そして二人は
智子が今まで凍り付かせてた感情を爆発させて、カスミはそれを黙って聞いていた。
智子の感情に呼応するように、ぽつりぽつりと雨が降り始める。辺りは土の臭いが漂っていく。
「雨。降ってきましたよ。風邪をひきますから早く帰ってください」
「何を言っておるんじゃ、お主は。帰るもなにもワシの家はここの近くじゃ。ほら、行くぞい」
「私は置いてってくだ……ひゃあ!?」
智子が言い切る前にカスミが再び体を背負う。地上では最低限の物しか食べることが出来なかった智子の体は歳不相応なまでに痩せ干そっていて、鬼でなくとも背負う事は簡単だなとカスミは思う。
それと同時に、智子を育てた大人や村の風習に怒りを感じ始めた。
「全く。どうしてここまで愚かしいのかの」
背負う智子にすら聞こえないほどの小さな声で一人ごちる。
愚かしいと言った意味。それは自分自身に対してもだった。
理由は一つ。命の大切さを智子に説いた後に、その自分が村の大人達を皆殺しにする事が頭に過ったからだ。
慌てて頭を横に振る。その考えを追い出すように。そしてまた別の思考が頭を過る。
智子にああは言ったものの、流石に偉そうに言い過ぎたじゃろうか、と。
カスミは自分に嘘をつかないようにしている。正直者として生きようとしてるわけではない。ただ嘘を突き通す事が面倒だと感じているからだ。
勿論嘘をついたら貫き通す覚悟はある。
そしてもう一つ。カスミは常日頃から話し相手に飢えている。
鬼と言う生き物はよっぽどの事がない限りは鬼同士で行動を共にすると言う事がないからだ。その為に生活をするにしても一人で暮らしで話すと言う事をあまりしない。
だからこそ。カスミは智子に対して命の尊さを説いたのだ。
智子に生きてもらいたい。そして願わくば話し相手になってもらいたいと考えて。
数分と言ったところか。智子は涙を流しながらカスミの背中で眠りについていた。
「私、は……」
寝言を言ってカスミにしがみつく。
「ふふん。背伸びしたいお年頃、と言うやつじゃな」
さっきまでの考えをかき消して、これからの智子との生活に思いを馳せる。
どんな事があるのだろうか。
智子はこれからどんどんと成長していく。体も、心も。
「ワシがしっかりとしなくちゃ、じゃな」
これからはカスミが智子の親代わりとなる。智子を養い、育て上げる。話だけしか聞いたことのないカスミにとって、それは未知の体験だ。
だからこそカスミは不敵な笑みを浮かべる。
これは鬼として生きてきたカスミの、一番の挑戦だから。
逸る気持ちを抑えて、智子を背負って自分の家へと着いた。
後1、2話で終わります