今日もあいつは話さない
「なあ、吉野ぉ。いい加減話聞いてくれよ〜……」
「…………」
教室の隅で、今日も、赤崎 拓真の情けない声が、周りの雑音とともに溶けていく。
……今日で五日目。やはりだめか。
「なあ、吉野。お前いつも本読んでるけど、何読んでんの?」
「…………」
だめだぁ……、全く返事してくれねぇ。
それどころか、見向きもせずに読書に励んでいる。
こいつの名前は吉野 真帆。俺と同じクラスの女子。
成績優秀で、俺とは比にならない。容姿端麗で、真面目で、先生からの評判もいい。
だけど。だけどだ……。
こいつには、少々難アリなところがある。
もう、気づいてるやつもいるのではないだろうか。
そう!この女!全っっっっっ然喋らないのである。
いやマジで。誇張とかしてないから。全っっっっっ然喋らないの。
現にこうやって、5日かけて話しかけてるんだよ、俺。
なのにぃ!!
返事をしないどころか、見向きもされない。もはや空気状態である。
女友達と話してるところも見たことがない。
……というか、もう吉野は喋らないもんだという暗黙の了解すら、この教室では当たり前なのだ。
可愛いのに、勿体ないよな……。
まあ、とにかく。俺が何をしたいかと言うとだな。
……こいつの、笑った顔が見てみたいんだ。