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② 大学病院での初診

年が明けたら病院に行くと約束してくれたお兄ちゃん。それだけでホッとして、ずっと重苦しかった心がやっと軽くなった。


「来年はさぁ、皆で旅行に行こうよ~。なおちゃんも健太郎も休みはとれるんでしょ?」


「大丈夫だよ。いいねソレ!行こう、行こう」


「もちろん、兄貴もちだよな?ハワイとかいいんじゃね?」


「そうだなぁ、ハワイは別として、親父たちが逝っちまってから何処にもいってないし。よしっ行くか!」


『さんせーい!お兄ちゃん大好き~!』


「旅行もだが、茉緒?今年はお前の花嫁姿見せてくれるのか?」


「えっ!?」


「隠すな、そう言う話が出てんだろ?お前もいい歳だ。真剣に考えろよ?」


「うん…」


(今は自分の事よりお兄ちゃんの方が大切だよ…)


4人で暮れから正月ずーっと飲んだくれてわぃわぃ騒いだ。本当にいい年明けだった。


 菜緒なおも東京に戻り、それぞれの仕事が始まった。年明けなので挨拶廻りや安全祈願などどうしても外せない事を順序よくこなし、明日はいよいよ病院に行く日。私は自分の主治医がいる、○○大学附属病院に兄を連れて行くことにした。どうせなら最初からおっきな所の方が何かあった時にいいだろうし、自分の主治医がいるので何かと相談もできる。


「えっと、保険証と、お金と…」


「なにも大学病院に行くことないだろう、近くの医者でいいんじゃないか?」


「朝倉先生がいる所のが安心だもん」


「まぁ別にどこでもいいけどよ、それよりお前の方は大丈夫なのか?この前検査だったんだろ?」


私は腎臓にちょっと病気を持っている、だから常に検査して体の状態を把握していなければならない。見た目は全然普通の人と同じだし、少しの食事制限だけで運動制限もないから大丈夫なんだけどね。


「来週が受診日だけど何も連絡がないんだから心配ないよ。さぁて行こうか!初診だから早めにいかないと診察が昼近くになっちゃうよ」


 自宅から病院までは車で30分くらい。運転するというお兄ちゃんを無理やり助手席に乗せ、私はハンドルを握った。


途中、車窓から見える景色にふっと心を奪われる。真っ青に晴れ上がった空、所々に真っ白で美味しそうな雲がプカプカ浮かんでいて、遠くには雪を纏った山々が太陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。


「わぁー、今日は山が綺麗に見えるねー!」


「あぁ、こんなに綺麗に見える日は珍しいな」


(こんなに素敵な景色を見れたんだもん…なんでもないよね?大丈夫だよね?)


ずっと不安だった。足のむくみもひかないし、いつも通り元気にはしていたけど、やっぱり兄の体調は悪かった。


「なぁ…」


「ん?なぁに?」


「これだけお前たちに心配かけて大騒ぎして、なんでもなかったら恰好わりーな?」


「はぁ?何言ってんのよ。なんでもない事が一番でしょうがっ!」


あはは、そうだな。そうだよな…

兄はそう言ったきり黙ってしまった。


病院についてからは勝手知ったる何とやらで、兄を待合のソファに座らせて全ての手続きを私がした。


(お兄ちゃんに問診なんて書かせたら、正直に書くわけないもん)


私は思いつく限りの兄の症状を細かく書いた。そしてさっき聞いたばかりの驚愕の事実も最後に書き加えた、『血便が続いています』と…


全ての事務手続きが終わり、私達は消化器内科に移動して待ち合いのソファに二人並んで座り、順番を待った。部屋に下げられた札には医師の名前が書いてある。


(中野Drか…いい先生だといいな)


どれくらい待っただろう。何度目かのポンッ♪という電子音が聞こえ、部屋の前にある電光掲示板を見る。


「お兄ちゃん、私達は次だよ」


「そうなのか?」


「うん、いま入って行った人が65番で私達は66番だから次だよ。よかったそんなに待たなかったね」


「たっぷり1時間以上は待ったけどな?」


「ココでの1時間は普通なんだよ、ふふっ」


「お前よく言ってるもんな、大学病院は健康じゃないと通えないって」


「そうだよ~あははっ!でもちゃんと看護士さんが巡回して様子みてくれるから安心だけどね」


そして私達の番になり、診察室に兄と入る。中野Dr.は背の高い眼鏡をかけた、とっても優しそうな先生だった。問診をじっと真剣に読んで、そして兄に色々質問したり、体を触診したり…


「血液をとって検査しますね、緊急でするよう指示しておきますので…採血が済んだらココに戻ってきてください」


言われた通り採血をして、また消化器内科の中野Dr.の部屋の前で呼ばれるのを待つ。


緊急での検査待ち。私も何度か経験あるけど、これは医師が何か緊急性を疑っている時にするんじゃないだろうか?だって普通は診察前に採っておくか、最後に採った場合は次回の診察の時に結果を聞くんだもん。


(いやな感じがする…)


暫くして呼ばれたので診察室に入ると、何故か車いすが用意されていた。


「ちょっとCT撮らせてもらいますね、一之瀬さんコレに座ってください」


自分で歩くからいいと渋った兄を無理やり車いすに座らせ、私も一緒に先生のあとをついていく。CTを撮っている間、検査室前のソファに腰かけ私はずっと考えていた。


ここは大学病院だ。検査などは全て予約制、混んでいてすぐに予約が入らない時もある。初診なのにこんなにバタバタと検査を急いでする必要が?……あるからしている、と言う事だろう。


(お兄ちゃん…)


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