14話 真実
【エリー視点】
夜の街を影のように走る。夜の街を音無く駆ける。
僕は今、ある神殿騎士の女性を尾行している。その人はフィフィーさんが裏路地で密会していた女性だ。彼女が夜更けの街を小走りに駆ける姿を見て、僕は彼女を尾行することに決めたのだ。
その女性は裏路地を縫うように駆けていく。ただでさえ暗い夜の街が、細い路地の陰に呑み込まれより一層暗くなっている。
彼女のスピードは速い。でも結局は小走りで走っている。全力でない走りに僕が置いていかれる筈がない。僕はスピードだけならA級以上、クラッグのお墨付きだ。
床に散乱する酒瓶やゴミを踏んで音をたてたりしないよう、注意しながら移動する。前にいる女性の姿に気を払いながら、暗い道の地面に気を張って先に進むのは中々根気のいる作業だった。
だけど、より深い暗闇の路地は上手く僕の身を隠してくれて、そう言った意味では尾行がやり易い夜であった。『冒険者のための尾行教室』で学んだ技術が活きてくる。
僕は今、いつも着ているコートに付いたフードを被っている。このコートはフードまですっぽり被れば認識阻害の魔法が発動する。元々は個人の特定を妨げるための魔法であり、これがあれば顔を見られてもその個人を特定されにくくなるのが主な効果なのだが、付属して人に注目されにくくなるという効果もある。
こういった尾行に向いた魔法道具でもあるのだ。
……ん?
足を止め、建物の壁に身を這わす。
神殿騎士の女性が急に止まったのだ。僕も動きを止め、息を殺す。鏡を取り出して、曲がり角の向こう側を覗き込む。
彼女は完全に動きを止めて、ニヤリと笑いながら少し胸を張って立っていた。
……なんなのだろう? ここに何かあるのだろうか?
「おい、何コソコソしてるんだよ、お嬢さん」
……!? バレたっ!?
心臓がバクンと跳ねる。慌てて手鏡を引っ込める。『何コソコソしてるんだよ』と神殿騎士は言った。一体なんでバレた……?
腹をくくるしかない。彼女の実力は分からないがここは戦う一手も視野に入れる。息を整えて自分の2刀の短剣に手を伸ばす。
……来るか? それとも、行くか……?
「……仕方ないでしょ、私は館を抜け出して来ているんだから。あまり大きな声を出さないで」
……あれ? ……おや?
僕の声でもない、神殿騎士の声でもないもう1つの声が聞こえてくる。
「はっはっは、デルフィーヌ。お嬢様は大変だなぁ」
「あんたねぇ……。こんなに大変な思いをしているのは誰のせいだと思ってるのよ、ヴィオ……」
鏡をもう一度取り出し、様子を見る。
そこには神殿騎士の女性以外に、もう1人女性がいた。
整えられた長い青髪を持ち、品のいい洋服を身に纏った女性がそこにいた。今、神殿騎士にデルフィーヌと呼ばれた女性だった。
……僕の事じゃなかったのかな?
さっき、「おい、何コソコソしてるんだよ、お嬢さん」と呼び止めたのは、このデルフィーヌって女性の事だったのか。
……というか、この女性見たことあるぞ? 確か侯爵家の娘さんで名前はデルフィーヌ・アウトリリ・オルム・ガウ・ローマン。先程呼ばれた名前と一致する。パーティーで見たことがある。
……こんな夜更けに何やっているんだ?
