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5話 アルバトロスの盗賊団

 この国には『神の簒奪(さんだつ)者・アルバトロスの盗賊団』という神話がある。


 昔々、ある奇妙な盗賊が世界中で事件を起こしていた。その者たちは世界中の神殿や教会、王宮から聖なる力の宿ったものである神器や宝物を次から次へと盗み出し、奪い取っていく悪辣非道な輩たちであった。

 その盗賊団は『アルバトロスの盗賊団』と呼ばれた。


 その盗賊団は魔域『ジステガン』という世界を所有し、そこを拠点に世界中から神の力を簒奪していった。

 その神の如き世界を前に、誰もその盗賊団を捕まえることも、追い詰めることも出来なかった。


 世界中がその謎の盗賊団に困り果て為す術も無かった時、この国オーガス国に1人の兵士がやってきて、こう言った。


「アルバトロスの盗賊団を討つことの出来る国は、神の血を継ぐ神聖なこのオーガス国の勇敢な戦士でしかありえません。もし、私に『アルバトロスの盗賊団』を討つことが出来ましたら、夜空に煌めく星々と貴方の娘を私に頂けないでしょうか」


 オーガス国の王はその勇敢な兵士に感動し、盗賊団の討伐隊を編成した。更には王や姫自身までも自らも出陣し、民は王族の勇敢さに感動し震え泣いた。


 そして、皆を先達する若い兵士には誤算があった。

 そう、オーガス国の王家は何より神に愛されていたということだ。道半ば、王の夢に神が現れて助言をした。あの若い兵士は我らの敵です。あの者は悪神ディエゴオブスの手下『オブスマン』です。彼の者を信じてはいけません。


 王は飛び起き、若い兵士を追い詰めた。すると若い兵士の姿は見る見るうちに変化していった。口が目よりも高い位置にでき、体の色は黒く変色し、悪辣な化け物の姿になっていった。


 その直後、『アルバトロスの盗賊団』がどこからともなく現れ、王が率いた軍勢に襲い掛かった。そう、その若い兵士こそが『アルバトロスの盗賊団』の団長で、卑劣にも王を騙し、罠に誘い込んで殺害しようと目論んでいたのだ。


 勇敢で力強い王は助言をくれた神の力を借りながら、『アルバトロスの盗賊団』を退けていく。しかし、その混乱を突かれ、討伐隊に付いてきた姫と報酬の1つである夜空に煌めく星々を奪われてしまった。


 行先は恐らく盗賊団の根城である魔域『ジステガン』。そこは地上とは違う次元に位置する空間であり、逃げ込まれたら絶対に追うことが出来なくなる。

 そのことを嘆いたとある神は地上に降臨し、屈強な王と共に『アルバトロスの盗賊団』を追い詰めていく。神と王の力が合わさり、逃げ惑う盗賊団の団員から魔域『ジステガン』への入り口の手掛かりを得て、遂に敵の根城へと足を踏み入れることに成功した。


 そこには悪神ディエゴオブスの手下『オブスマン』が大量に存在していた。そう、『アルバトロスの盗賊団』とは悪神ディエゴオブスが率いていた魔人の軍勢であったのだ。


 そして王と神は知恵と勇気を振り絞り、悪神ディエゴオブスの領域へと攻め入っていく。

 厳しい戦いを乗り越え、見事『アルバトロスの盗賊団』の団長を打ち倒し、悪神ディエゴオブスを封じるに至った。

 そして、悪神が世界中から簒奪した神の力を取り戻し、世界に平和が戻ってきた。攫われた姫もまた地上に降臨した神の手で救出され、2人は恋に落ちることになる。


 オーガス国の王家は『アルバトロスの盗賊団』から取り戻した神器の力によって地上に降り立った神の国として未来永劫栄えていくことが運命づけられた。


 そして、恋に落ちた神と姫の間に子が出来て、オーガス王家はより一層神々の世界と縁を深くし、その血筋を神聖なものとしていった。


 めでたし、めでたし。




* * * * *


【クラッグ視点】


「いや、おかしいだろ」


 イリスティアの話の後、俺はそう呟くと、周りの冒険者たちから少し注目を浴びてしまった。


「……いや、だってさ。『アルバトロスの盗賊団』は世界中から神器を奪ったんだろ? で、この国は『アルバトロスの盗賊団』から神器の全てを取り返し、その力で栄えていった……。

 いや、返せよ。世界中に返せよ。何しれっと猫ばばして自分のものにしてんだよ」

「……クラッグ様。とりあえず、神話に突っ込むのは止めて頂けないでしょうか……? いや、自分で言っていても『夜空に煌めく星々』を奪うとか、ちょっと意味が分かりませんし……」


 まぁ、あくまでも神話だしな。こういう無茶苦茶な展開、神話には結構多いし……。その中ではこの話はまだ良心的な方……かも……?


