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見たことのない景色

 智子は今までに感じた事のないような感覚に襲われていた。

 体の自由が効かない。手足に力が入らない。

 目は開くことも儘ならないし、息をすることでさえ困難なほど。


「ふむ、こんなところじゃな」


 ついさっきまでと同じ鬼の少女の声なのに、その声色は違って聞こえた。

 朗らかで、智子の十年間と言う人生で一番暖かみのある言葉だった。


「ほら、目を覚ますのじゃ」


 鬼の少女が智子の体を揺すぶる事で、ようやく智子は思うように体を動かす事が出来た。

 目をゆっくりと開く。まず飛び込んできたのは鬼の少女の真っ赤な瞳と漆黒の髪。

 そしてその後ろにある、目も醒めるような強烈な青。

 そこで智子は初めて自分が横になっていた事を知った。


「ここは、どこですか? みんなは?」

「居らんぞ。ここは地獄じゃからな」

「地獄、ですか」


 改めて、智子は周りを見渡した。

 のどかな風景だった。日本の元風景と言っても差し支えないほどの、ただただ時間の流れがゆったりと感じられるような風景だった。


「私は死んだのでしょうか?」


 智子が鬼の少女に訊ねる。それは智子が一番気になっていた事だったからだ。

 鬼の少女はふっと笑う。


「そしたらお主はなんなのじゃ? 今こうしてワシと会話を交え、地獄の景色を眺め、そうして考えた末に出した答えは己の死についてなのか?」

「まあそうですね。それが私の生きてる理由でしたので」


 あっけらかんと答える智子。

 こりゃ重症じゃな。鬼の少女は心の中でそう漏らすと、立ち上がって近くに放ってあった金棒を持つ。


「紹介が遅れたの。ワシの名はカスミじゃ。よろしく頼むの。若いの」

「あ、はい。それと、私は智子って言います。よろしくお願いします」


 智子が頭を深く下げるとカスミは空いている左手を智子に差し出す。

 ポカンとする智子。無理矢理その手を取るや否や、上下に振った。それは握手だった。


「よし、これでいいじゃろ。契約成立じゃな」

「……はい?」


 繋ぐ手を離すと二人の左手にはそれぞれ違う色の光を放ち輝く。

 やがてその光は収まっていき、カスミには赤い薔薇が一輪の紋様。智子にはそれにイバラが絡み付いた紋様があった。

 智子は手のひらを見て瞬きをする。

 ゴシゴシと。まるで夢を見ているのではないかと今見ているものを疑う。


 だが、現実は非情で無情だった。


「ワシがさっき言ったじゃろう? お主の命は奪わん。代わりに時間を貰うとな」


 カスミはニタリと妖艶な笑みを見せると、智子は相対的に本の今までに見せてた表情を凍てつかせ、これが自分の人柱としての役目なんだと考える。


「……分かりました。その代わり、村の人達には何もしないでください」


 土下座をして。土に額をくっつけて。智子はカスミに震える声でそう言った。


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