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19話 お姫様のご奉仕

【クラッグ視点】


「では皆さま、これまでの調査お疲れ様です。今後ともこの調子で頑張ってください。雇い主として良い報告が上がってくることを期待しております。では乾杯っ!」

「乾杯ー!」


 ガラスのグラスがぶつかり合う高い音が食堂中に鳴り響く。

 ここは冒険者たちが貸切っているホテルの中、その食堂でーティーが開かれていた。パーティーと言っても貴族が来るような絢爛豪華な宴ではなく、飯と酒さえあれば騒げる冒険者向けのパーティーだった。

 つまりは腹一杯になるまでの飯と溺れる程の酒が用意されたパーティーだった。


 この宴を主催したのは本日この都市に入ってきたイリスティナだ。

 任務中の冒険者を(ねぎら)う為の宴らしい。下手な催し物に力を入れるより、飯と酒を大量に用意したことは評価するが、流石にエロいねーちゃんまでは用意してくれなかった。

 …………いや、エロいねーちゃんが用意されてたら俺はビックリする。俺どころか、この場にいる冒険者全員ビックリするだろう。そうなりゃ、絶対エリーは顔を赤くするな。


「こちらの席、宜しいですか?」


 色々な人に挨拶周りをしてきたイリスティナが俺達のテーブルに近づいてきた。首に赤いペンダントを掛けているが、前にあった時そんなのしてなかった気がするんだけどな?


「ダメだ。女狐はあっち行け……って、痛って」

「すみません、この焦げ茶のバカが。どうぞお座りください、イリスティナ様。歓迎いたします」

「感謝します、リック様」


 リックに殴られた俺の暴言なんてどこ吹く風、イリスティナは俺の発言を無視して俺の隣に腰かけた。あっち行け。

 このテーブルを囲って飯を食っているのは俺とエリーとリックとフィフィーだ。そこにイリスティナが加わった。


「すみません、イリスティナ様。クラッグさんの言う事は基本無視して構いませんから」

「おい、フィフィー」

「構いませんよ、フィフィー様。寧ろクラッグ様に丁寧にされたらそれこそビックリしてしまいます」

「このやろう、俺の何を知ってるってんだよ。前、パーティーで会っただけじゃねえか」

「あー…………それもそうですね……?」


 なんで疑問形なんだよ。


 前のパーティーでもなんか絡んできやがって、不愉快なのか?D級の俺が不愉快なのか?上等じゃねーか。喧嘩は買うぞ、おら。虫の1匹も魔物の1匹も殺したことのないかのような、そんななよなよっとした雰囲気をまき散らしやがって。

 よっしゃ、いい度胸だ。喧嘩は買ってやる。王族なんかに俺が負けるか。


「……そもそもなーんで、このテーブルなんだよ。他のとこに行けばいいだろうが?」

「さぁ……クラッグ様がいるからじゃないですかね…………?」

「じょ、じょじょじょ、冗談でも、そそ、そんなこと言うんじゃねえ……き、気色悪いだろうが」


 上目遣いできらきらとした目を向けて、イリスティナはにこやかに笑う。

 く、くそっ!からかわれたっ!こいつ!この女狐ほんとやり辛いっ!


「エ……エリーッ……!助けてくれっ…………!め、女狐が……!女狐が!俺に悪戯しようと…………!」

「わっ……!?」

「うわ、こいつ、女性の背に隠れた…………」


 うるせー、リック!今そんなこと言ってる場合じゃねえんだよ!助けて!エリー!こんな女狐を追い払ってやってくれ!

 エリーは背中に隠れる俺に戸惑っていたが、すぐにイリスティナに顔を合わせ、じっと彼女の目を見た。


「…………イリスティナ様……」

「…………はい……」


 きつい事でも言ってやってくれ!


「その調子でもっとクラッグを困らせてやってくださいね?」

「エリー様ならそう言って下さると思っておりました!」

「エリーーーーーーッ!?」


 裏切り!まさかの裏切りっ!女狐に襲われている哀れな子羊をお前は見捨てるというのかっ!?


「何故だ、エリー!?何故裏切るんだ!?」

「裏切る?何をバカなことを…………クラッグが困り果てる姿を世界で一番熱望しているのは間違いなく、何を隠そう、この僕だっ……!」

「あー…………」


 周りは何かを納得したかのように、小さく何度も頷いていた。

 そりゃ……!確かに、エリーのことを何度もからかったり、何度もイタズラしているけど…………

 …………あれ?自業自得か?


「ほら、さっさと座れぇ!この焦げ茶ぁっ!」

「ひゃんっ!」


 背中から剥がされ、エリーに着席をさせられる。変な声が漏れる。もちろん隣にはイリスティアという魔女が座っている。


「クラッグ様、クラッグ様…………」

「あぁ?なんだぁ…………?」

「あーん」

「……!?」


 この女狐はスプーンに料理を掬い、俺の目の前に持ってきていた!?