「ほんと、大体……、私がこんな目に合っているのは全部あんたのせいじゃない……。どうしてくれるのよ、ほんと……」
デルフィーヌさんが恨みがましい口調でヴィオと呼ばれた神殿騎士の女性を非難し、そして殺気まで漏れていた。
でもその殺気を受けても、ヴィオさんは楽しそうににやにやと笑っている。
「何言ってんだ。勝手に泥沼に嵌まったのは自分自身じゃないか」
「くっ……! あんた、私が泥沼に嵌まると分かってて……! もう私、アレが無いと……!」
神殿騎士のヴィオさんはケラケラと笑い、デルフィーヌさんは苦しそうに胸を押さえ、ヴィオさんを痛々しく睨みつけた。
そんなことを一切気にせずヴィオさんはデルフィーヌさんの首に腕を回し、馴れ馴れしく密着していた。
「……でもよ、気分は最高だろ?」
「……ッ!」
そう囁かれたデルフィーヌさんは悔しそうに頬を赤らめ、息を漏らすように呟いた。
「……そうね」
「はっはっは! 正直でよろしい。じゃあ、さっさと行ってアレを買いに行こうぜ?」
「う、うん……。こ、こんなところで、油売っている訳にはいかないわね……」
そう言って2人はまた歩き出した。
デルフィーヌさんはヴィオさんに肩を抱かれてよろよろと歩く。彼女の姿はまるで悪魔に唆され、その身を欲望の谷に落としてしまった哀れな子羊のようだった。
そんな2人を追いかける為、僕はまた足を動かした。
先程のように小走りの神殿騎士ヴィオさんを追いかける訳ではなく、ゆっくりとした歩みの人間をゆっくりと追いかける訳で大分余裕が出たのだが、尾行の難易度で言うと先程と今とではそこまで変わっていないと思う。
彼女たちの歩みはゆっくりとしているので、いつ彼女たちが振り返って後方を確認するのか分からない。歩みが遅いということは僕が一所に留まる時間も長くなるということで、先程の高速の鬼ごっこよりも今の方が神経を使っているかもしれない。
それでも彼女たちはゆっくりと目的地に近づいており、つまり僕もゆっくりとゆっくりと鬼の住処に近づいているということだ。
……先程の会話を思い出す。
『さっさと行ってアレを買いに行こうぜ?』『くっ……! あんた、私が泥沼に嵌まると分かってて……! もう私、アレが無いと……!』『……でもよ、気分は最高だろ?』
そしてフィフィーさんは言っていた。
『アレが手に入るとこは限られてるからね』『バレたのなら……生かして帰す訳にはいかないよね……』
それらの会話に当てはまる物……。
……薬。
そう考えれば辻褄が合う。
そうなってくると確実に犯罪ギルドが関わってきている。神殿都市に犯罪ギルド。なんかの間違いだと自分の頭を疑いたくなる。
爵位の高い貴族を相手にするほどの犯罪結社だ。当然この先にはかなりの用心棒が待ち受けているだろう。
……いや、その用心棒こそがフィフィーさんという可能性もある。
……はは、足が震えてきた……。
「あ」
僕が覚悟とか勇気とか根性とかを決める前に、尾行をしていた2人が扉を開け、ある建物の中に入っていった。それは何の変哲もない建物で、深く深く入り組んだ暗い路地裏にあるという訳でもなく、ただ少し細めの路地に面している特徴のない建物であった。
何も知らなければここが特別な場所であると気付けるはずがない。
「…………」
扉に耳を付け、中の様子を探る。しかし、音はほとんど聞こえてこない。ここじゃない。何かがあるとしたらこの扉よりももっと奥なのだろう。
ゆっくりと扉を開け、中を窺う。
予想通りここには誰もいなく、そしてこの部屋の奥の方に地下に通じる階段があった。
慎重に中に踏み入り、地下へと向かう。
雰囲気としては普通。地下室という要因を除けば、薄暗いが犯罪性を感じるような内装にはなっていない。特徴はなく普通。明かりだって最低限灯っている。
音が響きやすい狭い地下の階段を慎重に進む。決して音を立ててはいけない。1つのミスが死に繋がる。今はそういう状況だ。
階段の下からうっすらと声が聞こえる。女性たちの高い声だ。恐らく扉か何かで区切られているのだろう、くぐもっていて、それでなお恍惚とした高い声が聞こえてくる。
少し異常な声であった。それは色めきだち、興奮した色を孕んでいた。普通のパーティーを楽しんでいるような声ではない。
階下には異常な光景が広がっているのだろう。そう予測せざるを得ない。
冷汗が流れる。脈拍が早くなっていくが、それでも僕は気配を消して歩く。1歩1歩丁寧に階段を下りていく。
そして地下階段の一番下まで辿り着いた。
そこには重厚な木製の扉が佇んでおり、僕を待ち構えていた。
女性たちの声が聞こえてくるのは確実にこの扉の向こうからだ。この扉の向こうから色めき立ち恍惚とした女性たちの声が聞こえてくる。
