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126話 VSルドルフ

【イリス視点】


 剣と槍が火花を散らしながら激突する。

 2つの武器がぶつかり合う衝撃だけで周囲一帯の空気がビリビリと震える。


 今武器を交えているのはリックさんと敵のルドルフだ。私たちを追いかけてきた2人が人間の限界を馬鹿にしたような速度で武器を振り回している。


 リックさんはS級冒険者。人間として最高位の実力を持っている。

 一方ルドルフは『領域外』を名乗っている。実力はS級以上で、その力は神話やおとぎ話の中の存在のものとされている。


 それでもリックさんはルドルフ相手に一歩も引かず剣を交えている。

 数十回もの武器の交錯する音が、早過ぎて1つの音の重なりにしか聞こえない。私はルドルフと同じ『領域外』のセレドニ相手に数手しかもたなかった。


 それでもリックさんはルドルフの攻撃を捌き切っている。

 目つきは鋭く、しかし余裕を持った表情で冷静に敵の攻撃を凌ぎ、そして反撃を入れている。


 どちらも一撃の攻撃も受けていない。お互いがお互いの攻撃を見切っている。

 そして2人の武器が強くぶつかり合い、鍔迫り合いとなった。


「……どうした? 領域外とはその程度かい、ルドルフ? ボクでもなれそうか?」

「さぁ、どうだろう? リック、君は有望だと思う……」


 そうして2人はお互いの武器を押し、数歩下がる。間が開き、仕切り直しとなる。


「だが君は、次の一撃で死ぬがね」

「……!」


 ルドルフの槍に強い魔力がこもっていく。

 ルドルフは『衝撃波』を自由自在に操るという能力を持っている。槍の周囲に衝撃波を纏わし、彼の周囲の全てを吹き飛ばす。


 先程クラッグが彼の攻撃を紙一重で避けたにも関わらず、強い衝撃に体を傷つけられてしまっていたし、僕たちが逃げようとする際、ルドルフは『衝撃波』を前方向に飛ばし、僕たちをまとめて吹き飛ばそうとした。


 ルドルフの『衝撃波』は広範囲に広がる高威力の攻撃だ。

 恐らくメガーヌの『汚染』と同じ、まともに武器を合わせてはいけないタイプの敵だろう。武器を合わせたら、槍の纏う広範囲の『衝撃波』が体にダメージを与えるに違いない。


 ルドルフは防御不能の攻撃を構える。

 そして、ぱっと前方に踊りだした。


「……リックさん!」


 僕は心配の声を上げた。

 しかしリックさんは冷静な表情を崩さず、迫りくるルドルフを前に、武器を前に構えることが無く、彼は刃の先を地面に向けた。


「ん?」

「えっ……?」


 リックさんを襲おうとするルドルフの表情が歪むのが見えた。

 そしてリックさんは下げた切っ先をそのまま地面に突き刺した。


「アルマスベルっ……!」


 そして、リックさんの神器から湧き出るように氷が発生し、一瞬でリックさんとルドルフの間に巨大な氷の壁が出来上がった。


 突進していたルドルフの槍が氷の壁に突き刺さる。彼の槍の衝撃波はそのまま氷の壁に伝わり、リックさんの氷の壁がビシビシビシと凄まじい音を立てながらひび割れ、砕けていく。

 ルドルフは神器で作られた分厚い氷の壁を、槍のたった一突きでぶち壊していく。


 しかしその槍の突進は氷の壁を砕くだけに終わり、その切っ先はリックさんまで届かなかった。


「ちっ……」


 ルドルフが舌打ちをする。

 彼の頬から一筋の血がたらりと垂れた。


 彼の砕いた氷の壁から幾本もの棘が生えていたのだ。リックさんの作った氷の壁は防御だけでなく、カウンターとして氷の棘まで生やすものであった。

 ルドルフは大量に生えた氷の棘をほぼ全て避け切っている。しかし、僅かに頬を掠った氷の棘が彼に血を流させていた。


「はっ……!」


 目の前で槍が止まったルドルフに対し、リックさんが剣を振るう。神器の青い剣が輝き、周囲に冷気を纏わせながらルドルフに斬りかかる。

 ルドルフは大きく飛び退いてその攻撃を避けた。


 たった今ルドルフがいた地面が一瞬で凍り付く。リックさんが剣を振ると同時に振りまいた冷気のせいだ。

 ルドルフが広範囲の攻撃を持っていることを危惧したが、リックさんも同様に広範囲の攻撃手段を持っていた。


「アイスゴーレム……!」


 フィフィーの杖が光り、魔術を放つ。

 リックさんが作り出した氷を利用し、それを幾体ものゴーレムに変えて動かしだした。一瞬で高性能のゴーレムを作り出す技術は、流石『魔導の鬼』と呼ばれる魔術のプロフェッショナルのものだった。


