第五話 暴走する兄 託す祖父
登場人物が増えます。
「ここは?」
神宝に吉備津彦命の隠れ神社に連れて来られて、その場所を知らなかった事に驚くデニム怪人だった男。
「ここは吉備津彦命様の隠れ神社です」
「吉備津彦命様の霊力で、認識阻害や魔を祓う結界が張られています」
と、説明をする神宝。
「よく解らないが……」
と、困惑するデニム怪人だった男。
「あまり深く考えずに、『そんなもんだ』と理解して」
と、適当に答える神宝。
説明を諦めたのだろう。
「「ただいま」」
と、二人で日幡に告げる神宝と白神。
「おかえりなさい。あれ?その人は?」
と、連れ帰った元デニム怪人を気にする日幡。
「あ、この人は……」
と、説明を神宝がしようとした時……
「あれ?この人 見た事がある気が……」
と、日幡。
「あ、やっぱりそうなんだ?オレもなんだよね」
と、同意する白神。
「初めまして。私は岡山県の知事をさせて頂いている茨木 良太です」
「今回は助けて頂きまして、ありがとうございました」
と、深々と頭を下げ、お礼を告げる茨木。
【県知事 茨木良太】
県知事を二期 務めている人物だ。
元は岡山県の代表的な企業の一つの天馬屋グループの社長を務めていた。
その天馬屋グループの創業家の出身でもある。
岡山県人なら知っていて当然の人物だった。
「えっ!?やっぱり知事だったんですか?いや、似てるな…とは思ってたんですが……」
と、驚愕の白神。
「・・・」
日幡は驚きのあまり、絶句してしまっている。
「あっ…………」
と、ふらついて、その場に座り込んでしまう白神。
「大丈夫?きっと二枚の【変化札】を同時に使った影響ね。座って楽にしてて。それでも……辛かったら横になって休んでも良いからね」
と、白神を気遣う神宝。
「はい……」
辛そうな白神。
「大変そうな所を済まないが、知事として状況を確認したいのだが……」
と、三人に声を掛ける茨木。
「わかりました」
と、説明を始める神宝。
「……と、こんな状態です」
神宝は、岡山県内の中心部のどこかで、魔界に繋がる門が開いた事や魔族の事、
そして、白神や温羅の事などを、わかりやすく簡潔に説明した。
話の中には、白神や日幡が教わっていない様な事も含まれていて、二人も熱心に聴いていた。
「な……なるほど……」
「そんな深刻な状態だったのか……」
と、茨木。
「はい。最悪と言っていい状態です」
と、返す神宝
プルップルップルッ プー
プルップルップルッ プー
プルップルップルッ プー
そこに日幡のスマホの着信音が響いた。
「ごめんなさい!」
と、申し訳無さそうに離れて出る日幡。
「えっ!?お兄ちゃん!?なに?えっ?違うよ!本当に鬼に襲われて…… えっ?来る!?ダメよ!あっ危ないからっ!」
混乱しながらたまに声が大きくなりながら電話している日幡。
「えっ!?お兄ちゃん!!!」
と、大混乱の日幡が叫ぶ。
「どうしたんですか?」
と、確認する神宝。
「うん。本当にどうしたの?」
と、白神。
「えっ…と…… 二人が出た後に、こちらにお世話になっている事や、今夜はこちらにお世話になりそうな事を、母親に電話して伝えたんです」
「そしたら、それを兄が母から電話で聞いた様で……」
申し訳無さそうな日幡。
「それでさっき掛かってきた電話で、兄がこちらに来ると……」
泣きそうな顔の日幡。
「あー……なるほど……」
と、神宝。
「あっ!ダメよ!お兄さん 出たら危険よ!」
と、何かに気が付く神宝。
「そうですよね。鬼が彷徨いているんですから……」
と、困惑の日幡。
「いえ、少し違うのよ。あなたのお兄さんも適性者の可能性が極めて高いからなのよ……」
と、説明する神宝。
「えっ!?そうなんですか?」
と、驚く日幡。
その頃 当の日幡の兄は、バットを持ち出し、バイクのヘルメットを被って、吉備津彦命の隠れ神社に居ると言う、妹を迎えに行く為に、慌ただしく準備をしていた。
「優美子のヤツ、がっ外泊するなんて……きっと騙されているんだ!」
鬼の様な形相で、家を出る日幡 優美子の兄の宣明だった。
鬼に見つからない様に、警戒しながら移動する宣明。
この非常事態でも無ければ、完全な不審者である。
「おっ…… と…… こっちにも居るのか?」
「何か探している?」
と、なかなか移動を出来ない宣明。
それでも、岡山市の街中を徘徊する鬼達を避けながら、岡山駅近辺を目指す。
場面は戻って、吉備津彦命の隠れ神社の中である。
「あ、俺もじいちゃんに連絡しなきゃ……」
辛そうにしながら電話を掛ける白神。
「あ、じいちゃん?オレだけど……」
と、白神が電話をしていると……
「うん。うん。魔界の門がね……うん。」
「えっ?渡す物が有るから?えっ?ちょっと待って……」
と、何か問題が有った様な白神が……
「じいちゃんが俺に渡す物が有るから、誰かに取りに越させろってさ……」