「…………」
僕は自分の前後を確認し、その扉に耳を付ける。室内の騒がしい雰囲気が伝わってくる。叫び声ではないが、それでも女性たちの熱情がこもった笑い声が聞こえてくる。
会話の内容までは分からない。全ての言葉が聞こえないわけではなく、所々の単語は聞こえてくるのだけど、その意味が理解できない。僕の聞いたことのない言葉、恐らくは暗喩や専門用語が飛び交っている。
いつまでもこうしている訳にはいかない。耳を付けているこの扉が開いてしまえば御終いなのだ。すぐに次の行動を決めなければいけない。
まだ証拠は掴んでいない。それを掴むためにはこの部屋の中に入っていくしかない。
しかし、中に入るということは自分の姿を晒すということだ。出入り口がここ1つしかないのなら、もう隠れ潜むことは出来ない。
扉を少しだけ開けて中の様子を伺うか、中に何があるか分からないから賭けになるが『客』を装って堂々と中に入っていくか、それとも本当に出入り口はここにしかないか、他の勝手口を探すか……。
それとも証拠は掴めていないが場所は分かったのでここで退くか。
すぐに判断しなければ。
よし、ここは退こう。後で皆を連れてここを調査しよう。もしフィフィーさんが現れでもしたら数の利点なんてすぐに意味が無くなるんだけど……。
「―――動くな」
その時、背後から声がした。
丁度今まさに動こうとしていた体は制止を余儀なくされ、自分の体に冷汗が垂れた。
心臓が跳ねる。……あぁ、この都市に来てからもう既に一体何回心臓が跳ねたというのか。
「…………」
首元に冷たいナイフが当てられている。動いたらどうなるかなんて聞かなくても分かる。
そして僕に『動くな』と言った声には聞き覚えがある。その声は何度も良く聞いた声だった。
「……フィフィーさん」
「ん? わたしの事を知っている……?」
今、僕の首筋にナイフの刃を当てているのは他ならぬフィフィーさんだ。
予想しなかったわけではないが、こんなにも早く出くわすとは……。彼女の意を害さないようゆっくりと最低限首を動かし、彼女の姿を捉える。
くそっ、僕は今さっき自分の前後を確認したというのに、なんで今後ろを取られているんだよ。どれだけ気配を消して音も無く、どれだけ速くこの階段を下ればこんな芸当が出来るんだよ……!
「……あなたは一体、何者?」
「あっ……」
そう言って、フィフィーさんは僕のフードに手を掛ける。
僕は今の今まで認識阻害の魔法がかかったフードを被っていた。だから彼女は僕の正体に気付かなかったようだが、でもたった今フードを外され僕の正体がバレる。
「……エリーさん」
フィフィーさんが息を呑む。
驚きで目は丸くなり口をぎゅっと結ぶ。一筋の冷汗が彼女の頬を伝うが、すぐに顔から動揺の色は消え、僕を強く睨んだ。
「一体、どうしてこんな場所に……?」
「それは…、…こっちの台詞だよ、フィフィー」
後ろを取られ、ナイフを突きつけられたまま口調を強くして喋る。ここで弱気になったり下手に出たりしたら駄目だ。
「こんなところで、何をコソコソと……。君が初日の夜、宿屋を抜け出したのを冒険者の皆が誰も気付かなかったと思うのかい……?」
「……! それは……」
フィフィーの眉がくいと上がる。
「……だから、どうしたってのよ……」
フィフィーの声は細く震えていたが、そこには静かな怒りが含まれていた。僕の腕を取り背中に回し、僕の体を壁に付けて押さえつける。乱暴、という感じはしない。こんな状況なのに彼女は僕の体が痛まないようにしている。そうしながら僕にプレッシャーをかけてくる。
「……エリー、あなた、『客』じゃないんでしょ?」
「……『客』?」
「全く、客でもないのにこんなところまで乗り込んでくるなんて。バカじゃないかな?」
石の壁が頬に付き、それがひんやりと冷たい。
「……誰がバカだ、フィフィー。君の奇行はバレている。冒険者全員を敵に回すつもりなのかい?」
「でも、あなた、ここがなんなのか、知らないんでしょう」
「…………」
今、絶対的に優位にいるのはフィフィーだ。S級相手に後ろを取られている時点で僕に勝ち目はない。
でも、今明らかに焦っているのはフィフィーの方だった。口調、表情、態度、それらの全てが焦燥感を示している。絶対にバレたくない、絶対にバレる訳にはいかない、あの扉の向こうにある秘密を絶対に隠し通さなければならない。そういう態度が滲み出ていた。
「帰れ、エリー。今夜見聞きした全てを忘れ、眠りなさい」
「……え?」
「大人しく帰りなさい。わたしと戦いたいの? あなた?」
「…………」
これは、どういうことだ?
