角部屋の元住人
壁破りをした我々侵入者を歓迎するかのように、かつて2階の角屋の住人は穴から腕を突きだした。
常さんの剣スコによってへし折られたそれの腕からは、白い骨とともに赤黒いミミズが顔を覗かせた。(顔か尻かは判断つきかねるため主観による)
ヘタに触れたら最後、自分の体にお招きすることになる。それはゴメンだわ。
かといって火をつけて燃やそうものなら、オンボロアパートでコイツとともに真っ黒け。それもまたかんべん。
「こ、こんなん見付けたぜ!」
カッパがいつの間にか見つけ出してきたのは家庭用消火器だった。
「バカ!火もつけてないのにそんなん聞くかよ!」
「いや、やってみよう!」
常さんの叱責にかぶせ気味にオレは言った。
オレはカッパから消火器を受けとると、黄色いピンを抜き、ノズルを向けヤツの腕をめがけて吹き掛ける。
すると顔を覗かせたミミズの頭(あくまで主ry)はジュルジュルと音をたて腕の付け根まで皮を波打たせながら引いていく。
腕が一気に脱力し、だらりと垂れ下がった。
「ななな、なんかよくわからんけど、ひいたよ!」
「消火器がかかった傷口のあたりに水分と酸素がなくなったんだ!」
カッパの歓声にこたえた。
「くあやかはらわぬなbtgめ!」
角部屋の住人だったそれはうめき声をあげながら今度は顔を穴から覗かせ、大きな開きオレたちに噛みつこうとしてくる。
“ガシュッ!”
が、思い虚しく穴から顔を覗かせた程度では届かず、常さんが振りかぶったスコップが深く首もとに突き刺さった。
やつは顔をうなだれたまま動きを止めた。
口の中からはミミズの蠢動は見えたが、首もとや口のなかに消火器を噴射すと、その動きも外からは見えなくなった。
「止まった…のか?」
どこかのアニメの主人公のようなセリフだなと常さんを見ながら思ったのだがそれは秘密だ。
動かなくなったのを確認しながら、壁を破り、念のため同居人がいないか探った後、元角部屋の住人の顔にポリ袋をかぶせてきつく縛る。そして体もビニールロープで縛り付けた。
「こいつ、どうする?」
「燃やすしかねえだろ。このままにしとくわけにゃいかねえし」
オレの投げ掛けに対し常さんは投げやりに言った。
カッパはさっそく台所でごそごそとなにかを漁っている。
「どこで、どうやって?」
「それなんだよなー!」
“ブシュ”
ペットボトルのキャップを捻って炭酸ガスの漏れる音がする。
常さんは脂ぎった汗を滴ながらコーラをうまそうに飲む。
「アパートの前だと火がそこらへんに燃え移るかもしれん」
「アパートから離すと他のやつに襲われるかもしれん」
オレは薄くなった後頭部の髪をわしゃわしゃと掻く。
悩むときには金田一耕助だってそうするのだ。
…
…
何も出てこない。
指には細くなった髪の毛が絡まっており陰鬱な気分になる。
どよーん。
…
「この県道もせっかく4車線にしたのに車ひとつ走ってねーや。もう生きてる奴なんかいねーのかなあ?」
カッパが角部屋の西窓から身を乗り出して言う。
「道で燃やそう!」
常さんが叫ぶ。
そうか、アパートの西側に面した広い県道なら燃やしても遠くまで見通せるし、可燃物は近くにない。
「うし、今から運ぶぞ!さすがだカッパ!」
「ええ?な、なに?」
状況を掴みきれてないカッパのケツを叩き、西窓から元角部屋の住人の遺骸を放り投げる。




