかかるからこっそり男性に順番をゆずったのに、さらに譲り返してきた男性に有菜ゆうなはらがたった。


(後ろに人がいるとあせるからゆずったのに、さっしの悪い男ね!!)


 有菜ゆうなは半分キレ気味で返事をした。



「私は『いい』と言っているじゃないですか!

 どうしてもゆずると言うなら、私と結婚して下さい!!」



 男性は自分が何を言われたのか、すぐには理解できなかった。



「ほら、こまるでしょ?

 私と結婚したくなかったら、先にレジに行ってください」



 しかし、男性はまだ頭の中の整理がつかないでいた。



「親切に順番ゆずったのに、なんでかプリプリおこってる初めて会った女と結婚するのなんか嫌でしょ? 

 人はそれぞれ嫌な事が違うのよ!

 私はお金払うとき、後ろで人が待っているのが嫌なの! あせるでしょ?

 私、今日は荷物が多いのよ!!」



 そこで男性はようやく有菜ゆうなの言いたいことがわかってきたようだった。

「わかったらそのまま先にレジに行って下さい」とうながせば、男性は「あなたと結婚します!!」と返事した。

 これには有菜ゆうなも驚いた。



「はぁ? それって、人を結婚できないあわれなオバサンだと思ってからかってんの?

 どうせもうすぐ30よ!

 えぇ、そうですよ? いつか白馬に乗った王子様があらわれると思っているあわれなオバサンですよ!!」



 怒りをぶつける有菜ゆうなに男性は、「ぼ、僕は、他にも買い物があるので、お、お先に、どうぞ…………」と言って、コミック売り場の方に消えて行った。



 お店を出る時、先程さきほど会った男性に出くわした。

 有菜ゆうなはスーツケースがあるせいで歩くのが遅くなっている事をのろわしく思った。

 男性は「また会えますか?」と聞いてきた。「結婚してくれるんですよね?」ではなかった事に少しホッとした。



「あなた、本当に私と結婚する気なんですか?

 例え話で言ったつもりだったんですけど、言ってしまったものはしょうがないですね。

 わかりました。結婚しましょう。

 でも、これから出張なので、火曜日の14:00頃この先のレストラン『Hazakura』に来てください。

 だけど、覚えておいてください。

 約束通り結婚しますけど、その日のうちにすぐ離婚ですよ!」



 都会は変な人が多いから、例え話であっても「結婚する」なんて言うべきじゃなかったと後悔しながら新幹線に乗った。

 結局その男性はお店に来なかったので、有菜ゆうなはすっかり忘れていた。




(あぁ、そういえばそんなことあった……。

 あの頃は30歳の誕生日前で色々とあせっていたのよね)

 

 有菜ゆうなの友達は半分以上が結婚していた。結婚していない友達はほとんど彼氏もちだし、彼氏のいない子はやりたい仕事などに夢中になっていた。

 彼氏はいないし、やりたい事も特にない有菜ゆうなはやさぐれていた。お見合いに行ってもだまされそうな気はするし、合コンも気が進まない。


(あの時は「変な男」と思っていたけれど、変なのは私の方よね。レジに先に行くか結婚するかなんて、変な選択肢せんたくしじゃないの!

 この人はそんな変な女の夢をおぼえていて、かなえようとしたのか……)


 聞けば、王子様は身長も容姿ようし平凡へいぼんで最近中年太りになってきている自分が拒否きょひされるのは目に見えているので、有菜ゆうなの気を引くために白馬に乗って来たらしい。

 半年かかったのは乗馬クラブにかよって、馬が乗れるように練習していたためだとか。



「ハッキリ自分の意見を言う女性が僕は好きです。

 あの日あなたは怒っていましたが、後ろで待つ人の事を考えるなんて優しい人だなと思いました。

 あの時、僕はあなたに一目惚れしたのです。

 だって……、あ、あなたはこんなにも美しい!」


 と王子様は片膝かたひざをついたまま、堂々(どうどう)といった。

 たぶん、普段この王子様は堂々(どうどう)とした人ではないのだろう。少し声がふるえていた。

 そんなニセモノ王子様を見て、有菜ゆうなは何だか可笑おかしくなってきた。


 有菜ゆうなはクスッと笑ったあと、お姫様のように左手を優雅にばした。

 そして、ガシッと王子様の手をとりかた握手あくしゅをして返事した。せっかく「美しい」と言ってもらったので、なるべく美しい人の口調で。



「わかりましたわ。

まずは、お友達から始めましょう。王子様!!」



 二人はお伽噺とぎばなしの王子様とお姫様のように、大袈裟おおげさに抱きあった。

最後までお読みくださりありがとうございました。


『耳で聴いた時に更に楽しく聞こえますように〜!』って念じながら書きました。


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― 新着の感想 ―
[一言] ふふっと笑える素敵なお話でした。面白かったです。
[良い点] こんにちは。 すごくほっこりするお話でした。 プロポーズをするために、わざわざ王子様の格好をして(しかも馬に乗って)現れてくれるなんて、素敵な男性だと思いました。 本来は堂々とした人ではな…
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