 神器で作り出した氷を利用して魔術を放つ。リックさんとフィフィーのコンビネーションは一流だ。


 アイスゴーレムがルドルフに襲い掛かる。

 残念ながらアイスゴーレムの戦闘力ではルドルフに到底及ぶことはなく、衝撃波を纏った彼の槍の一振りで粉々に砕かれてしまう。


「アルマスベルっ!」


 しかし、ルドルフがアイスゴーレムを砕くために3度槍を振った時、リックさんが氷の閃光を放った。

 超高速の閃光がルドルフに向かって走る。彼は振りかけていた槍を止め、横に大きく飛び退く。氷の閃光は遠く向こうの地面にぶつかり、その周辺一帯の地面が氷に包まれるのが遠めに見えた。


「はぁっ!」

「ちっ……!」

「フィフィー!」


 ルドルフがフィフィーに向かって衝撃波を飛ばした。

 フィフィーは飛び退きながら魔法の防壁を張るが、それを砕きながら衝撃波はフィフィーに襲い掛かろうとする。


 僕はフィフィーのフォローに回る。彼女に近づき、彼女の腰を抱き上げ大きく飛び退く。

 機動力だけなら僕はフィフィーよりも上だ。彼女を抱えて下がりながら、土の防御魔法を展開する。


「うおおおおぉぉぉぉっ……!」

「ぬがああああぁぁぁぁっ……!」


 フィフィーは僕に抱えられながら、もう一度魔法防壁を張る。2人の必死の防御魔法を砕きながら衝撃波は僕たちに襲い掛かってくる。


「うがああああぁぁぁぁっ……!」


 雄たけびを上げながら、必死に逃げる。

 そして衝撃波に少し巻き込まれたが、致命的なダメージはなく僕たちは敵の攻撃から逃れることが出来た。


「ぬおおぉぉっ! あぶねぇ! 怖えぇぇっ……!」

「ありがとう、エリー! 悪いけど、攻撃と陽動に専念したいからこのままわたしを守って欲しい!」

「了解! フィフィー!」


 普段ならフィフィーは自力で自分の身を守ることが出来るのだろう。しかし、今回の相手は『領域外』だ。フィフィーに余裕はなく、そして彼女は自分が攻撃に専念して敵の意識を散らさないといけないと判断したようだ。


 僕の役割がはっきりした。

 彼女が魔法に専念できるよう彼女を守り抜くことだ。


 僕たちに攻撃した隙を狙い、リックさんがルドルフに攻撃を振るう。

 剣の振りと同時に、巨大な氷の刃が地面から生み出され、それがルドルフに襲い掛かる。その氷の塊は高さ10mにも届きそうなほど大きく、それがいくつも生み出されてルドルフを貫き殺そうとする。


 しかしルドルフも槍を振るい、それを難なく砕いて壊していく。そして距離を詰め、リックさんに襲い掛かろうとするけれど、リックさんはまた巨大な氷の壁やら、巨大な氷の柱を作り出して彼の動きを妨害していく。


 周囲一帯が氷と衝撃波に包み込まれていく。

 ここは7年前の竜の襲撃事件の後、まだ復興が進んでいない区画だ。ボロボロの建物が並んでおり、それらが氷によって閉ざされたり、衝撃波の余波によって吹き飛ばされたりしていた。


 リックさんとルドルフの2人の戦いは、竜の襲撃よりもこの場所を悲惨な光景に変えてしまっていた。


「グラン・ファイアーウォール!」

「アイスウォール!」


 フィフィーが杖を光らせたと同時にリックさんも氷の神器を地面に突き刺した。

 ルドルフの前後の逃げ場を奪う様にフィフィーが巨大な炎の壁を、リックさんが同じくらい大きな氷の壁を生み出した。


「潰れろっ……!」


 そして2人は叫ぶ。

 そして炎の壁と氷の壁はルドルフを押し潰そうと前に動き出した。


 炎の壁と氷の壁は一切の隙間なく衝突し、ジュッという水が蒸発するような弾ける音を立てた。

 見ていてえげつないと思った。

 炎の壁も氷の壁も、幅も高さも50m程あり、一切逃げられる余地などなかった。そんな超巨大な魔術が自分を押し潰そうと前後から迫ってきたら、それは正しく絶望となりえるだろう。