と、その場の人間に伝える白神。
「よし、それなら私が誰か取りに行かせよう」
と、茨木が申し出る。
「お願いします。こんな状況なので、俺 ここから動けないので……」
と、茨木に感謝する白神。
白神に住所など、必要な事を確認して、電話を掛ける茨木。
一緒に自分の無事も伝えてる様だ。
「と、言う事で頼むぞ」
と、最低限の用件を伝えて、電話を切る茨木。
「依頼したよ」
「さて、それで確認したいのだが……」
「・・・」
「知事として、私が今 出来る事を確認したい」
と、間を置いてから話す茨木。
「「はい」」
と、神宝と白神。
日幡は、兄の暴走で、それどころでは無い様だ。
オロオロと兄の心配をしている。
場面は変わって、白神の自宅の最寄りの警察署。
知事から連絡を受けた職員が、電話で県警本部の警察官幹部に協力を求めたので、本部から署に司令が入った。
司令は、白神の自宅で、祖父から荷物を預かり、吉備津彦命の隠れ神社まで運んで渡し、そのまま茨木知事の警護をして、県庁まで連れて移動する事。
「わかりました」
と、警察署長。
直ぐに警察官に指示を出す。
「今 指示を出しました。状況は電話で順次 お伝えします」
と、伝えて電話を切る警察署長。
また、場面は吉備津彦命の隠れ神社だ。
「見た所 戦力が全く足りていない様だよね?」
と、事態の核心を突く茨木。
流石は政治家だと、心の中で二人は感心していた。
「私は公務で出て岡山駅に居る時に襲われたんだ」
「護衛の者の攻撃は、鬼達に全く歯が立たなかった」
「駅にいた警察官が拳銃も使い対応していたが、それも無駄な抵抗になっていた……」
「何か対策はあるかね?」
と、神宝に問う茨木。
「いくつか有ります。ただ、その話の前に、理解して欲しい事が有ります。」
と、神宝。
「警察官の銃などの武器は、魔族には効果が低いです」
「次に、怪人化させられた人々に対して、銃を使うのは危険です」
と、神宝。
「そうなんですか?」
聞き返す茨木。
「はい。怪人化の間は効果が低い上に、怪人化から救えた時に、銃のダメージが残っている可能性があります」
「だから、侵略してきた魔族に対して、武器で攻撃をするのは良いですが、怪人化した人達には、攻撃を加えないで下さい」
そう告げる神宝。
「なるほど…… ちょっと一旦 連絡をさせてくれないか?それを県警の幹部に伝える。」
電話を掛け始めた茨木。
場面は変わって、白神の自宅である。
サイレンを鳴らし、急行した警察官が、白神の祖父から荷物を預かっている。
「これが着替えと、この封筒を渡してやってくれ、絶対に孫の役に立つ物だから」
と警察官に託す白神の祖父。
「それと…… 行く途中で、鬼に捕まっている男に遭遇する筈だから、このカードを渡してやってくれ」
と、白神は警察官に一枚の【変化札】を渡す。
不思議そうに白神の祖父、権造を見たが、命令された事のみを実行する為に、受け取った物を運ぶ。
細身の髪も伸ばした髭も白髪になっている権造は、寂しそうに警察官を見送った。
場面は戻り、また吉備津彦命の隠れ神社である。
「と言う事なので、宜しく頼みます」
岡山県警の幹部に連絡を終えた茨木。
「お待たせしました」
と、神宝に向き直る茨木。
「では、続きです」
と、神宝。
「【変化帯】と【変化札】の使い道は、化身する以外にもあります」
「白神さん 【変化帯】を巻いて、犬王様の【変化札】を挿して貰えますか?」
と、休んでいた白神に告げる神宝。
「あ、はい」
と言われるままに準備する白神。
「それで、目の前の折り紙に、人差し指と中指を立てて、『式神』と言って力を込めて下さい」
と、白神に指示する神宝。
「式神!」
言われたままを実行した白神。
すると、折り紙が勝手に犬の形に折られたかと思うと、それが本物の犬の様に実体化した。
首にはしめ縄の様な物が着いており、そこに大きな鈴が、中央に着いている。
「式神です。これを多数 使役して、跋扈する魔族を威嚇したり、戦闘の補助をさせたり出来ます」
と、説明をする神宝。
また場面は日幡 優美子の兄の宣明の様子である。
ここまでは鬼に見付からずに移動出来ていたが、とうとう見付かり追われている。
「くっそぉーーーっ!」
走って逃げる宣明。
しかし、鬼に囲まれてしまった。
しかも、雑魚の鬼よりも遥かに能力の高い、怪人化した者も含まれている。
怪人は、赤茶色の焼き物の光沢の鎧を全身に纏っている。どう見ても備前焼の怪人だ。
そして、鬼達のリーダーと思われる奴の手に握られている物がある。
左手には下位の【変化帯】、右手には形の違う中位の【化身帯】が握られていた。
「お前は適性が少し高いから、【化身帯】を使えそうだな」
と、【化身帯】を宣明の腰に巻こうとしてる。
絶体絶命である。
妹の為に、がんばるが捕まる宣明君。
謎な白髪の老人の白神の祖父権造。
次話の構想は出来上がっているので、文字にするだけです。