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男の名は

翌日。

ハルとフランチェスカはカフェに来ていた。


「さてフランカ、滞在猶予はあと2日だが、どうする?」


「そうですね、少なくとも現場はこの目で見る事ができましたし成果はあったと思います。それに観光も出来ましたし」


「うん、そうだな。私はあと2日でもう一つだけ調べたい事があるんだ。事件から生き残った少女、まぁ少女と言っても当時の話だが、このアリアの話を聞いてみたいと思ってる」


フランチェスカはそれに少し驚いたような表情を見せていた。


「なんだ、まさかあと2日遊んで過ごすつもりだったのか? アリアさんの話を聞く事でもしかしたら新しいヒントが得られるかもしれないんだぞ」


「それはそうですけど、話を聞くって……。この少女の足取りは掴めるんですか?」


「それは、警察に事情を話せば教えてくれると思うが……。足取りも何も、このアリアさんは当時はまだ10代だし、親戚に引き取られたりしてると思うぞ。とにかく、この2日でそれに挑戦してみよう」


「……うーん」


フランチェスカは気乗りしていない様子だった。


「……そうだな、確かに気持ちはわかる。過去の忌まわしい記憶をわざわざ掘り返させるような事だ。だが、未解決事件を調査し、解決に導くには必要なことなんだ」


「わかりました。やってみましょう」


二人はカフェを出て、警察署へ向かう。

ハルは警察署の前まで来るとフランチェスカ一人を行かせようとしたが、フランチェスカに強引に引っ張られ中に入ることになった。


受付でフランチェスカが用件を伝える。

流石にこの数日間で二人の存在は警察署内にも知れ渡っていたようで、あっさりと奥の部屋へ通された。


その部屋でしばらく待っていると、男が一人入ってきた。

その男は英語で二人に話しかけてきた。


「お二人の事はお伺いしております。何をしているのかもね。私はマウロ。ここの署長です」


「初めまして。私はハル・ストーナー。そして隣にいるのが助手のフランチェスカです。早速ですが、署長にご相談がございます」


「ストーナーさん、あなたのお噂は耳にしていますよ。相談というのは、つまり例の事件に関しての話ですね? 随分と昔の事件です。今の私で力になれるか分かりませんが」


ハルはまずイタリアに来た経緯と、現地で得た情報をマウロに伝えた。

マウロはそれを黙って聞いている。


「……なるほど。それであの生存者、アリアに話を聞きたいと」


「なんとか許可を頂けませんか?」


「確かにあの事件はここの管轄でした。ですが、当時の担当者であり、事件当時ここの署長だった者しか彼女の居場所は知らないのです」


「その方にお会いすることはできますか?」


マウロはしばらく考え込む。


「うーん。当時ここの署長だった男はアメリカから来た警察の人間だったのですよ。ほら、10年前に起きた世界規模のテロ攻撃の影響で、この地域もアメリカ主導での共同戦線による捜査をしていたのです」


「あぁ。そう言えばこの事件が起きたのはちょうどその頃ですね……」


二人が黙り込んでいるのを見て、フランチェスカは不思議そうにその様子を眺めていた。


「あの、世界規模のテロって一体何の話ですか……?」


フランチェスカの問いに、ハルとマウロは驚きを隠せない様子だった。


「なんのって、フランカ、あの事件を知らないのか!?」


「まぁ確かに、知らなくても無理はないかもしれませんね。今から10年前にアメリカ、ヨーロッパ、アジアに向けて大規模なテロ攻撃が画策されていたんです。確かに報道規制や各国間の情報統制でその当時の関係者以外はあまり記憶にない出来事かもしれません」


「そ、そんな事があったんですね。ごめんなさい勉強不足で」


フランチェスカが恥ずかしそうに身を縮める。

マウロは話を続けた。


「そういう訳で、テロ対策として各国から優秀な警察官を多数イタリアにも呼んだのです。あのテロ攻撃は歴史的建造物を狙っていたので、ここオルヴィエートも重要警戒区域として指定されていました。そして、その当時の局長はここへやってきました」


「なるほど。その人は今どこに居るか分かりますか?」


「おそらく今もイタリアに居るはずです。ただ、どこに住んでいるのかまでは……。心当たりがあるとすれば、それはここオルヴィエートの周辺だとは思いますが」


「それだけ教えてもらえれば十分です。私は探偵なので人探しは得意ですから」


ハルとフランチェスカはマウロと握手を交わし、警察署を出た。

帰り際、フランチェスカがハルに話しかけた。


「先生、警察の人ともちゃんと話せてるじゃないですか」


「たまたまだ。彼からは私と同じ匂いがした。現場主義のな。だからさ」


「それにしても、やっぱりヒントは散り散りですね」


「10年も前の事件を調べているんだ。こちらの警察の方々にも迷惑な話かもな。過去の未解決事件という、ある意味での汚点をほじくり返されているようなものだ」


オルヴィエートのホテル付近につくと、フランチェスカはまた一人で何処かへ去った。

ハルはホテルの自室に戻り、現地警察の元署長であるアメリカ人を探すための準備を始めた。


「しまった」


ハルは思わず天を仰いだ。


「そのアメリカ人の名を聞くのを忘れていた」


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