138話 VSバーハルヴァント(1)
(長めのあらすじ)
エリーたちは第六王子のリチャードと貴族のアリアの婚約式の警備をしていた。
しかし、そこに闇の組織『アルバトロスの盗賊団』が現れる。
強靭な力を持つ敵を前に、次々と味方が敗れていく。
何とか力を合わせて屋敷を脱出したり、味方と共に追っ手を撃退したり、エリーたちは奮闘する。
そこで、エリーは昔の友達シータとディーズと再会する。
『ジャセスの百足』や『バルタニアンの騎士団』の援軍もあり、エリー達は態勢を立て直していく。
そしてエリーはフィフィー、シータ、ディーズと共に4人で敵が占拠している領主館に偵察へと向かう。
そこで、どういう訳だろうか、天井が砕け、上から敵が降ってきた。
『アルバトロスの盗賊団』のバーハルヴァントとセレドニである。
セレドニはアルバトロスの盗賊団を裏切り、今回の作戦のリーダーのバーハルヴァントに攻撃を仕掛けていた。
今、エリーたちは敵同士の戦いに巻き込まれる。
* * * * *
前話にキャラの現在の状況の説明のページを置いておきましたので、キャラの現状の確認にご利用ください。
長らくお待たせしました!
どうかよろしくお願いします!
【エリー視点】
部屋の中に暴風が吹き荒れている。
人の領域を超えた怪物たちの槍の舞いは嵐を生み、間合いにあるもの全てを斬り刻もうとしている。
目の前の敵の命を刺し貫こうとし、その余波が死の空間を作り出している。
「ハッ!」
「はぁっ……!」
1人の男と1体の竜人が槍を突き合わせている。
『アルバトロスの盗賊団』のヴェールとバーハルヴァントである。
どういう訳か知らないが、今この2人は仲間割れをしている。
その戦いに巻き込まれたのが僕達おちゃめな4人組だ。軽く偵察に来たつもりだったのが、とんだ重い死地に巻き込まれている。
今僕達のやるべき事はこの2人を喰い合わせ、消耗させることだ。
理想的なのはこの戦いが終わった時、勝者の方もひどく消耗して動けない状況になっている事だ。
傍目から見て、劣勢なのはヴェールの方だ。
だから僕達はヴェールの方を手助けしている。手助けされる分には横槍入れられるのも構わないらしく、今の所ヴェールは僕達に攻撃を仕掛けて来ない。
「パワーバースト……!」
僕の背に乗るシータがヴェールに攻撃力強化の魔法を掛ける。
バーハルヴァントと直接矛を交えているのはヴェールで、僕達は後方からヴェールの援護をしている。
僕達は実力的にバーハルヴァントの攻撃を一撃でも貰ってしまったらお陀仏である。
このレベルの戦いについていける筈もなく、距離を取って後ろから魔術を撃ち込みまくる。
「ブラストボム!」
「……スネークフリーズ」
僕は爆発魔法を、フィフィーに背負われているディーズが地面を這う氷の魔法を放つ。
僕達の攻撃ではバーハルヴァントに有効打を与えられない。
しかし、この爆発魔法の目的は目くらましだ。敵の顔に爆発魔法を当て、その爆風でバーハルヴァントの視界を遮ろうとした。
流石に目元で爆発が起こるのを嫌がったのか、バーハルヴァントが僕の魔法を避ける為上体を反らす。
ディーズの氷魔法に足を取られまいとして、片足を上げ地面を這う氷を踏み潰す。
僕達の攻撃に対応する為の小さな行動。隙とも言えない小さな揺らぎ。
そこにフィフィーが攻撃を合わせた。
「閃光一閃っ!」
フィフィーが雷で作った弓を引き、電撃の矢を放つ。
矢がぱっと光り、音を超える速度で強烈な魔法が飛翔する。
僕達が作った小さな揺らぎに彼女が付け入る。
余りの超速の為、その矢は放った瞬間に着弾する。電撃の矢が彼の体に直撃し、大きな衝撃音と雷が弾ける激しい音が鳴る。
電撃が破裂し、一瞬周囲が強烈な光で包まれる。
超高速で超威力。絶対不可避であり、普通だったら戦いを一瞬で終わらせる最強の一撃である。
「…………」
「くっ……!」
しかし、バーハルヴァントは無傷であった。
彼の竜の鱗はS級の強力な魔法をいとも容易く弾き、体にダメージを通さない。
こんなの理不尽だ、と言うかのようにフィフィーの表情が歪む。
「トラムっ……!」
「竜槌っ!」
ヴェールが十の刃を持つ槍を振るう。刃は自由自在に動き、バーハルヴァントの体を多角的に攻めようとする。
それに対してバーハルヴァントは巨大な槍を大きく振りかぶり、上段から振り下ろす攻撃を行ってきた。
単純故に高威力な技だ。
槍の武の型の1つなのだろうか。武の家に生まれ、武の街に生き、武を愛した者の洗練された動きをそこに見た。
トラムの刃の7つがバーハルヴァントの槍に絡みつく。7つの刃で防御し、残りの3つの刃で攻撃しようという算段だろう。
「くっ……!」
しかし、バーハルヴァントの槍は止まらない。
