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③不安が現実に変わる時

色々な検査から戻ると、兄はそのまま別室に連れて行かれた。

あれからどれくらいの時間が経ったのか。私の頭の中にはある病名が浮かんでいた。その二文字の病名が何度も頭の中に現れて不安になる。


(そんなはずない!そんな事あるわけない!)


私は必死にそう自分に言い聞かせて、不安な心と闘っていた。


それから暫くして、うなだれて長椅子に座っている私の傍に年配の看護師さんがやって来て、膝を落として私に目線を合わせてからとても優しそうに微笑んでくれた。


「いま先生からお話がありますので、ココでもう少しお待ちくださいね?」


「はい…あの兄は?」


「大丈夫ですよ。点滴が終わるまでまだ時間かかりますが。今日はお二人でいらしたんですか?他にご家族の方はいらっしゃいますか?」


「二人できました。だから私一人です…」


この看護師さんとの会話は、私の不安を更に深く深く闇の中に落とす事となった。膝の上で重ねている手が震えている。その手を何度も何度も擦り合わせ、時折ギュっと握ってはフーッと天井を仰いで力を抜く。


下を向いて床と自分の手ばかりを見つめていた時だった。ファサッと横で何かの気配がした、と同時に白衣が目に入った。


「あ…中野先生」


「お待たせしました、どうぞこちらに」


眼鏡の奥の優しそうな瞳が少しだけ揺れている、そんな表情の中野Dr.は私を小さな部屋に案内した。薄暗くベットも何もない、机とシャウカステンとパソコンがあるだけだった。パチッと先生が部屋の電気をつけ「どうぞ」と椅子に座るよう私を促す。


「ちょっと待ってくださいね」


先生はパソコンの電源をいれて、キーをパチパチ叩いていた。病院についてからの一連の出来事を思い返し、いやな予感で身体中が震えている。


そして、何枚かのCT画像が画面に映し出された。


(うそでしょ…)


それは恐らく、兄の食道か胃の入り口辺りを中から撮ったものだろう。自分で色々な検査を経験しているので何となくだけど身体のどの部分なのか、どういう状態なのかわかる。


兄のソレは、素人の私が見てもわかるほど酷い状態だった。所々から出血しているのもはっきりとわかる、そして全体を覆い尽くすほどの悪魔の塊……


「ガン…ですね?」


「…」


中野先生は私の顔を見て、静かに頷いた。


グニャリと部屋の景色が歪み、崩れ落ちそうになる自分を支えているのがやっと。倒れそうになった私の身体を支え、先生は私が落ち着くまで待ってくれていた。そしてゆっくりと話し出す。


「ご本人の立ち合いはどうされますか?いま私から告知して説明すると言う事もできますが…」


「いえっ!兄には…兄には、まだ言わないでください!」


それから中野先生は、いまの兄の状態を画像とともに詳しく話してくれた。私は食い入るように次々とかわるPC画面をみつめ、先生の話を真剣に聞いた。


「明日、消化器外科の黒田先生の予約をいれました」


「外科の黒田先生?」


「はい、入院の用意もされてきた方が、いいかと思います」


初診できたその日のうちに検査、次の日には外科へそして入院?

この先何が起こるのか容易に想像できた。長い長い一日の不安は、こうして現実のものとなったのだった……



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