「な、ななな、なにをしているん、で、ででで、ですかねぇ……?ひ、姫様ぁ……?」

「この調査を頑張って貰っているので、そのご奉仕ですよ?……おかしいですか?」

「おかしいですよっ!?」


 思わず丁寧語になる。

 ほんと、何してるんですか!?この一国のお姫様は!?

 上目遣いで俺に微笑みかけながら料理を食べさせてくれるという、男だったら誰でも思わず息を呑んでしまうようなポーズをしている。きらきらと輝く瞳が間近で俺を射抜いてくる。


 …………ってちがあああぁぁぁぅぅぅぅぅっ!くそおおおおおぉぉぉぉっ!ちがうんだああああぁぁぁぁぁっ!畜生おおおおぉぉぉぉぉっ!


「ファ……ファミリアぁぁぁぁっ…………!ファミリアはどこだああああぁぁぁぁっ…………!?お前のご主人様が変なことやってるぞおおおぉぉぉぉっ…………!?」

「あ、ファミリア様なら今日いないよ?呼びに行ったんだけど、どこにもいなくて。どこ行っちゃったんだろ?」

「ファミリアあああああぁぁぁぁぁぁっ…………!」


 何やってんの!?こんな時に何やってんの、あいつ!?

 このお姫様の手綱を握っておくよう、言っておいただろうがああぁぁっ……!?


「クラッグ、クラッグ……」

「…………なんだよ、エリー……?」

「あーん」

「……エリーさんっ!?」


 つい敬語で呼んでしまう。

 振り返るとエリーがイリスティナと同じように上目遣いで、同じようにスプーンの上の料理を俺に差し出していた。


「エ、エエエ、エリーさささんっ…………!?どどど、どど、どうしちゃたったんですかねぇ…………!?」

「どうしたって……いつもお世話になっているから……そのご奉仕だけど…………おかしいかなぁ…………?」

「おかしいねぇっ!?おかしいよねぇ、どう見てもっ!?」


 エリーが頬を赤らめながら、ふと目を逸らす。なんだ、これ!?いつもボーイッシュな奴が頬を赤らめながら目を逸らすなんて…………なんだこれっ!?やべえ!やべえっ……!?くそっ!くそっ!動揺するな!動揺するな、俺っ!動揺したら負けだっ……!

 エリーってこんなに演技上手だったっけか…………!?


「うわぁ……これ、すごい絵だねぇ……見てるこっちも赤くなっちゃうよ…………」

「まさか、この国のお姫様と自分の相棒にこんなことさせるなんて…………クラッグ……明日、適当な嫉妬で刺されても知らないからね?」


 俺じゃねえっ!俺がやらせてんじゃねえよっ!?


 両側どちら側からも料理が差し出される。両側から美女2人がスプーンを差し出して俺に料理を食べさせようとしてくれている…………って!違う!美女とは認めねぇっ!エリーは美女と認めてもいいが、イリスティナは決して美女とは認めねぇっ!この俺の誇りに掛けて、王族なんかを美人と認めるもんかっ…………!


「ふーん……僕の姿でも、君は動揺するんだぁ……これは発見…………」


 エリーが顔を赤くしながらニヤニヤと勝ち誇った笑みを俺に向けてきた。くそっ!分かってはいたが、やっぱエリーは俺をからかってやがる…………!畜生っ!なんて攻め方だよっ…………!


「クラッグ様……お食べになられないのですか……?」

「食えるかぁっ……!そんな悲しそうな目を俺に向けるなぁ!イリスティナぁっ……!」

「そんな……ショックです…………私達……クラッグ様に喜んで貰いたいだけですのに…………」

「……って!?エリー!?やめてっ!イリスティナの声真似をして喋るのやめてっ……!?」


 やけに上手いじゃねえか!?エリー!?一瞬、イリスティナが2人いるのかと思ったぞぉっ!?


「お、お前たち……!い、いい加減、もうやめろっ…………!ほ、ほら!折角の料理が冷めちまう…………!」

「あーん…………」

「あーん…………」

「バ、ババ、バカな真似はももも、も、もうやめろろろっ…………!こ、ここ、こんなことをしても……た、楽しくなんか……ねぇだろっ…………!?」

「あれー?この料理は好きじゃないのかなー?クラッグ?食べたいもの言ってくれれば食べさせてあげるよー?」

「そんな……私の事を食べたいと言われても…………困りますよ、クラッグ様?」

「何言ってんのっ!?」


 とんでもないことを言い出したぞ!?このお姫様!?


「ほら、正直に言って下さい、クラッグ様…………?」

「食べたいのは、なんなんだい…………?」

「うわあああああああああぁぁぁぁぁぁ…………!俺、お部屋に帰るうううううぅぅぅぅぅぅ…………!」


 こっ、こここ、こここっ、こんなとこにいられるかあああああああぁぁぁぁぁぁっ…………!

 うわあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!

 なんなんだよおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ…………!


「俺!お部屋に帰るうううううぅぅぅぅぅぅ…………!」

「あっはっはっはっはっはっは!」


 俺は泣きながら食堂を飛び出したのだった。

 後ろから俺を嘲る相棒の憎たらしい笑い声を聞きながら…………


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