威力が減衰した敵の攻撃をヴェールはなんとか回避するが、完全には躱しきれなかったようで、彼の肩に深い裂傷が入る。
肉が削られ、血が吹き出す。
「ちっ……」
舌打ちをしながらヴェールはバーハルヴァントから距離を取る。
彼の肩の傷はすぐに塞がり、血が止まる。領域外達の化け物じみた生命力のおかげだろう。戦闘行動に影響はなさそうだ。
しかし彼の苦々し気な表情を見ると、全くダメージがない訳ではないみたいである。
傷は塞がったが、ダメージは負ってしまう様だ。
対して、バーハルヴァントの方は本当に無傷である。
ヴェールの残りの3つの刃は確かにバーハルヴァントの体に当たったが、その黒い鱗を貫くことは出来なかった。
「…………」
これまで、バーハルヴァントの竜の鱗は僕達のあらゆる攻撃を防いでいる。
フィフィーの超強力な魔術も、領域外のヴェールが使う神器の刃も、奴の鱗を砕くことは出来ない。
圧倒的な高防御力。
ただ単純な力を前に、僕達は為す術を無くし始めている。
「…………」
傷を負ったヴェールに対し、バーハルヴァントは無傷。
攻撃は当たっているのにダメージが通らない。
こんなのどうすればいいんだ。
「逃さんぞ」
「…………」
バーハルヴァントは距離を取ろうとするヴェールに追い縋る。
ヴェールはなんとかバーハルヴァントの攻撃を凌ぐ。しかし、全く傷を負わないバーハルヴァントに対して、ヴェールの体には生傷が増えていく。
時間が経てば経つほど不利になっていく。
じり貧だ。
「…………」
考える。
今僕達は窮地に立たされている。あの硬い鱗を砕く方法が見当たらず、バーハルヴァントにダメージを与える方法が存在しない。
……しかし、今僕に与えられた役割は奴にダメージを与える事ではない。
僕らはあくまで陽動だ。
僕達にとっての最大戦力はヴェールであることに変わりなく、僕達の仕事は何とかバーハルヴァントの注意を引き、ヴェールを動き易くすることである。
バーハルヴァントの鱗を攻略する方法を見つけ出すにしても、まずは自分に与えられた役割をしっかりと果さないといけない。
考える。
どうする?
どうやったらあいつは僕達を気に掛ける?
あいつが僕たちにして欲しくない行動と言えば……、
「はぁっ……!」
僕は腕を回して自分の背後に斬撃を放つ。
体の向きはバーハルヴァントに向けたまま、背の方向に剣を振り、剣圧を飛ばす。
「……っ!」
彼がこちらに目を向けるのが分かる。目をピクリと動かし、僕に少しの注意を向けるのが見て取れる。
僕はこの部屋の背後の壁に向かって斬撃を放っていた。
ガラガラと音を立てて部屋の壁が崩れ落ち、そこから外の光景が見える様になる。
バーハルヴァントはヴェール以外の僕達4人にほとんど注意を払っていない。
実力の差を正しく理解しているのだろう。僕達の事を歯牙にも掛けていない。
だけどこの戦いの一番最初、この部屋から逃げようとする僕達の行動を奴は邪魔してきた。
この部屋から逃さないように攻撃を仕掛けてきた。
もしかしたら外から応援を呼ばれるのが嫌なのかもしれない。流石に『百足』の団長とヴェールさんを同時に相手取るのは厳しいのかも。
『百足』には他に『領域外』の戦士がいるのかもしれないし……。
「逃さん」
部屋の壁を崩して逃走する振りをすると、バーハルヴァントがぎろりとこちらを睨み、僕に向かって大きく槍を振るってくる。
「竜槍走」
「……っ!」
僕とバーハルヴァントの間には距離がある。しかし、槍を振るった時の風圧が空を走り、凄まじい勢いを持って僕に向かってくる。
喰らえば最後。
僕の体はバラバラになって吹き飛ばされるだろう。
回避も困難。彼は初めて僕に集中した攻撃を繰り出す。
攻撃の速さ、強さ、衝撃の範囲、どれをとってもそれまでのものとは段違いだ。
槍の風圧が広がって、僕に向かって飛んでくる。
避けようと思って簡単に避けられるものでは無かった。
「グラン・アイスウォール!」
「ロックウォール!」
「マナバリア……」
しかし、その時3人の声がして、魔力が放出される気配がした。
僕の目の前に巨大な氷の壁、石の壁、魔力の防壁が張られる。
フィフィーにシータにディーズの援護だ。3重に張られた防御壁はどんな攻撃も通さない頑強な鉄壁となる。
皆の援護が心から頼もしい。
絶対に破られることの無い最強の防御が僕を守っていた。
「いやいやいや! 壊れてる! 壁壊れてる!」
「エリー! 逃げろぉっ……!」
「うぼおおおぉぉぉっ……!」
違った。
破られてた。
槍の衝撃波はそれらの壁を破壊しながら、その進行を止めず僕に向かって飛んでくる。
マジありえねえ。
3つの壁にはS級フィフィーの防御魔法も含まれてるんだよ?
