はじめて人の頭をバールで殴った
「お前なあ!」
常さんは勝手なことをいうカッパに青筋たてて叱っている。
その時、すぐ後ろの女の死骸がぴくりと動いた気がした。
がさっ…
いや動いた。
青い血管が浮き出ている死骸の青白い手の指先が土にめり込む。
常さんもカッパも気づいていない。
ぬっと女が立ち上がる。
身体には噛まれたであろう肩のえぐれた傷。そして常さんが投げて脇腹に刺さったままの剣先スコップ。普通の人間なら痛みでのたうちまわってもおかしくない。そして素人が見ても大量出血でどうみたって動けるような状態じゃない。…それが人間なら。
「常さん!屈んで」
“バキ”
後ろから静かに襲いかかろうとする女Bierをオレは思いっきりバールで殴った。
手にビリビリと衝撃が走る。
“カランッカラン”
手からバールが零れ落ちる。生れてこのかた思いっきり人を棒でなぐったのはもちろん初めてだし、人を本気で殴ったことすらない。
女Biterの頭は大きくへこみ、首はおかしな方向に曲がっている。
「ごぶごヴぇ」
泡を吹いているが倒れない。
倒れないどころかオレに標的を換え、その青白い手を伸ばしてくる。女のきれいに手入れされていたであろう真っ赤なネイルは土を思いっきりつかんだせいか、ボロボロに剥がれ赤黒い血が赤いツメに滲んでいる。
「なあああにってば、怒ってないよおぉぉう」
オレは蛇に睨まれた蛙のように身動きができないという体験を初めてした。
もうだめか。
そこに常さんがバールを拾ってもう一度頭をブッ飛ばした。
「ぐおびうえ!!」
首がぐにゃっと曲がって女Biterは一気にふっとんだ。
「なななななな・・・・」
「いいかカッパ。こいつは死んでるんだ。死んでなお虫によって動かされていただけなんだ」
ほれと、常さんがぐったりした首を軽くけると、あんぐりと開いた口からもぞもぞと女の腕ほどもあるミミズがもぞもぞと蠢いているのがみえる。
うげえ。
やっぱり見慣れない。胃から酸っぱいものがこみ上げる。
「うげろろげろrげろ・・・」
オレより先に、しゃがみこんでいたカッパが青い顔でその場でしこたま吐いている。
遠くでうめき声が聞こえた気がした。
「常さん」
「ああ。おい、カッパ。ここで座り込んでゲロをずっと見つめておくならそれでもいいが、やつら(・・・)が近づいてきている。オレ達は帰るぞ」
オレと常さんは急いで家に向かって走り出した。
「おおい待ってくれよ~」
と後ろからカッパがすごすごとついてきた。
4月3日 12:00 どこかの工場で正午を知らせるサイレンが鳴る。
カッパがあまりにもうるさいので家に入れてやることにした。嫌だけど、ほっとくとずっと玄関先で叫ばれてかえってBiter達を呼び寄せることになりかねない。
ぜい肉も筋肉も無い細い腕。
そして猫背で、出っ歯。それはどう見たってカッパだよ。てっぺんハゲてるし。
しっかしこのカッパ、クサいのだ。
仕方がないので風呂場に放り込んだ。
Biterとかいうゾンビのような感染した人間たちが街中をうろつくことも修羅場だが、オレの城に美少女ではなく変なおっさんたちが暮らしている。しかも複数人。この事実を突き付けられオレの心はまさに修羅場を迎えているのだ。




