世界で一番幸せで、一番悲しい花嫁
「お姉ちゃん、じっとしててよ。もぅ動かないで!せっかく可愛くしてあげてるのに」
「だって菜緒ちゃん、強く髪の毛引っ張るから痛いんだもん」
わぃわぃ騒ぎながら菜緒ちゃんに髪をセットアップしてもらい、光り輝くティアラをつけ刺繍のとっても綺麗なベールをかけた。師長さんに今日の事を話したら宿泊室を使って支度をしていいと言ってくれたので、今はそこで花嫁支度をしているってわけ。
二人ともさっきの大泣きで少し目が腫れぼったかったけど、それはそれで思い出だからいいねって笑い合った。逝ってしまうことが分かっていても、認めたくなくて触れたくなくて、私達はハッキリと口に出したことがなかった。だけどお兄ちゃんは自分の悔しさも辛さも、残して逝く私達への想いも全て話してくれた。
逝かないでという想いはかわらない。辛さも悲しさも苦しさも何も変わらない。だけど何かが変わった。何かをお兄ちゃんは私達の心の中に植えてくれた。だからいま私達は笑っていられる。
(お兄ちゃんにみせてあげるんだ!笑顔のウエディングドレス姿の私を)
宿泊室のドアを菜緒ちゃんが開けキョロキョロと辺りの様子を伺う。周りに誰もいないことを確認してから、私達はササッとお兄ちゃんの部屋に飛び込んだ。
(この姿を見て悲しい想いをする人がいる。絶対に見せちゃいけない)
娘さんのウエディングドレス姿を見たかっただろう。愛する人の横でこのドレスが着たかっただろう……
琴音さんは、病気になりもう助からないとわかった時、結婚を考えていた人に悲しい嘘をついて無理やりお別れをしたと言っていた。
(これ以上辛い思いをさせたくない。だから私のドレス姿なんて見せちゃいけないんだ)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ドアの所で待機していた達郎に導かれ、そろりそろりと静かにお兄ちゃんの元へ進む。
「茉緒っ!……おまえ、それ……」
ドレスの事は内緒にしていたのでお兄ちゃんはとにかくびっくりした顔をしていた。その顔が嬉しくて、悲しくて。また泣きそうになったので、それを誤魔化すように私はドレスをつまみクルリと一回転しおどけて見せた。
「えへへ~!どう?可愛いでしょ~?こんな可愛い花嫁さんな妹は自慢でしょ~?ふふん♪」
「お姉ちゃん、今の一言で感動台無し」
「姉貴、時と場合を考えて言葉を発しろよ」
二人ともやれやれって顔して呆れてる。達郎はと言うと?お前らしいよって苦笑しながら私のオデコをちょんと突いた。気を取り直し再度、新郎新婦ご入場。
「茉緒きれいだ、ほんとに綺麗だ。幸せになるんだぞ」
「達郎と一緒なら絶対に大丈夫。安心していいからね」
「あっちに逝ったら、父さんと母さんに自慢してやるよ。俺は茉緒の花嫁姿を見たんだぞってな」
「うん……いっぱい自慢して……可愛かったぞって、いっぱい自慢していいから」
ドレス姿を見せれた喜びと切なさと、もうすぐ逝ってしまう悲しみや苦しみが混ざり合って、せっかく泣き止んだのにまたボロボロと泣き出してしまった。と、達郎がポケットから小さなケースを取りだす。
「達郎?これって……」
「結婚指輪、ココで誓うぞ。ほら手をだせ」
何がなんだか分からなく言われるまま左手を差し出すと、達郎は薬指に指輪をはめてくれた。そしてはっきりとした声で皆の前で誓いの言葉を言ってくれ、ベールをそっとずらして唇に優しいキスをおとしてくれた。
「幸せにするよ」
「達郎……」
「茉緒きれいだぞ、誰よりも綺麗だぞ……達郎君ありがとう、ありがとう」
お兄ちゃんはキラキラとお揃いの指輪が光っている私達二人の手をとって、ウンウンと何度も何度も頷きながらありがとうを繰り返した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その後、看護師の浜崎さんが小さなウエディングケーキを差し入れてくれて。ケーキカットの真似事をしたり、家族写真を撮ったり、とてもとても楽しい時間を過ごした。
その写真に笑顔で写っているお兄ちゃんはもうすぐいなくなる。それが分かっていながらの、笑顔の結婚式だった。どんな豪華な結婚式よりどんな素敵な場所での誓いの言葉より、心に重く深く刻まれた病室での結婚式だった。
私は今日、世界で一番幸せで、一番悲しい、花嫁となった。




