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全ての始まり

気ままに書いていきます

和モノとか初めてなので和要素がそんなにないかと思いますが、よろしくお願いします

 歌が聞こえる。

 子供の声だ。人数は六人かそこら。


 他にも聞こえる。

 大人達の囁き声。

 風が凪いで揺れる草葉にカラスの鳴き声。

 カァー、カァーと何かを恐れるような、そんな鳴き声。


「かごめかごめ」


 少年少女は輪になって。


「かごのなかのとりは」


 まん中の少女を取り囲み。


「いついつであう」


 ただ、無邪気に。


「よあけのばんに」


 ただ、酷薄に。


「つるとかめがすべった」


 歌を歌う。


「うしろのしょうねん」


 そこで不意に歌が途切れた。カラスが、黒猫が、猿が少年少女に襲い掛かったからだ。


 繋いだ手が離れる。

 輪がほどけて穴が開く。

 少年少女が慌てて手を繋ぎ直そうとする。

 だが、遅い。


「だれなんじゃろうな?」


 まん中の少女が不敵に笑う。

 声はまん中の少女のものではない。

 少女を取り囲み、歌を歌っていた少年少女達でもない。大人達でも、襲い掛かった動物達でもない。


 鬼。


 鬼は小柄な少女だった。

 短く切り揃えられた髪の毛は光を通さないような漆黒。瞳は燃え上がる炎のような赤。それとは正反対の白磁の肌には血が通っていないのか。生気というものが感じ取れなかった。

 身に纏う衣服は夕焼けすら呑み込む宵闇のような黒の着物。鬼の少女のお洒落だろうか。ワンポイントで赤い百合の柄が入っている。


「儀式が、失敗したのか!?」

「災厄が、災厄がぁ!」

「神様。どうか、お守りください。神様……!」


 大人達が逃げ惑う。中にはその場に座り込んでは両手を重ね合わせ、祈るように呟く。

 鬼の少女はカランコロンと下駄を鳴らす。

 手には金棒。血が染み込んだ本物の鈍器を軽々と持ち上げて、肩で背負う。


「全く。儀式だとか災厄とか、ワシの事をなんと思っているのじゃ」


 古風なしゃべり方の鬼の少女に対し、ただじっとしていたまん中に居た少女――名を智子ちこと言う――はゆっくりと立ち上がる。


「お待ちしてました。さあ、どうか私の命を捧げますので、鎮まってくださいませ」

「鎮まるもなにも、ワシは勝手に呼び出されただけじゃ。憤る理由なぞ、何一つもないぞ?」

「で、ですがそれでは儀式が……!」


 智子は慌てふためく。何故なら。この儀式で命を散らすことのみが智子の生きてきた理由だったから。

 勿論そんな事情を知らない鬼の少女は、面倒事に巻き込まれたと自身の不運に対してため息を吐く。


「お主よ。何故そこまで儀式にこだわる?」

「私が十年間。この儀式の為に育てられたからです」


 淀みなく答える。


「ならば、その儀式が失敗……ワシがお主の命を奪わなかったらどうなる?」

「この村に災厄が撒き散らされて、人々は死に絶えます」

「ふぅん。つまるところ人柱と言うわけか」


 鬼の少女は目をつぶり思考を巡らせ、一つの結論に辿り着く。


「お主の命は奪わん」


 ピシャリと言い放つ。智子は、まるでこの世の終わりとでも言うような表情で手を地に付けた。

 不甲斐ない自分のせいで村の人々が死ぬ。僅か十と言う歳の少女にその事実は、酷く重いものだった。


 鬼の少女は言葉を続ける。その言葉は少女の耳を疑わせるものだった。


「その代わり、お主の時間を貰おうぞ」


 カランコロンと鳴らしながら智子の手を取ると、金棒を地面にズシンと打ち付ける。

 それが智子にとって、村で最後の記憶だった。



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