帰れなんて言葉が彼女から出てくるとは思わなかった。今の僕を逃がす訳にはいかないはずだ。証拠は掴んでないにしても、場所は掴んでいるのだ。ならば僕の事は拘束するか殺すかしかないはずだ。
何故、ここで帰れなんて言葉が出てくるのか。
「…………」
「…………」
フィフィーの意図が分からず、じっと目を見た。
重い空気が扉の前の狭い空間を支配し、まるで永遠にこの睨み合いが続いてしまうのではないかという錯覚を感じる程時間の流れがゆっくりに感じられた。お互いの額から汗が滲み出ていた。
しかし、当然の事ではあるが、この睨み合いは永遠には続かなかった。
「なんだぁ……? 外が騒がしいなぁ。さっさと中に入って来いよ……」
目の前のドアがガチャリと気楽に開いたのだ。
「……っと?」
ドアの扉を開いたのは先ほど尾行していた神殿騎士のヴィオだ。その彼女が僕達の姿を認め、この状況に目を丸くしている。
彼女の腕には紙袋を抱えていて、来るときには持っていなかったものだから、それの中身が『客』が買う『アレ』であることは明らかだった。
そして扉が開いたため、僕は彼女と扉の隙間から少しだけ中の様子を覗き見ることが出来た。
「……ッ!」
扉が開いてしまったことにフィフィーは明らかに動揺した。目は驚きに見開かれ、彼女の体がびくりと跳ねて硬直した。
明らかに、完全に隙が出来た。
「てやぁっ!」
「……ッ!?」
反撃を起こす。フィフィーの手を強く打ち、手のナイフを弾き飛ばす。そのまま肘鉄で彼女の脇腹を打ち、怯んだ瞬間拘束されていた腕を強引に払った。彼女の押さえつけから完全に逃れることに成功する。
「ま、待って……! 待ちなさいっ! エリーッ!」
そのまま僕はヴィオを突き飛ばし、部屋の中に雪崩れ込んだ。
「きゃ、きゃあああああぁぁぁぁぁっ……!?」
「凶器!? あの人、凶器持っているわっ……!?」
場に悲鳴と混乱が齎される。僕は自分の獲物を抜いていたため、恐怖が場を支配する。部屋の中にいるのは全員女性だった。凶器を持った乱入者が現れるだけで腰を抜かしへたり込んでしまう人さえいた。
僕がここから助かる方法は1つ。それは人質を取ることだ。
フィフィーとの交戦状態に入る前にこの会合の重要な人物を抑え、拘束し短刀を突きつける。フィフィーが手を出せない状況を作り上げる。
スピード勝負。ここの事は何も知らないけど、その中で少しでも重要そうな立ち位置にいる人間を雰囲気だけで探し出し、自分の立場を有利にしなければいけない。難しいがやるしかない。それが出来なければ僕はフィフィーに人質ごと殺されてしまうだろう。
周囲を見渡し最大限の注意力をもって部屋の中を窺う。
その時に、この店が売り捌いている『商品』が目に付いた。
「ん?」
『商品』はそれ1つで証拠となる程重要なものだが、今はそれよりも人質を探すことが重要だった。……なのにその『商品』が僕の注意を逸らしてしまう。
『商品』は一切隠されることなく、店中に所狭しと並べられていた。
駄目だ。集中しろ。今は人質を探すことが先決なんだ。
でも……、なんだ、これは……?
「エリーーーッ! 見るなぁーーーッ!」
フィフィーの叫び声が聞こえてくる。
駄目だ。人質を探さないと……。でも、なんだ、これは……?
