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世界は知らぬまに壊れて

ヒトは進化の過程で高い環境順応性を手に入れることと引き換えに、身体を覆う毛皮を捨て、植物の繊維や動物の皮革を身に纏うことで厳しい環境に適応してきた。


また草食動物のように繊維質を血肉にすることはできないし、肉食動物のように骨を砕ききる強靭な顎もない。しかしその代わり、肉、草、魚区別なく摂取し、様々なものを食糧とすることで繁殖を行ってきた。


眠たいことを言うオッサンだなあ。


3月30日(金) 12:00


オレは腕組みをしながら神妙な顔をして

「はい。なるほど。たしかに、うん、なるほど」

と話を聞いていた。

そう、聞いてはいたが(早くおわんねえかな。腹へったなあ)とか考えていた。街の中小健康食品会社。そこの社長(オッサン)が熱弁を奮っている。


「そこで!我が社が開発したのはコレ!」

緑色の丸い串に刺さった…そう、鮮やかな緑色の団子…?

「…団子?…ですか?」

「そう!富岡市内を流れる川は?」

「富川?」

「そう!富川で育ったホテイアオイやアオミドロを緑色成分のほぼ100%使用した団子!ビタミン類、食物繊維が豊富に含まれて栄養まんてん!」

ちなみに、ホテイアオイは水の流れが遅く、ちょっと汚い川や池に発生する水草。アオミドロは淡水魚の水槽や池、沼地なんかによくある“藻”だ。

そりゃあの汚い富川には豊富に材料が転がっている。

「食べれる…んですか?」

「大丈夫!ちょっとお通じが良くなる効果もあるよ!3週間便秘に悩まされていたウチの女子社員はさっきからトイレに籠ったまま出てこなくなるくらい!」

それっておなか壊してんじゃね?!


「ぜひ、うちの新商品を”楽しさ満天☆通販ライフ”のカタログに加えていただきたい!!」

「そ、それは、じょ上司と相談してから…」

「じゃ、この団子!上司の方にぜひ!あ、そうだ、これ、富川団子って名前にしよう!ね、食べて見てもらえます?!」


河川の汚染度ランキング栄えある全国1位の富川にあやかってる時点で売れる気がしない…毒々しい緑色に食欲も湧かない。


『今日午前未明、東京都世田谷の路上で28歳の女性が倒れているのが発見され病院に搬送されましたが死亡が確認されました。しかし、数分後職員と駆けつけた警察官が遺体が無くなっているのに気付いたということです。警察は何者かが遺体を持ち去ったと見て捜査を進めています。現場と中継が繋がっています…』


12時を過ぎたからか、会社では客が居るというのに遠慮なく、テレビを付け、おばちゃんが弁当をつついている。


「では、サンプル、お預かりしますね。後日またご連絡させていただきますので、失礼します!」

オレは引き留めようとする禿げ頭の社長を尻目に、逃げるようにして会社を後にした。



怒涛の年度末。昨日の原稿締切までが地獄だった。

ねえ、「職場と家との往復の毎日」ってよく言うでしょ?

あれってまだ恵まれた方だって知ったのが2年目の年度末。洗濯は会社の一階、コインランドリー。

メシは会社の前の弁当屋。寝床?5年目までは廊下。8年目までは休憩室のベンチ。今は応接用のソファーまでレベルアップした。


いつの間にか10年やってるよこの仕事。



街はすっかり夕暮れ。悲しくなってきたよ。

ああ、もういっか。帰っちゃおうかな。


なんだかどっと疲れが出てきた。

こりゃ、風邪引きかけてるな。そうに違いないのさ。


「すみません、これからもう二軒アポイントがありまして。ええ、そうなんです。なので今日は訪問をすませて、直帰しますので」

会社に電話をかけた。たまたまパートのヨッちゃんが出てくれたから話は早かった。よかった。


オレは足取り軽く家路へと急いだ。え?アポ?嘘に決まってんだろ。

今日は金曜日。土日は休み。月曜も祝日で休み。火曜日は75連勤(泣)の代休を申請してある。4連休は家から一歩も出ない覚悟だ。


帰りにTSUTAmAによるとDVDレンタル10本まとめて500円なんて破格のイベントをしてたもんだから調子に乗って20本映画を借りまくった。


近所のスーパーに夕飯の買い物に出かけたら、売りつくし大広告市をしていた。カップ麺や缶詰め、ビールをどっさり買い込んで、オンボロ車に積み込む。


アパートの廊下で、下の階のキレイなお姉さんと目があった。軽くお辞儀をされた。


こりゃなんだか良いことあるかも!!??


久しぶりのわが家。


懐かしのわが家。


オレの城。


床に寝転んだとたんに急激な眠気。

そんな33歳独身。

“児島憲和”

彼女なし。田舎に父と母を残して、中途半端な都会に来てはや15年。


3月30日(金) 22:35

人類が支配者として地球に君臨していた時代の終焉は、すぐそこまできていた。オレはまだ知らなかった。


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