「んで? 姫様? この国ではよく知られている神話を引っ張り出してきたのは、どういう訳かの?」


 見事に蓄えられた黒いもじゃもじゃの髭を(さす)りながら、あるドワーフの冒険者は声を出した。

 彼はS級冒険者、ドワーフのボーボスだ。背が小さいながらも、ドワーフの屈強な力から放たれる斧の威力は目を見張るものがある。さらに彼の凄いところは、世界屈指のパワーを持ちながらその斧捌きが繊細で、非常に技巧的であるという点だ。強力なパワーから無数の技を放つ彼は、まさにS級の名を欲しいがままにしている。


 ちなみに今この場にいるS級冒険者はリック、フィフィー、ボーボスの3人だ。怖え、今この場に3人もS級がいるよ。怖え。


「単刀直入に言います。悪神ディエゴオブスの手下『オブスマン』と思われる魔人が神殿都市アヌティスに出現、多くの犠牲を払いながらこれを討伐しました」

「ん……?」

「オブスマン……?」


 部屋の中がじんわりとざわついた。


「『オブスマン』……というのは結局は作り話の登場人物で、現実には存在しないんじゃないのか……?」


 冒険者の1人が尤もな疑問を吐いた。


「……王族である私の立場から言うと、神話というのは神に纏わる実際に起こった話であるという見解をするべきなのですが……、はい、確かに今まではこの神話は作り話と言われてきました」


 イリスティナが解説する。


「しかし、先日に討伐した魔物は奇妙な形をしていて、今まで発見されたことのない魔物でした。そして、王家に残されていた『アルバトロスの盗賊団』の書記と絵画を確認すると、その未確認の魔物と魔人『オブスマン』の特徴が完全に一致しました」

「…………」

「こちらとしてもほとんど何もわかっていない状況です。なので、先程依頼の内容は伝説の討伐と言いましたが、正確には伝説に纏わる手掛かりの調査、そしてその未確認の魔物が出現した時はその討伐を行ってください。また、万が一、それ以上の存在(・・・・・・・)が出現したとしても、その討伐を依頼します」


 生け捕りにしなくていいのか?という疑問は経験豊富な冒険者から出る筈がない。まず、魔物は人と意思疎通が出来ないことと、単純に生け捕りできる程度の相手に大した情報も期待しないということだ。


「何故、俺ら冒険者を雇う。王家にも騎士団がいるだろう」

「……現在、未確認の魔物が出現したのが人の目の届かない森ということもありまして、王家と教会は情報の封鎖を行っています。神話の化け物の出現なんて信じていないから手を出さないという人や、国民に不安を与えたくないから何も語らず傍観しているという人がいます」


 ……結局、何もしていないってことじゃねーか。


「より詳しい情報、状況、依頼内容、契約内容は今からお渡しする書面をご覧ください。ファミリア」

「はい、かしこまりました」


 皆が手渡されたプリントを眺めている。


「こちらから提示できる情報量が少なく申し訳ありませんが、その分多額の報酬を用意してあります。そして、与えられる情報が少ないため、今回の依頼では撤退、失敗、未達成による罰則は全く設けておりません」


 冒険者にとって『情報が少なくてよく分からない依頼』というのは何よりも受けがたいものだ。一体何人の冒険者が情報不足により死んだか、それを知っているのである。

 普通、依頼は一度受けたら撤退、失敗すると冒険者にペナルティが生じる。だからこそ、この依頼にそれが無いというのは大きい。


「…………」


 姫様を一瞥する。

 謎だ。世間知らずの箱入り娘じゃないのか?冒険者が嫌がる依頼、ありがたい依頼を分かっているような内容だ。

 まるで、姫様自身が冒険者でもやっていたかのような……。


 書面を見た冒険者たちからいくつかの質問が飛ぶ。それに詰まることなく、イリスティナは返答していく。

 書面をじっと睨む。条件はリスク有りのハイリターンが見込めるような内容だ。伝説の調査とあって提示されている情報は少ないが、しかし何も起こらないまま終了するケースも十分考えられる。いやその可能性の方が高い。そうなれば俺たちは丸儲けだ。成功報酬は出なくとも、前金が出るからだ。


 しかし、俺にとって重要な問題はこれがイリスティナから……つまり王族から出ている依頼だということだ。

 正直受けたくない。しかし、報酬が魅力的なのも本当だ。


 さて……どうするか……。


ま……待って……まだ……まだ……8話以降の具体的なプロットが練られてないの…………

うごごごご………………

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