第1話
喧嘩した。
肩を落とし孤独に歩く僕の名は大宮元。16歳の高校二年生。身長172cm。
たった一人の友達との関係が今、危うくなっていた。とあることがきっかけで。
その名は宮元和樹。
同クラスで学級委員長を務めている。内気で臆病な僕とは違い、明るくまじめで優しい、まるで太陽の様な子だ。『明暗』という文字がしっくりくるコンビだと常々思う。
僕らの始まり。それは和樹が一人読書する自分に話しかけに来たことからだった。それも昼食の時間に。
「君って、いつも一人だよね。寂しくないの?」
突然のことだから緊張した。何から話していいかもわからずその時の記憶はあまり覚えていない。
でも一つだけ鮮明に覚えているのは、この人とは仲良くなれそうと、ふと感じたことだった。
友達をつくりたくないわけではなかった。気が合う人がいれば、一緒に登下校したり遊んだりしたいと思っていた。
けど、その想いはなかなか届かなかった。
それは、内気で臆病な性格がいつも僕の前に立ちはだかってきたから。
高校入学以降、たった一人で思春期を生きてきた自分にとっての初めてのチャンス。それも相手から話しかけてきた。あの時は並々ならぬ気持ちが心の中にあったに違いないと、掃除を済ませた自分は過去を振り返りながらひとり下駄箱に向かう。
『へぇ、元ってゲーム好きなんだ。今度遊びにいってもいい?俺もすきなんだよ』
『元って頭良くていいよな。俺も部活ばかりしずに見習わねえと』
『今度の夏休みさ、どこか行かない?俺行きたいところあるんだよな!』
過去を思い出す僕の正面から和樹がすたすたと歩いてきた。
いかん、仲直りするなら今しかない。
「和…」
しかし声を漏らしたときには、和樹が僕の真横を何事もなく通り過ぎていった。まるで築き上げてきた僕らの関係を壊すかのように。
はなから友達ではなかったかのように…。
少し廊下に立ち尽くす。声をかけたいがかけれない。関係を戻したいが戻せない。こんな時も自分の性格が邪魔をする。
「明日こそは話しかけよう。今日は仕方ないよ」
小さく胸を叩いて気弱な自分を鼓舞する。
そうだ、喧嘩するほど仲がいいとはこのことではないか。僕らは今後も友達でいられる。最初だって和樹のほうから話しかけてきてくれたんだ。
今度は自分の番だ。
下駄箱から靴をとり、澄み切った秋の空気を吸いながら足を動かした。
翌日、クラスから「いじめ」をうけることも知らずに。