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「お兄ちゃんっ!」


病室に飛び込むと、お兄ちゃんは静かに寝ていた……

そう、私の目には寝ているように見える。でもそれは菜緒なおちゃんの一言によって打ち消された。


「お姉ちゃん……さっき……」


菜緒なおちゃんが辛そうに首を横に振る。健太郎が下を向いたまま泣きじゃくっていた。


「お兄ちゃん?」


そっと頬に手を当てるとまだ温かった。


でも…


泣くこともできず、何が起きたのかも分からず、ただ茫然と立ち尽くす。


私が到着したのを知って浜崎さんが先生を呼んだ。先生はお兄ちゃんの胸に聴診器を当てペンライトで眼の中を覗き込む。


「心臓音の停止、呼吸音の停止を確認しました。併せて瞳孔の散大と対光反射の消失を確認しました」


「……」


「8月8日、23時○○分、ご臨終です」


先生は静かな声でそう言って目を閉じ、深々と頭を下げ手を合わせて一礼する。


浜崎さんは私が到着するまで先生を呼ぶのを待っていてくれた。この最後の言葉を家族全員で聞くために……お兄ちゃんの本当の最後を私に看取らせてくれる為に。


「お兄ちゃんっ!」


わぁぁぁぁっ!とお兄ちゃんに抱きつき泣き叫ぶ。


「なんでっ!なんでっ!お兄ちゃんっ!お兄ちゃんっ!起きて!起きてぇ!」


泣き叫び身体に抱きついて離れようとしない私を、そっと温かな腕が包み込んだ。


茉緒まお……」


「達郎、いやだっ!お兄ちゃん……いやだ、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん!いやだよぉー!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


お兄ちゃんは8月8日、天国に旅立ちました。


『あっはっはっー!』っていつも豪快に笑っていたお兄ちゃんらしい、8・8の日でした。泣いて泣いて放心状態の私を、葬儀の事もなにも出来ず、ただただ泣きじゃくっている私を、達郎が菜緒なおちゃんが健太郎が支えてくれました。


作業着を着て静かに寝ているお兄ちゃんの元に何人も人がお別れを言いに来てくれ、みんな枕元で兄に話しかけ泣いてくれました。


通夜の日の明け方の事です。茶の間で静かに横たわっている兄の身体がそのまま宙にふわりと浮きあがり動いたのです。


茉緒まお


「お兄ちゃんっ!」


「一度死んでくるからなぁ」


機嫌がいい時の声と笑顔で、ニコニコして私に話しかけたんです。


「次はもっと大きな人間に……」


後半は何を言っているのか聞き取れませんでした。笑いながら消えていこうとするお兄ちゃんに向って、泣きながら必死に手を伸ばしながら叫んだんです。


「次も、次もっ!私達のお兄ちゃんでいて!」


「次もかぁ?あっはっはー」


お兄ちゃんはそう言いながら笑って消えていきました。神様が会わせてくれたんだと思います。お兄ちゃんはとても幸せそうな顔で笑っていました。


なぜ逝く時に私を傍におかなかったのか?あの日私は何か見えない力によってお兄ちゃんから引き離されました。『見えない力』それはお兄ちゃんの私に対する強い愛の力で、私の記憶の中に自分が逝くその瞬間を残さない為だったんじゃないだろうかと思っています。だから私の記憶にある最後のお兄ちゃんは、手をギュッと握ってくれた時の優しい笑顔のままです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ガンという病に侵され、一部の望みを賭けて手術。だけどガンは身体のほとんどを食い尽くしている状態でした。それでも兄は強い心を持ち続け決して諦めなかった。


治療を断念し、緩和ケア病棟に入ってからもガンに負けたわけじゃありません。生きる事を諦めたわけじゃありません。全てを受け入れ自分らしく最後まで格好よく生き抜きました。


だから私達はガンに勝ったんです。


どうやって死んでいくか……


人それぞれだと思います。正しい答えはないんです。最後の時を悔いなく兄と過ごしたはずの私たちでさえ、もっとできる事があったはずだ!もっとこうしてあげればよかった。もっと……もっと……


後悔のない看取りなんてないんです。


私達は兄と幸せな最期を過ごせたと思っています。緩和ケアと言うとても静かな空間の中で、優しい心に囲まれ。生きていくと言う事がどういう事なのか、明日のある幸せがどれだけ素晴らしい事なのか、たくさんの大切な事を兄や琴音さん達に教えてもらいました。


空を見上げて、逝ってしまった兄を想い、涙がこぼれない日はありません。それでも私達は前を向いて笑って生きています。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


お兄ちゃんへ


大好きだよ。ずっとずっと大好きだよ。ちゃんと笑って生きてくから、大丈夫、心配しないで?


でもね、やっぱり、会いたいよ。もう一度、会いたいよ。


茉緒まお~って、呼んでよ。お兄ちゃん、抱き締めてよ……


沢山の幸せを、想い出を、愛を、何よりも笑って生きてゆく強さを私達に残してくれてありがとう。




もっと書きたい事がたくさんあった、もっとちゃんとした小説に仕上げたかった。でも今の私にはコレが精一杯でした。最期の頃の数話を本当の意味でのラストストーリーを、いつかちゃんと書き直せたらいいなと思っています。


駄文にも拘らず、最後まで広く温かなお心で読んで下さりありがとうございました。

またブックマーク等とても嬉しかったです。励まされました。最後まで書くことが出来たのは読んで下さった皆様のお蔭です。本当にありがとうございました!


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