誓いのキス
8月1日
「おはよう」
達郎がおっきな箱をいくつか抱えて、朝早くから家にやってきた。
「おはよう、ってまだ6時前だよ?」
「いいんだよ。今日は茉緒を嫁にする大事な日だから」
そう、今日はお兄ちゃんに婚姻届にサインをしてもらう大切な日。記念すべき私達の結婚式。と言っても参列者は健太郎と菜緒ちゃんだけだけどね。
「ご飯は?私達もこれからだから、一緒に食べる?」
「あぁ、その前にコレ着てみろ」
さっきから気になっていた縦長の大きな箱をはじめとする数個の箱。その中で一番おっきな縦長の箱をホイッと手渡された。
(なんだろ?着てみろってことは服だよね?)
不思議に思いながら箱を開けると、中から出てきたのは真っ白なフワフワした綺麗なドレスだった。
「こっ、これって!ウエディングドレス!?」
「お前に似合うはずだ、いいから着てみろ」
あまりにもびっくりして、ドレスを抱えたまま固まって動かない私のホームウェアを慣れた手つきでポイポイ剥ぎ取る達郎くん。
「ちょ、ここ茶の間だから!部屋で着替えてくるよ」
「ここでいい。大丈夫だと思うが万が一サイズが合わなかったら速攻対処できるようお袋が待機中だから、とにかく着てみろ」
「えっ?これお義母さんが?」
仕事で動きが取れない達郎の代わりに、お義母さんが一日中レンタル屋さんを廻って私に似合いそうなドレスを一生懸命探してくれたんだって。一昨日に突然決まった結婚だったので、まさかウエディングドレスが着れるとは思っていなかった私は本当にびっくり!
(お義母さん、ありがとうございます)
「最終的にそのドレスを選んだのは、この俺だけどな」
「なにそのドヤ顔、ふふっ」
「仕事中に何度も携帯にドレス添付してきて、その返事をしないと電話してくるし……あれには参った。今だってちゃんとサイズが大丈夫かどうかすぐに知らせろとこの携帯の向こうで待機してる」
「お義母さんも、達郎もありがとう!すっごくすっごく嬉しいよ!」
ふんわりとしたシルエットの可愛いウエディングドレスを身にまとう。
「わぁ、サイズぴったりだ!なんで?」
「そりゃ、茉緒のスリーサイズはこの右手がしっかり覚えてるからな」
そう言いながら自慢の右手で私のお尻をワサワサとイタズラし、頬にちゅっ♪と軽くキスを落とす達郎。
「なっ!朝っぱらから何てことを…」
「と、ホレこれもだ。なんだっけ?ベールとかいうやつと王冠」
「王冠って、ティアラって言うんですけど……」
「なんでもいいよ、取り敢えず頭にのっけろ」
わいわい騒ぎながら私は何とか花嫁の恰好になった。達郎は仕上がった花嫁姿の私をまじまじと見て、ちょっと照れくさそうな顔で『綺麗だよ』って言ってくれた。
「この姿をお兄さんに見せてやろう、病室で俺達の結婚式だ」
「達郎…」
「結婚って、二人が幸せになる為にすると思うんだけど」
「うん」
「これから二人にふりかかる全ての不幸も、一緒に乗り越える為にするんだとオレは思う」
「…」
「不幸も幸せも全部ひっくるめて、俺は茉緒を支え、幸せにすると誓うよ」
これから訪れる不幸……
それはお兄ちゃんを失うこと。
それを一緒に乗り越えてくれると達郎は誓ってくれた。
これから先、幸せなことばかりじゃないだろう。
でも達郎と一緒ならどんなことも乗り越えていける、どんな試練も幸せに変えることができる。
この人を愛した……そして愛された。
それだけでもう私は幸せなんだ。
「茉緒、愛してる」
「ずっと一緒だよ?どんな時でも何があっても」
「あぁ……嫌だって言っても離さねぇよ」
ベールをそっとよけながら優しいキスが唇におとされる。茶の間のお仏壇の前で、お父さんとお母さんに見守られながら私達は二人きりで誓いのキスをした。
んっ…
甘く優しいキスが更に深くなろうとした時。
「あー、えーっと、コホン、コホン……」
「な、なおちゃんっ!」
「朝からなに茶の間でガタガタやってんのかと思ったら?こういう事ですか」
茶の間の入り口のとこで腕組みしながら菜緒ちゃんがニヤニヤした顔で立っていた。暫く私のドレス姿を眺めていたかと思ったら、つかつかと達郎の前に来てストンと畳の上に正座し、真っ直ぐに達郎を見つめた。
「ふつつかな姉ですが、末永く宜しくお願いします」
菜緒ちゃんは、お兄ちゃんの想いも合わせるように、達郎に向かって深く深く頭を下げてくれた。




