隣のおっちゃんありがとう
「ちょちょちょ!!!なにやってんだよ!」
ついにこのデブ錯乱したか!
「この数日、隣は物音ひとつしない。ノリ、両隣埋まってるって言ってたよな」
「あ、ああ」
「じゃあ。中で死んでるか、中でやつらの仲間入りをしてるか、外でやつらの仲間入りをしてるか、その三択だな」
「なるほど、それで隣の物資を戴いてやろうってことだな!」
カッパが一緒になって壁を崩しだす。
「人聞きの悪いこと言うなや、所持者所在不明のため接収の上、生活困窮者のために有効活用させていただくだけじゃ。ボケ」
このメタボ公務員…犯罪も正当行為にしようとする。怖いなあ。
「とーちゃんのためならエーンヤコラー」
「かーちゃんのためならエーンヤコラー♪」
ボロ!ボロッ!
壁は崩れいくつかの竹の梁が出てきた。そのまま崩し続けると隣は簡単に見えてきた。
ゴリゴリゴリゴリ!
梁をノコギリで切り、あっという間に野趣溢れる門の完成だ。
しに器物破損、そして略奪。昨日までの小市民が立派な犯罪者である。
ろくな死に方はしないだろう。
かく言うオレもなんだか楽しくなってきた。
「エーンヤコラー♪」
みるみるうちに壁に穴が開く。
隣の部屋はたしか、土建屋で働くおっちゃんだっけ。
何か食い物があればいいけど。Biter出てきたらどうしよ…おっちゃんが感染してませんように。
開始して10分もしないうちに、胸の大きさほどの穴が開く。
常さんにせっつかれカッパが顔を穴に突っ込む。
「ひっ、な、なにもい、いないです」
「ほんとか?隠れてるかもしれないからもっと身を乗り出してみろよ」
「ひっ、ひっ!や、止めて!押さないで」
Biterは音に敏感に反応し、臭いをたどり獲物に取りつく。…とネットに書いていた。あれだけデカい音をたてても出てこないのだ。だから、この部屋にはいない。だが、カッパの反応が面白いので続けてみる。
「あっ!あそこにいるぞ!」
オレはカッパの後ろで叫んでみる。
「ひっ!え?!ど、どこ!?」
小さいケツを振り回しながら首を戻そうとする。が常さんも面白がって背中を押さえているので動かない。
「え?!なんで!なんで動かないの!?」
カッパが必死に悶えながら息たえ絶えに首を戻した視線の先には爆笑する常さんとオレが居たことは言うまでもない。
「もう!焦ったじゃないですかっ!なんで!」
金切声で抗議をするカッパ。面倒なので省略する。
…
カッパの尊い犠牲のおかげで安全が確認され、オレたちは隣の部屋へと乗り込んだ。
キッチンにはわりと几帳面な性格のようで、開封日ラベリングされたお麩や鰹節、小麦粉などがあった。戸棚の中にもカップ麺や、レトルト食品、缶詰めなどが几帳面に並ぶ。
「オレ、これが食いたかったんですよ!プラチナカレー!」
カッパが陳列棚を漁りながら言う。
「あとだ!あと!常さん冷蔵庫はどう?」
「肉はダメになってるな。さすがに。野菜は行けそうだ」
毎日一人で朝早く働きに出ていくおっちゃん。おっちゃんの貯蓄は無駄にはしないから。
その他にも冬の現場作業にも耐えられるであろう防寒具などもたくさん見つかった。こりゃマジで助かるね。
ほとんど話したこともない隣のおっちゃん、ありがとう。




