20話 話は聞かせて貰った!人類は滅亡するっ!
【フィフィー視点】
「ふははっ……!勝ったぞっ!勝ったぞっ!クラッグに勝ったぞっ…………!ふはははははははははっ…………!」
立ち上がり、エリーが高らかに勝利宣言をしていた。
ここはホテルの食堂。つい先ほど、イリスティナ様とエリーがクラッグさんに「あーん」という熱烈なアタックを仕掛け、それに耐えきれずクラッグさんが敵前逃亡した。
エリーは高らかに笑っている。充実感を胸に高らかに笑っていた。
いつもクラッグさんにイタズラされたりしてるもんね、エリー。今日は上手くやり込めていたね。
…………でも、エリーとイリスティナ様の顔は滅茶苦茶赤い。沸騰し湯気が出そうな程赤いし、熱くなって汗もかいている。完全勝利なのは間違いないけど、2人の傷もかなり深そうだ。
「や、やりましたね……!クラッグ様に一矢報いましたね…………!」
「一矢どころか!後々に語り継がれるほどの大勝利さ……!」
「「ふーーー熱ーーー…………」」
2人がハモりながら、同じように手で真っ赤な顔を煽っていた。シンクロしてる?
「…………しかし、大発見だ!クラッグの奴、攻めには弱いぞ!もう僕が弄られるだけの生活は終わりだっ!これからは徹底抗戦してやるっ…………!」
エリーがそう高らかに宣言した。……でも、彼女の顔はずーっと赤いままで照れているままだ。真っ赤っかだ。だから多分、徹底抗戦するようになったらお互い意地になって引かなくなって、両方の顔が滅茶苦茶に赤くなって両方とも死亡するのだと、わたしは予想する。
「まー……クラッグは労って貰ったり、好意を向けられたりするのが苦手……というより慣れてなさそうだろうからなぁ…………戸惑っちゃうのでしょう」
「…………ん?」
「リック様?それってどういうことでしょうか?」
エリーとイリスティナ様が興味深そうに小首を傾げる。この2人、所作がいちいちシンクロする。
「そういう感じしません?話を聞く限り、あいつ、誰かに助けて貰ったり尽くされたりしたことなさそうだしなぁ…………」
「…………リックさんはさ、クラッグからどんな話を聞いてるの?……僕が過去の話を聞いてもあいつ、テキトーなことしか言わないんだけど…………?クラッグとは賭博仲間なんでしたっけ……?」
「男同士だからねぇ……ま、酒の席とかで色々聞いているんだよ…………」
「むぅ…………」
エリーが少し釈然としない感じで膨れていた。嫉妬かな?嫉妬かなっ!?
「まぁまぁ、エリー様。クラッグ様の弱点も明らかになったことですし、これからじっくりと聞いていけばいいじゃないですか。今日は私達の大勝なのですから」
「…………それもそうだ……ですね!クラッグの弱点も分かったものですしねっ!」
イリスティナ様がエリーにお酌をした。エリーはそれを当然のように受け、ぐいと飲み干した。…………エリー、あのね?そこは「姫様にお注ぎさせてしまって申し訳ありません!」って慌てるところなんだよ?
「…………さっきから思っていたんですけど、イリスティナ様……」
「なんでしょう、フィフィー様?」
「イリスティナ様って……クラッグさんと知り合いだったんですか?」
「はい?」
姫様はきょとんとした。
「いや……だって、イリスティナ様とクラッグさんが初めて会ったのって、あのパーティーの日ですよね?それなのに、クラッグさんをからかうのに積極的すぎるっていうか…………なんか違和感というか…………」
「いえいえ、勿論知り合いではありませんよ?パーティーの日に初めてお会いしただけの関係です」
「…………ですけど……」
じゃあなんでクラッグさんをからかえたことがそんなに嬉しかったのだろう?まるで積年の恨みがこもっていたかのようだったけど?
「クラッグ様は謎の多い人物ですからね。D級なのにレッドドラゴンを倒すほどの実力を持っているお方と関わり合いを持っておこうと少し強めに行動していました。少々監視の意味も含まれています」
「え……えー…………?」
さっき「一矢報いた」って言ってなかったかな?
「…………どっちでもいいですけど、イリスティナ様……『私の事を食べたい』って言っていたのはどうかと思いますよ?失礼ですが、一国の王女様として……言い過ぎだと…………」
「ぁ……その……あれは、ちょっと、自分でも暴走してしまったというか…………」
その言葉を蒸し返されて、イリスティナ様はボンと顔を赤くし、自分の両手で頬を包んだ。そして、それと同時になぜかエリーの顔もボンと赤くなって、あわあわしだした。
「そ、そうだよっ!イリスティナ様っ!ちょっとこっち来て下さいっ…………!」
「え!?あ!?エ、エリー様っ!?」
顔をリンゴみたいに赤くしているエリーはばっと椅子から立ち上がり、イリスティナ様の手を引っ張って、部屋の隅へと移動していった。
『ちょっと!本当、さっきの発言はないんじゃないかなっ!?何口走ってんだよっ……!』
『わ、私じゃなくて神器に言って下さいよっ……!それに、エリーだってノリノリだったじゃないですかっ!』
『なんだとぉっ…………!?』
2人は肩を組んで身を縮めて何かを話し合っていた。もちろん会話は聞こえる訳が無い。でも、なんだ?あの気安さ?エリー、王女様に何してんの?彼女の首に腕を回すとか、そんなの誰にもできる筈がないんだけど…………?