「あばぁっ!」
でも皆の防御魔法はバーハルヴァントの攻撃の威力を減衰させていた。僕は口から奇怪な声を上げながら、必死に飛び退いて攻撃を避ける。
……姫の立場に戻った時にこの声が出ないようにしないと。
槍の風圧が僕の体を掠めながら、すぐ傍を通り抜けていく。僕はごろごろと床を転がり、何とか敵の攻撃を回避した。
「ひゃああああぁぁぁぁっ……!」
僕が負ぶっているシータが可愛らしい悲鳴を上げており、その声が僕より女らしいことに、女子力の差を感じた。
「……余所見とは余裕だな」
そう呟いたのはヴェールさんだ。
僕に攻撃を仕掛けて出来た分の隙で、ヴェールさんが大振りの攻撃をバーハルヴァントに放つ。
飛び上がって、上段から力強い攻撃を放つ。
柄の長い槍が遠心力を内包しつつ、バーハルヴァントの体に上から衝撃を与えた。
「ぬぅっ……!」
相変わらず体に傷はつかない。
しかし、上から抑え込まれるような力を受けきることが出来ず、奴は片膝を地に付けた。
ほんの少し、体勢に崩れを見せた。
ここが攻め時。崩し時だ。
「シータ、ちょっと無理するよ」
「え、えぇっ……!? もう十分無茶してると思うんだけど……!?」
「援護宜しく」
「あぁっ……! もうっ!」
そうして僕も前に駆けだす。
背中のシータが僕に隠密魔法と身体能力強化魔法を掛けてくれる。
人を背負っていると一見動きが鈍くなりそうであるが、彼女が僕に掛けてくれる魔法により、1人の時よりも良いパフォーマンスが出来そうである。
それにシータ、軽いし。
「エリー、行きます!」
「うわあああぁぁぁん……!」
自分の身をバーハルヴァントの槍の間合いに滑り込ませる。
ここは嵐が吹き荒れる場所だ。一瞬先には死の待つ世界。
でもやっぱり、この世界に挑まない事にはこの勝負、勝ちを拾えない。
……シータが泣きそうな声を上げる。
A級をこの嵐に巻き込んで、ごめんね?
でも僕だって泣きそうなんだからね?
