情報提供
「関係ある、と言うと……?」
マウロは訝しげな顔でハルに尋ねる。
ハルは、現時点で得られている情報をマウロに伝える。
「まず、私の古い友人が調べてくれた情報から、上の階に泊まっていた男が私達を尾行しているという事が分かりました。また、オルヴィエートに来て直ぐ、私の部屋にこんな手紙が送られてきました」
ハルはそう言うと、一枚の手紙を取り出してマウロに見せた。
「手紙って……? あぁ。メールに書いてあったのはこれの事だったんですね」
フランチェスカはハルの取り出した手紙を興味津々で覗き込む。
マウロとフランチェスカはその手紙の内容を確認した。
「……あなたが、という書き方は気になりますね。これはお二人に向けたメッセージというよりも、ストーナーさん一人に向けているという事ですか」
「私もそう考えました、マウロ署長。だからこそフランカには話さなかったんだ。万が一の時に巻き込まないようにね。済まなかった」
ハルは手紙をポケットにしまう。
そしてバッグからラップトップを取り出した。
「では、これまでの経緯と、現時点での私の推理をお話しします」
マウロが一旦厨房の外に出る。
そして椅子を三人分抱えて戻ってきた。
「探偵さんの話は座って聞くほうが良いでしょう?」
三人は椅子に腰かける。
そしてハルは改めて話し始めた。
「まず、私達がオルヴィエートに来て最初の夜に、先程の手紙が私の部屋に送られてきました。その翌日、私とフランカで事件現場の調査と周辺住民への聞き込みを行いました。そこへ二人の警察官が現れました。それはご存知ですね署長?」
「確認しています。報告が来てましたからね」
マウロが相槌と共に返事をした。
「その日の夜、私は昔の仕事仲間にある事に関して調査してくれるように頼みました。私の部屋に手紙が送られてきたタイミングを考えると、誰かが私達を監視していると考えたので、その誰かを調べられないか頼んだのです。その結果、やはり私達を監視、尾行している人間が居る事が分かりました。それが今朝亡くなったロイという男です。私とフランカが署長の元を訪れたのはその翌日です。私はある考えの元に貴方にお話をしていました。というのも、お話しした通り私達はアリアという被害者に事情を聴くために貴方の元を訪れたわけです」
マウロがハルの話を止めた。
「ちょっと待ってください。貴方の旧友の方はどうやって貴方達が男に尾行されている事を突き止めたんです? それに名前まで……」
「すみません、それに関してはお答えできないんです。私もその友人にすべて任せていたので」
マウロは納得したような素振りを見せていたが、少し疑わしそうな目でハルを視ていた。
「そして今日になります。さて、マウロ署長にお伺いしたいことがあります」
「なんでしょう? 今のところ私には話がよく見えてきていないのですが……」
ハルは少し間を置いた。
マウロの様子を観察するように彼をじっと見ている。
マウロは少し緊張した様子だった。
「パッツィ・ロイ。彼は警察関係者なのでは?」
その質問にマウロはしばらく答えない。
だが、ハルはマウロの視線の動きから、彼の明らかな動揺を読み取っていた。
「それは……。そうですね、ストーナーさん。彼、パッツィは確かに我々と同じ警察の人間です。但し、パッツィ・ロイというのは偽名ですが。どうしてそう思われたのです?」
「貴方を目の前にしてこんな事を言うのは憚られるのですが……。10年も前の未解決事件を誰の頼みでも無く調べる我々の存在は、貴方達警察の人間にとって目障りだと考えまして。身内の暗部を探られたくないので、内偵を我々の元に送り込んだのでは?」
マウロは何も答えない。
何かを考えているようだ。
ハルは冷静にその様子を観察していた。
マウロは今も動揺していた様だが、先程とは少し違った雰囲気だった。
「……ストーナーさん。こんな事は言いたくないのですが」
「なんでしょう?」
マウロは考えを整理しているようだった。
「お二人を監視するように指示したのは、確かに私です。ですが、その指示を出すようにと、私も指示を出されての行動なのです。正直、何故監視などするのか分かりませんでしたが……」
「……それはいったい誰から? マウロ署長、私は現時点で得た情報と推理をお話ししました。署長もどうかお話してくれませんか? ロイが死亡した事についても、何かわかるかもしれないんですよ」
マウロは少し落ち着いたトーンでハルに向き直った。
「ベンジャミン・グラハム。先代の署長にして、貴方が探そうとしている男です」