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6話 恨みを抱えた迷子

【イリスティナ視点】


 時間はもう遅い夜更け近く。

 依頼の説明が終了し、ファミリアや他数人のメイドたちの案内の元、冒険者たちは城から出て帰っていきました。依頼を受けて貰えるかどうかは、1日ほど考える時間が必要でしょうし。


 多くの冒険者が岐路につく中、まだ部屋の中に残って書面をじっと見、考え込んでいる冒険者の方々が数名いました。

 そのうちの1人にクラッグがいました。


「クラッグ様……何か質問などはございますでしょうか……?」


 声をかけると、彼は少しだけ顔を上げ、上目づかいで私を睨むように見てきました。


「……情報が少なすぎて質問のしようがねぇ」

「申し訳ありません。しかし、その条件下のための報酬額の高さだとお考え下さい」

「…………」


 そして、クラッグは口を尖らせながら喋った。


「……だが、悪くない。たまたまだろうけど、この内容の場合、報酬よりも撤退支援があるのがありがたい。後は、金額はかさむが負傷した場合の補償などの項目も追加しておけば参加する人は増えるだろうな。その場合、報奨金は低く設定しても良かったんだが、もう遅いな。後から報奨金を減らすのはアウトだぞ?」


 あれ?

 クラッグから真面目なアドバイスを頂けているのでしょうか?それどころか、最初、悪くないって……。


 …………。


「ありがとうございますっ!」

「う……うるせぇっ! 及第点ギリギリだっ! バカッ! 俺が参加するかどうかは、まだ決めてねえからなっ……!」


 思わず笑顔を浮かべると、クラッグは大きな声を出しながら思いっきり顔を背けた。僅かに見える頬が赤くなっているのが分かります。

 というより、貴方のそんな反応を見るのは初めてなんですが……。

 むぅ……。


 その後クラッグは音を立てながらすぐ席を立ち、速足でこの部屋の扉の方へと歩いていきました。


「お帰りですか? 今、メイドたちが他の冒険者の案内をしてしまっているので、戻ってくるまでお待ち頂けないでしょうか?」

「いらん!」


 クラッグはそう短く返事をし、振り返ることなく扉の外へと出てしまいました。

 ……本当は1人で城を出歩いて貰いたくないのですが……。


「イリスティナ様」


 彼の背中を見ていた私に声をかけてくる人物がおりました。

 リック様とフィフィー様です。彼らも書類を見て部屋に残っている人たちだったのですが、どうやらクラッグが外に出るのを待っていたようです。


「すみません、クラッグの奴が……きっと貴方に失礼な態度をしたでしょう……」

「いえ、お気になさらず。別に構いませんよ」


 彼が無礼なのは元より存じているつもりです。


「……あいつを許してやってくれませんか?」

「え?」


 リック様は穏やかな……、そして、もの悲しく含みのある表情をしていました。


「あいつが……あいつが王族を憎むのは仕方のない事なんです……。

 あいつは強い。……でも、その強さの根源には……王族への恨み、憎しみがある。あいつが今、あいつであるのは、王族の事を強く恨んでいるからなんです……」

「―――え?」

「ボクから……いえ、すみません、私からも言いつけておきますが、無礼な態度、失言程度ならどうか寛大な対応をお願いします。……あいつは頼りになる。あいつが依頼に参加するならば、それはチーム全体の大きな利益につながる筈です」

「…………」


 少し、声が出ませんでした。

 クラッグが王族や貴族の事を嫌いなのは知っていましたが、そこに何か、暗い、暗い闇を見ました。


「……それは、どういう意味でしょうか……?」

「申し訳ありません。あいつが言わない限り、私の口からは言えません」


 きっぱりと仰られてしまいました。王命を使えば無理やりにでも聞き出せるのでしょうが、それをやってしまえばクラッグとの関係が……それだけでなくリック様との関係も完全に崩壊してしまうでしょう。


「……フィフィー様もクラッグ様の事情をご存じなのですか?」

「あ、いえ。私はクラッグさんとはここ数ヶ月の知り合いなので全然知りません。……むしろ、幼馴染でずっと一緒にいたリックが深い知り合いで、私がなんで知らないのでしょう?」


 フィフィー様が少し訝しがるような目でリック様の事を見ていました。というより、2人は幼馴染なんですね。


「そりゃ、フィフィー。男の付き合いと幼馴染の付き合いは別のものがあるんだよ」

「すみません……疑問なのですが、リック様とクラッグ様はどういったご関係なのでしょうか?Sランク冒険者とDランク冒険者にどういった繋がりがあるのか……?」

「あ……あー…………賭博仲間……?」


 賭博? それはまた予想外な……。


「……リック……、まさかとは思うけど、共用のお金にまで、手を付けてないよね……?」

「つ、つけてない! つけてないっ! 変な疑いは止めてくれ、フィフィー! というより、知ってるだろ、フィフィー!? 例の賭博だよっ!」

「あぁ、なるほど……」


 ……例の賭博?

 リックさんは誤魔化す様に、わざとらしく咳ばらいを一つした。


「と、ともかく……イリスティナ様。クラッグを仲間に引き込みたいのなら、彼の相棒であるエリー君とコンタクトをとってみるのもいい手だと思います。彼はなんだかんだ言って、エリー君には甘いですから」

「あ、はい」


 それでいいんですかね?


「……あれ?」


 そう話している時に、部屋の扉が開いた。

 最初はファミリアたちが戻ってきたのかな、とも思ったが、扉をノックせずに開ける時点で彼らではない。

 どういう訳だろう? 私の扉をノックせずに開けられるような人がいる筈も無い……。


 と、思っていたら、姿を現したのはクラッグだった。


「…………」


 どうしたのだろう?彼は帰ったのではなかったのだろうか? なんで戻ってきたのだろうか?

 よく見ると、その表情は硬く、額には冷や汗がかかれている。何かがあった。それだけは確かだった。


 彼は息を呑み、重い声で喋った。


「…………迷った」


 ……この焦げ茶は、全く……。


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