「……ふん」
「どりゃあぁぁぁっ……!」
片膝を付いたままのバーハルヴァントが槍を振り回し、ヴェールに攻撃するついでと言わんばかりに僕の事も攻撃に巻き込んで来ようとする。
隠密魔法を掛けて気配を遮断しているというのに、それでもなお、奴は僕の存在を捉えてくる。
雄たけびを上げながら、飛び上がって槍を避ける。
こんな何でもない敵の攻撃でさえ、僕達には命懸けだ。心臓がバクンバクン言う。槍には直撃していない筈なのに、その風圧だけで肌が削れ、血が零れだす。
「シータアアァァァッ……!」
「うりゃあああぁぁぁぁっ……!」
飛び上がる瞬間、2人で叫んだ。
その時に、僕たちは2人で魔術を使ったのだ。
「む……!」
バーハルヴァントの目がほんの少し見開く。
僕達の使った魔術に、小さな声を漏らしていた。
僕達の使ったのは分身と変身の魔術だ。
バーハルヴァントを取り囲むようにたくさんの分身が出現する。
それもただの分身ではない。全てヴェールの姿に変身した分身だ。
流石のバーハルヴァントも少しの困惑が表情から読み取れた。
所詮僕達の存在など奴にとって脅威になり得ない。しかし、このヴェールの姿だったら警戒せざるを得ない。
流石にぎょっとさせて動きを止めるほど驚かせることは出来なかったが、それでも奴の注意は僕達の分身に拡散した。
徹底してヴェールの援護に全力を尽くす。
それが僕の役割なのだ。
「くだらぬっ!」
「うわぁっ……!?」
しかし、奴は僕達の小細工を一瞬で消し去る力を持っていた。
片膝を付いたままであるが、奴が体を大きく回転させ、槍を大きく振り回そうとする。
何がやりたいかすぐに理解する。
奴は魔力によって攻撃範囲を拡散させ、周囲にいる僕達の分身を一薙ぎで全て消し去るつもりなのだろう。
僕にはバーハルヴァントのこの槍を防ぐ術は無い。
流石に実力差が大き過ぎる。僕達の命がけの策も、奴にとっては吹けば飛ぶ紙屑のようなものなのだろう。
「うおぉっ……!」
「ぬっ……!」
しかし、ヴェールは違う。
彼は叫びながら、自分も体を回転させ、バーハルヴァントの槍を受ける。
僕達の分身が有用だと判断したのだろう。全力を以てバーハルヴァントの攻撃を阻止に掛かっていた。
ヴェールが体をよろけさせながらバーハルヴァントの槍を弾く。
敵の攻撃が中途で止まる。1/4くらいの分身が消されずに残っている。
竜人の体勢が目に見えて崩れる。
槍を弾かれ体が反り、注意も分身たちから逸らせずにいる。
僕達の畳み掛けにより、まだ片膝を床から起こせていない。
ただ、僕達にも余裕がない。
奴の攻撃を阻止する為に無理をしたのか、ヴェールの体勢はバーハルヴァント以上に大きく崩れている。
分身と変身の魔術を使った為、僕とシータも即動けるような状況にない。
「ここだぁっ!」
だから、次の一手を打ったのはフィフィーだった。
地面が波のように揺れる。
まるでこの床が水で出来ていて、その水面が揺れ、小さな波を起こしているかのように石の床が揺れていた。
そのイメージは正解から遠くない事を僕は知る。
「やあああああぁぁぁぁぁっ……!」
ばしゃん! と音を立てて、地面の中からフィフィーと、彼女に背負われたディーズが飛び出してきた。
高等魔術・グランドスイム。
地面の中を水中の様に移動出来る魔術であった。
突然現れたフィフィーとディーズに、バーハルヴァントは目を見開く。
フィフィーはがら空きになっているバーハルヴァントの側面に位置取ったのだ。
フィフィーは自分の持つ杖を前に突き出し、その先端を竜の腹の鱗に押し当てた。
「喰らえっ!」
「ぬっ!」
フィフィーの魔力が強く揺らぎ、バーハルヴァントの顔が歪む。
フィフィーの所有する杖は封印の神杖『ガンバンイオン』という名の神器である。
文字通り、対象を封印する事に長けた神器だ。
封じることの出来るものの範囲は幅広く、呪いのアイテムを封印したり、敵の武器を封じたり、魔術だって封印できる万能の封印道具だ。
しかしフィフィーが言うには大きなデメリットが存在するらしい。
それは、封印対象を直接杖の先端で触れなければいけないという点だ。
敵の武器を封じる為には前線に出なければいけないし、敵の攻撃魔法を封じる為にはその魔法に肉薄しないといけない。
純粋な後衛魔術師としてはリスクが大き過ぎる行動である。
万能だけどけっこう不便、それがフィフィーの弁であった。
「いけぇっ……!」
しかしそのリスクを越えて、フィフィーの封印魔法は発動した。
フィフィーの杖が光る。その杖の先端は花弁のような形をした宝石が付いており、そこが眩い光を放った。
「くっ……!」
「……っ!」
攻撃が通じないのなら封印をする。
それがフィフィーの策なのだろう。
杖の先端の花の宝石が虹色に光り、彼の体を吸い込もうとしている。
「いけえええぇぇぇぇっ……!」
「むうううぅぅぅぅっ……!」
フィフィーの雄たけびとバーハルヴァントの唸り声が聞こえてくる。
彼女は目一杯の魔力を杖に注ぎ込む。彼も抵抗するかのように体の魔力を強く滾らせる。
2人は魔力の光に包まれた。
その強い光を直視していられなく、僕は目を背ける事しか出来なかった。
やったか……!?