 しかし、それでもルドルフは殺しきれない。

 氷の壁がひび割れ、炎の壁が揺らいでいく。そして2つの壁は砕かれ、弾き飛ばされ、中から出てきたのは槍を一振りしたルドルフだった。


「これでも駄目なんて……! ほんとにあいつ、人間っ……!?」

「やっぱ『領域外』崩しは簡単じゃないね……」


 ルドルフの衝撃波が2つの壁を吹き飛ばしていく。

 彼の能力で一番厄介なのが、その威力だ。先程見たメガーヌの『汚染』や、アルヴァントの『予知』のように驚異的な性質自体は持ち合わせていない。


 しかし高威力、広範囲というただ単純な性質はそれだけで破り辛いものである。下手な小細工は一切通用しない厄介さがそこにある。

 だからこそ、先程見た使い手の中でこのルドルフが一番厄介であるのだ。


「ぼさっと考えてる暇はないよ! エリー! 攻めなきゃ、攻め込まれる!」

「う、うんっ……!」


 そう言ってフィフィーは即座に魔法を発動させる。

 この周囲一帯にはリックさんの攻撃の余波で大量の氷が張られている。フィフィーの魔法がその氷に干渉を始め、あちこちに存在する氷の塊から大量の氷のつぶてが発射された。


 凄まじいまでの物量がルドルフに襲い掛かる。

 ルドルフの周り360度全てから氷のつぶてが彼に襲い掛かる。この全てのつぶてが直撃したら、人は肉片も残らず消し飛んでしまうだろう。

 僕は唯一氷のつぶてが発射されない方向、ルドルフの頭上に雷魔法を降らせた。


「ふんっ!」


 しかし、彼はそれを難なく凌ぐ。

 彼が槍を大きく一回転させると、衝撃波が周囲一帯の全てを吹き飛ばす。氷のつぶてをすべて一掃し、その発射元であった氷の塊さえも砕いていく。


 全く、とんでもない能力だ。


「でもっ……!」

「いけっ! リック……!」


 リックさんが攻撃の準備を終え、仕掛けに移る。

 衝撃波が丁度止んだ時を狙い、リックさんが飛び出す。丁度敵の攻撃の切れ間を狙った反撃だった。


「ルドルフっ……!」

「……!」


 リックさんがいるのはルドルフの丁度真上の空だった。彼は上空から攻撃を仕掛けようとしていた。

 手には氷の剣と、その剣を纏う氷で作り出した巨大な槍を持っていた。


 それはとても巨大な槍だった。

 4階建ての建物をいくつも重ねたような大きさを持つ氷の槍を一瞬で作り出し、それを落下させてルドルフの頭上に落とそうとしている。

 スケールの違いに眩暈がしそうになる。リックさんの本当の実力をその目で見た。あんなのが直撃したら、なんて考えなくても結果が分かる。


 ルドルフは顔を上げ、頭上から襲い掛かってくる巨大な氷の槍とリックさんを見た。


「……っるああああぁぁぁぁっ!」

「だああああぁぁぁっ……!」


 2人は雄たけびを上げた。

 ルドルフは渾身の力でその氷の槍を迎撃しようと、全身の魔力を高ぶらせ槍を振るった。


 槍と槍の先端がぶつかり合う。

 ルドルフの衝撃波がリックさんの氷の槍の先端を砕く。


 しかし、リックさんの槍の武器はその巨大さだ。その氷の塊は容赦なくルドルフを押し潰そうとする。先端を砕かれたところでその槍の脅威は全く変わらない。

 ルドルフを押し潰して殺せればリックさんの勝ちなのだ。


「っらあああああぁぁぁぁ……!」

「あああああぁぁぁぁっ……!」


 ルドルフは最大出力の衝撃波によって氷を砕こうと苦心する。しかし、そうはさせまいとリックさんが自分の魔力によって氷の硬度を上げていく。


 氷を砕け切ればルドルフの勝ち。

 敵を押し潰せればリックさんの勝ち。


 そして、氷がその周辺全てを覆いつくした。


「リック……!」

「リックさん……!」


 2人の攻防と、巨大質量の落下の衝撃に巻き込まれないよう僕たちは少し離れた場所に移動していた。

 その為、落下地点が氷に覆われ2人の行方が見えなくなる。


 やがて、落下の衝撃だろうか、それともルドルフの攻撃のせいだろうか、巨大な氷が地に付いて割れ、砕けていく。

 ルドルフがいた場所を僕とフィフィーは目を皿のようにして見つめていた。


 2人のいる場所の周囲には、轟音と衝撃がけたたましい程の存在感を放ちつつその場で雄たけびを上げている。氷の冷気が風によって運ばれ、少し離れた僕たちの場所まで凍てつくように冷やしていく。


「あっ……!」


 そしてフィフィーは声を上げ、口を手で覆った。僕も同時に彼女と同じものを見た。


 ルドルフは立っていた。槍を天に構えるように突き出し、2本の足で立っている。

 額を切ったのか、頭から少し血を流している。しかし致命打には程遠い傷であることは明らかだった。


 そして、ルドルフの槍からは細く長い『衝撃波』が飛び出していた。

 その『衝撃波』の在り方はおかしかった。膨大な量の魔力を流し、そして押し固めている為か、『衝撃波』が固体化し、質量を伴ってそこに存在し続けていた。


 ルドルフの槍の周囲を具現化した『衝撃波』が纏っており、そしてそれは細く長く空に向かって伸びている。

 ルドルフの槍が伸びているようなものだった。


 そしてその『衝撃波』は上空にいたリックさんの腹を貫いていた。


「がっ……」


 リックさんの口から血が零れていることが見て取れる。

 リックさんが敗北していた。


「残念だったね」

「…………」


 ルドルフがにやりと笑う。

 『領域外』の壁は絶望の様に高く僕たちの前にそびえ立っていた。


次話『127話 エリーの挑戦』は4日後 4/23 19時投稿予定です。

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