「…………ただいま」
「…………失礼いたしました……」
会話が終わったのか、2人がテーブルに戻ってきた。
「………………」
「………………」
「…………ねぇ、イリスティナ様とエリーって知り合いだったの?」
「「全然?」」
んなアホな。
完璧に揃っていた声がその言葉に何の信憑性ももたらさなかった。
* * * * *
【???視点】
パーティーは終わり、わたしはとある部屋の扉の前にいた。
『全く!なにが「私の事を食べたい」だよっ!痴女じゃないんだからっ!』
『だからぁっ!貴女に言われたくありませんよ、エリー!むしろ、自分を叱りつけた方がいいんじゃないですか!?』
『ぼ、僕があんなこという訳ないだろっ!イリスティナ!変な言いがかりは止めて貰おうか!?』
『何をバカなことを。あなたが言うから私も言ってしまうんじゃないですか。そういうものでしょ?さぁ、なにか反論はありますかっ!?』
『絶対絶対絶対、僕はあんなこと言わないんだからっ!ほんと、やめてくれよっ!?君の発言で僕の品性が疑われるとか、ほんとやめてよっ!』
『というかエリー、貴女、私の事何も言えないですよねっ!?あの後「食べたいのはなんなんだい」って発言、絶対誘ってるじゃないですか!私の事何も言えないですよねっ!?』
『ち、ちちち、違っ…………!あれは、君の作戦に乗っただけじゃないかっ!僕は作戦に乗るしかなかったんだ!そうだろうっ!?』
『っていうか、この会話、ほんと不毛ですよねっ!?自分の胸の中で勝手に自問自答しておいて下さいよ!自分か神器を責めて下さいよっ!』
『この恥ずかしさを自分に向けるとか、出来る訳ないだろっ!?』
『私は分かりますよ!?貴女、今回の発言、「まぁいいか。あんなにもクラッグの混乱している姿が見れたんだから良しとするかっ」って考えているでしょ!私には分かります!私がそう考えているのですからっ……!』
『アホーーーっ!僕が言っていないのに、僕の発言になるこっちの身にもなってみてよっ!全部の行動の責任、僕に降りかかってくるんだから、少し控えめにしておいてくれよっ!意識して自重することは出来るんだろっ!?』
『だから!自分に言って下さいって!』
『あぁっ!なんて面倒な神器なんだ!ほんとっ!』
『もうっ…………て、あ……ファミリアが戻ろうとしていますよ?あんまりにもあんまりだからって……戻らせます?エリー?』
『ちょっと待って、ファミリア!?僕、まだ言い足りないんだっ!ファミリア、まだ神器解かないでっ!?』
『ファミリア、神器を解いていいですよ?……って、あれ?「2人で意見を違えないで下さい?」「私が困ります?」…………大丈夫です、どうせごちゃ混ぜになりますし』
『あぁっ!待ってよっ!これで神器解かれると、また混乱するパターンだよっ!ちょっと待って!少し整理する時間を頂戴っ!』
『決定権はファミリアにありますからねぇ…………』
『ちょ!ちょっと待って…………!』
そこまで聞いて、わたしはそのドアをけ破った。
「話は聞かせて貰った!人類は滅亡するっ!」
「「ぴゃーーーーーーーーーーっ!?…………フィフィーーーーーーーー!?」」
わたしがその部屋に飛び込んだことで、部屋の中にいたエリーとイリスティナ様は心臓が飛び出しそうな程びっくりとしていた。
部屋の中にいるのはエリーとイリスティナ様だけ。ファミリア様の姿はない。
ただ、2人は尻尾を掴まれた狐のような表情をして、顔を真っ青にしていた。口が意味も無くパクパクしている。髪の長さは違うけれど、その表情はまるで鏡に映ったかのようにそっくりであった。
「話は聞かせて貰ったっ!」
「………………」
未だ口をぱくぱくさせフリーズしている2人に言葉を叩きこむ。
「話は聞かせて貰ったっ!」
「………………」
「話はしかと、全部……聞かせて貰ったっ!」
「………………」
「………………」
「「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁんんんんんんんん……………………っ!」」
2人は双子の姉妹も真っ青な、とてもよく似通っている悲鳴を上げた。
さぁっ……!意趣返しの時間だっ…………!
な、なんだってー!?エリーとイリスティナに繋がりがあったなんてー!?(棒)




