ルールを守ってセーフティドライブ
地震等の災害が発生し、やむを得ず路上に駐車し避難をする場合は、クルマを左側に寄せてキーを付けたままにしておきます(スマートキーなどは車内の目立つ場所に置いておきます)。緊急車両などの通行に備えて、すぐにクルマを移動できるようドアロックはかけないのがポイントです。
(富岡自動車教習所の教本より)
「おい、コラカッパあたま、その車のキーは車のなかにいれたままにしとけよ」
「嫌です!盗まれると嫌だしー」
「災害時の常識だろ、お前教習所で習わなかったのか?」
「でも…」
「じゃ、一人で車乗ってろ」
「ちょちょちょ!マッテマッテ!」
「もしも何かあったときにすぐに乗り込めるようにすること。すぐに移動できるようにしておくこと。災害時の鉄則だぞ!」
オレは営業社員で社用車で移動することも多い。教習所でも習った覚えがあるが、危機管理の研修かなんかで聞いた気がする。まあカッパの車はアパート前の空き地にとめてあったしし、ホントはナンかあったときに、車をもらう狙いもあったんだけどね。
―まさかこんなとこで役に立つとはな!オレって天才!!!―
窓ガラスには血まみれのオッサンやら青白い顔をしたおねーちゃんやらが窓ガラスに顔をつけて白濁した目で中を窺っている。
オレはロンクルのプッシュスタートスイッチを押す。
“ガー!グルン!グル”
小気味のよい音を立ててエンジンが動き出す。
時刻は≪15:02≫と表示される。
「感謝するぜカッパ!」
オレは一人で叫びながら、シフトレバーを【D】に入れた。
ボコッ!
目の前にいる元ジジイをゆっくりと轢く。
ベコッ
「うげっ」
と乾いた声を聞く。
右側の窓ガラスに張り付いた女の足を後部タイヤで踏んだ感触がかすかに伝わった。
りあえずまくことに専念しようとオレは県道に出て、ぐるりと町内を一回り。
ゾロゾロと車に引き寄せられ亡者の葬列をつくる。気づけば20体程度の隊列ができていた。あ、こんなに居たんだ。
今まで家の中に居たから気づかなかった。ビルの陰や庭木の後ろ、タバコ屋の角からやつらがぞろぞろと出てきた。
腐臭を漂わせ、顎や腕の無いものなど身体の部位に欠損がある奴、首が変な方向に折れ曲がっている奴、内臓をだらりとぶら下げている奴、
全くの誤算だったな。と思いながら、ゆっくりと車を走らせる。
ほどよくアパートから引き放したところで、ぐっとスピードを上げ奴らを撒く。
シフトをニュートラルに入れてエンジンを切る。惰性で静かにごろごろとアパートの階段すぐ下に停車させ、急いで飛び降りて階段を一気にかけあがり部屋の扉に飛び込んだ。
バタン!ガチャリ。
施錠をすると身体がいっぺんに強烈な重力を感じるようになる。
「大丈夫か!!??」
常さんとカッパが駆け寄ってくる。誰のせいだと思ってんだよ。たくっ。死ぬとこだったぜ。
「ぜぇ…はぁ…えらい、なんとか、無事だ…」
こんな全力疾走、高校を卒業してからはじめてかも。いや命の危機を幹事ながら走るのは生まれてはじめてだ。
「あー!!!」
「バカっ!!」
カッパが窓から下を見下ろしながら大声を出した瞬間に常さんに後頭部をぶん殴られた。
カッパが叫んだ理由はなんとなくわかるよ。
だって君のピカピカの愛車は血まみれで、あちこち傷だらけ。ところどころヘコんでるしね。
大丈夫。車は動く。
君がオレ達の命を危険に晒したことを思えば安いものです。
外では季節外れの雪がチラチラと舞っている。




