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お兄ちゃん逝かないで! 菜緒(なお)目線story

茉緒まおを帰宅させた後の病室。菜緒なお目線story。


菜緒なおちゃん、兄貴の様子が気になるなんてウソだろ?」


「まぁねー、今夜は達郎さんと2人きりでのんびりしてもらおうと思ってさ。お姉ちゃんにも息抜きが必要だもん。会社のことだって家事だって一人でしょい込んじゃってるじゃない?」


「だよな、いくら源さんがフォローしてくれるとは言っても姉ちゃんがいなきゃ話になんない事もあるし、洗濯とかオレだって出来るって言ってんのにやらせねぇしよ」


「あんたが洗濯したら余計に手間が掛かりそうだからやらせないんじゃないの?あはは」


笑いながら私はPCの電源を入れた。


「仕事するのか?」


「うん。対した仕事もないんだホントは……」


「えっ?」


「本当にいい先輩と上司に恵まれた。形だけ仕事体系を取っていればいいって言ってくれて、私に振り当てられた部分はほんの少しで残りは全部先輩と上司が引き受けてくれたんだ。感謝してもしきれないよ」


「よかったな」


「そっちは?円満退社できたわけ?」


「円満とまではいかないかな、でも達郎さんに助言してもらったお蔭で何とかな」


「お姉ちゃんって『あんなん』なのに、よく達郎さんお姉ちゃんを見捨てずにいてくれるよねぇ」


「あんなんって?どんなんだよ。あはは」


「でもさ、『あんなん』でも私達にとって最高のお姉ちゃんだよね!あはは」


「だな、そして俺達にはまた最高の兄貴が出来るんだな」


そう言った健太郎はベットで寝ているお兄ちゃんを見つめた。なにを考えているのか何となくわかる。


「達郎さんという義兄ができて、代わりに大切なお兄ちゃんがいなくなったとしても……お兄ちゃんは私達の心の中でずっと生き続けてくれるよ」


そうだよなって言ったきり健太郎は黙ってしまった。そしてお兄ちゃんの傍に椅子を引き寄せて座り、覆いかぶさるようにして顔を布団に押し付けた。


お互い綺麗ごとで締めくくったのは理解していた「心の中で生き続けている?」いやだよ!そんなのいやだよ!ちゃんと目の前で生きていてくれなきゃいやなんだよ!そう叫びたい心を私たちは封じ込んだ。


その後PCのキーを叩く機械音だけが静かに病室に響いていた。どれくらいの時間が経過したのか分からないが、ベットに突っ伏していた健太郎が突然ガバッと起き上がり、辺りを見回してキョロキョロしている。


「どうしたの?」


「いや……なんか今、親父がいたような気がしたんだ」


「お父さんが?やめて……お姉ちゃんみたいなこと言わないでよ」


お姉ちゃんは時々、庭のすみの方に向かって手を振ったり意味不明な行動をとる時がある。そんな時は決まって「この世にいない誰か」の気配を感じるんだと言う。


「なぁ兄貴の様子、少し変じゃないか?」


そう言われてお兄ちゃんを覗き込んだが、特に呼吸が荒いとか苦しそうとかには見えなかった。


「そう?いつもと変わらないように見えるけど?今は薬のせいで眠ってるだけだし」


「そうかなぁ?」


健太郎の言うように何か変な感じがしたので、お兄ちゃんの様子を気を付けてみていたが、あまりにも静かな寝息と穏やかな病室の空気、温かなふんわりとした何かに包まれた気がして私は微睡みはじめた。そして本格的にウトウトし始めた時だった。


菜緒なおちゃん起きて!やっぱり兄貴変だよ!」


健太郎の声にビクッとして、お兄ちゃんを見ると?一見穏やかな感じで寝ているようにも見えたが…


「ほんとだ!呼吸の仕方が変だ、なんかいつもと違う気がする」


「ナースコールしようか?」


「でもこれが具合い悪いのかどうかもわかんないし、呼吸の仕方がいつもと違うくらいで夜中なのに呼べないよね?」


「だよな、1時間前くらいにも浜崎さん見に来てくれたもんな」


「うん、その時は何も言わなかったよね?どうしよう」


そんな風に二人で躊躇している時だった。病室の部屋のドアが静かに開いて、浜崎さんが部屋に入ってきた。浜崎さんは何となくお兄ちゃんの様子が気になっていたらしくて、今夜は何度も見に来てくれていた。


「お兄ちゃんが変なんです」


「はい、いま診ますからね。大丈夫ですよ」


浜崎さんはお兄ちゃんの様子をみるとすぐに血圧や脈を測ったり酸素の量を測ったりしていた。静かに冷静に処置しているようにも見えたが?その綺麗な瞳が一瞬だけ揺らいだのを私達は見逃さなかった。


「浜崎さん?お兄ちゃんどうかしたんですか?」


「血圧が低下しています、いまドクターを呼びますから」


すぐに先生が来てお兄ちゃんを診てくれる。そして浜崎さんに何か色々指示をだしてから、隅っこで立ち尽くしている私達の方を向いた。


「薬による呼吸抑制が起きているのと、血圧や脈などすべて下がってきています。危険な状態です」


「えっ!?」


「昇圧剤を投与しますが、何とも言えない状況です」


「それって、あの……」


「お姉さんを呼んで下さい」浜崎さんは静かな声で私達にそう告げた。


(そんなっ……)


「浜崎さん、お兄ちゃんは、お兄ちゃんは大丈夫なんでしょうか?」


「これ以上の処置はココではできません。すぐにお姉さんを呼んで下さい」


呆然と立ち尽くしている私達に向かって、浜崎さんは今まで見たこともない真剣な顔つきでそう言った。


「兄貴っ!ダメだよ!なんだよ…いきなり、なにしてんだよ!起きろよっ!」


「け、健太郎……お、お姉ちゃん!お姉ちゃんを呼ばなきゃ!」


突然訪れた別れの予感にガクガクと身体中が震えた。そして震える手で何とか携帯を操作し泣きながら電話をかけた。


「お姉ちゃん!お兄ちゃんが!すぐ来てっ、お姉ちゃん!お兄ちゃんがっ」


「兄貴!逝くなよっ!まだ逝くなよ!」


「お兄ちゃん!お兄ちゃん!やだっ、やだよーっ!逝かないでー!」



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