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奇跡を起こしたい

手術の翌日、足取り重く三人で病院へ向かう車の中。


「お姉ちゃん?そんな情けない顔をお兄ちゃんに見せちゃダメだからね!」


「うん……」


「兄貴には詳しい事は黙っていよう。俺達でさえコレだ、本人が正確な事を知ったらいくら頑丈な兄貴でもどうなるかわからない。とにかく後は回復するだけだ!姉ちゃんいいな?兄貴の前だけでもしっかりしててくれよ?」


二人はまるで私に暗示をかけるように、「お兄ちゃんは元気になる!大丈夫だ!」を繰り返し言い続けた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


真っ直ぐICUに向かったがそこにお兄ちゃんはいなかった。容体が安定したので呼吸器もとれICUを出ていて消化器外科病棟ナースセンター横の個室に移動していたのだった。相変わらず沢山のチューブに繋がれモニターに囲まれていたけど、思ったより元気そうな顔だったので私達はホッと胸を撫で下ろした。


「こっちに移動したって事は、もう大丈夫ってことだよね?」


「そうだと思う、あとで看護師さんに聞いてみよう。私がいるうちに色々聞いておかなきゃ、ってさぁお姉ちゃんこれからホントに大丈夫?」


「うっ……大丈夫、だと思う、たぶん」


「俺もいるし、達郎さんもいるから大丈夫だよ。たぶん……」


「多分、多分って、あんた達はもう」


菜緒なおちゃんが心底呆れた顔をして私と健太郎を見たけど、正直いうと大丈夫かどうかなんてわかんないよ。でもここで私が弱音吐くわけにいかないもの、頑張るしかない!私達は病室のドアの前でそれぞれが深呼吸をして笑顔を作ってから入室した。


「お兄ちゃん痛い?大丈夫?」


そう言いながらベット脇に寄り、腰を落として目線を合わせるとお兄ちゃんは少しだけ辛そうな顔をして小さな声でボソリと言った。


「痛いとかってレベル超えてる……」


「痛み止めの注射してもらってるの?」


「いや注射じゃなくて、痛くなったらコレをポチッと押すと自動的に薬が体に入るらしい。我慢しなくていいですよ~なんて看護師のヤツが呑気に言いやがって、悔しいからトコトン我慢してやるぜ」


見ると何かの機械とチューブが繋がっていて、それが背中に入っているみたい。


「えぇーっ!背中に管が入ってんのぉ!うわぁ痛そう…背中に穴開いてんのかなぁ?ひぇ~」


私は泣き出しそうな気持を抑え、びっくりした顔をしワザとおどけて見せた。


「そうみたいだな、あははっ」


私と兄のやり取りに、菜緒ちゃんと健太郎が呆れていた。


「痛そうって……転んで擦りむいたわけじゃねぇんだぜ?あれだけの手術したんだ痛いに決まってんだろ」


「お兄ちゃんもなに看護師さんと我慢比べ勝負してんのよ、ホントにこの二人は緊張感なくすわぁ」


いつもの豪快な声でなく苦笑気味の小さな声の笑いだったけど、それでもお兄ちゃんは笑った。だから私達も笑った、泣きそうな苦しい心を隠して笑った。


「頑張って一日でも早く帰るからな」


「うん……」


その夜、お尻から大出血して明け方の3時ころまで止まらなかったらしい。先生方も一生懸命治療してくれて、そんなこんなの術後の色々な困難を乗り越え、お兄ちゃんは日に日に元気になっていった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


そして手術から9日経った、1日31日。


「こんにちはー」


まず深呼吸をして顔に無理やり笑顔の仮面を貼り付けてから元気に病室に入ると、お兄ちゃんはベットの上に胡坐をかいてニコニコと片手を挙げた。みると全てのチューブが身体から外されている。


「わっ、よかったねー!やっと外してもらえたんだ」


「おぅ!スッキリしたぜ。手足が自由に動くってのはホントいいもんだな」


「じゃ明日から流動食も始まるかな?お許しが出れば食べたい物を用意してあげるよ」


「すきやきが食いてぇなぁ」


「いきなり『すきやき』は無理じゃないの?」


2人であーだこーだと食べ物の話で盛り上がっていると、担当看護師のゆりさんがやってきて、ニコニコしながらサラッと爆弾を落とした。


「あら?一之瀬さん。妹さんがいる時は図面広げてないのねぇ?」


「えっ!お兄ちゃん!?まさか仕事してんのっ、あれだけ言ったのにダメじゃない!」


「余計な事いってんじゃねーよ!嫁の貰い手がなくなるぞ」


「この間は私をもらってくれるって言ったじゃなーい」


「誰がこんな生意気な奴もらうか、ばーか」


「ふふっ、憎まれ口叩けるほど元気になって私達も嬉しいわぁ」


この病院の看護師さん達ってお笑いの勉強でもしてるのかな?と思うほどみな明るくてホントに素敵な人達ばかり、それに綺麗な人が多いんだよね。


「そう言えばナースの間で評判よ?一之瀬さんのお見舞いに来る人達はみなさんイケメン揃いだって」


(イケメンって?そんなのいたっけ?)私は思いっきり首を傾けてしまった。たぶんウチの社員のことだろうが?まぁまぁ可愛い系のテツ君の事かな?まさか源さん!なわけないか。


「ほら、この前の夜スーツ着た人が来たでしょ?若いナース達が大騒ぎしてたわよ。ふふっ」


「あぁ、あれはコイツの恋人だぜ」


「えっ達郎?!いつ来たのよ、そんな事なにも言ってなかったよ」


「そりゃ言えねぇよなぁ、名刺配って歩いてたからなぁ」


「マジですか……」


達郎のやつー!どうしてくれよう!八つ裂きの刑か、もしくは100叩きの刑か。


「ふふっ、そんな意地悪言っちゃだめでしょう、本気にしてるわよ」


こんな風に患者はもちろん、家族の私達の心まで元気にしてくれる看護師さんのお蔭で、お兄ちゃんは術後の経過もよく無事に8日に退院できる事となった。


もしかしたら。

もしかしたら奇跡が起こるかもしれない。

ガンを採り切れなかったと、ステージ4だと聞いた時は正直もうダメだと思った。


死んじゃうんだ……

お兄ちゃんはいなくなっちゃうんだって、泣いてばかりいた。

でも今こんなに元気なんだもん!

ステージ4だって治るかも知れない!


















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