『商品』は異様なものであった。それは僕の理解の及ばないものであり、それが何なのか分からなかった。しかし、一目で異様、異質、言い難い混沌とした何かを感じた。本能的な恐怖を感じた。
「エリーっ! 見ないでっ! お願いぃっ……! 見ないでええぇぇっ……!」
フィフィーの叫び声はどんどん悲痛なものになっていく。
僕は恐る恐る『商品』を手に取った。
「触っちゃダメえええぇぇぇっ……! 開いちゃダメえええぇぇぇっ……!」
それは『本』であった。
でも僕の見たことのない本だった。
たった十数ページの薄い本。ただ、それは禁忌書物のように禍々しい気配を発していた。
「な……、なん……、なんなんだ……。これっ……」
恐怖と混沌が僕の頭をぐちゃぐちゃに掻き回す。世間知らずの僕の狭い常識ではとてもじゃないがその『商品』が理解できなかった。
その本には男性の絵が描かれていた。
あと、男性の絵が描かれていた。
男性の絵と男性の絵が描かれていた。
「…………」
男性が男性ににじり寄っていた。
男性が男性に頬を赤く染めていた。
「……なんだ、これ……?」
男性が男性に微笑みかけていた。
男性と男性が抱き合っていた。
「…………」
なんだ……、これ……。
「なんだ、これ……」
ぺらと、ページをめくると……、そこには……、
―――男性と男性が愛し合う絵が描かれていた。
「なんだこれっ!?」
なんだこれっ!?
「……なんだこれっ!?」
叫ぶ。思わず叫ぶ。
なんだ!? なんなんだ!? これ!? なんだぁっ!? なんなんだぁっ!?
意味が分からんぞぉっ……!?
「うわっ!? うわっ!? うわっ……!? なんだ、なんなんだ、なんだんだ、これえぇっ!?」
うわっ!? な、なんで……男の人と男の人が……、えっち……。うわっ!? うわっ!? うわっ……!?
「うわああああぁぁぁぁっ……!?」
思わず本を手放してしまう。
なんだこれ!? なんだこれっ!? なんだこれっ……!?
「なんだ、これっ……!?」
僕の、頭は、パニックになった……!
「うわあああああああぁぁぁぁぁぁんんんんんんんんっ……!」
フィフィーは崩れ落ちながら泣き叫んだ!
「うわああああぁぁぁんんんんっ……! バレたああああぁぁぁっ! 冒険者には隠してたのに、バレたあああああああぁぁぁぁぁぁっ!」
僕たちは阿鼻叫喚となった。
「なんぞっ……!? なんぞぉっ、これえええぇぇぇっ……!?」
「うわああああぁぁぁんんんんっ……! バレたああああぁぁぁっ! バレたあああああああぁぁぁぁぁぁっ!」
周りは騒然となる。騒いでいる僕たちを遠巻きに囲っていた。
「うわああああぁぁぁぁっ……!? なんだこれええぇぇっ……!? なんだこれええええぇぇぇぇっ……!?」
「うわああああぁぁぁぁんんんっ……! 腐ってるのがバレたああああぁぁぁぁっ……!」
「おおおおぉぉぉぉんんん……! おおおおおおぉぉぉぉぉぉんんんんん……!」
「うわああああぁぁぁぁんんんっ……! うわあああああぁぁぁぁぁんんんんっ……!」
2人して、叫んだ。
「ちょっと! なんの騒ぎですかっ……!?」
綺麗な店員の方が駆け寄ってきた。
「……って! フィフィーさんっ!? 何泣いてるんですかっ!? あと、この帽子の方はどなたですかっ……!?」
混乱し、泣き叫び、陰惨とした地獄絵図を店員の方は何とか必死に宥めてくれた。
「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉんんんんんんんんっ……! おおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんんんんんんんんんんんんんんっ……!」
「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんんんんんんっ……! うわあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんんんんんんんんっ……!」
「なんなんですか、この状況はああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ……!」
僕たちの魂の叫び声は聖なる街の地下室で幾度となく反響しながら、長く長く響いていくのだった。
その日、僕は『真実』に触れてしまった。秘密を追い、辿り着いたのがここであった。いつもいつも自分の中の常識を広げていきたいと思っていた僕は、この常識は広げたくないなぁ……、と思うのでした。
……結局ここは、『創造誌』という個人が作品を出す発表の場で、それも男性と男性が絡み合う姿が好きな女子たちが集まった、なんというか、その……爛れた場であった。
……知らなくていい事って、あるんだなぁ……。
聖なる街の端っこで、僕はまた1つ賢くなったのであった。
嫌な……、事件だったね……。




