”パスト=リストア”へ
せっかくのフレンチが、ログハウスではないとは。
道端を行く若者たちが、何かを話しながら「えぇ~?ありえないわ!」と通過していった。
全くだ。ありえちゃあいけない。
ふんわりした手作りの食パン、マイルドな香りを漂わせるコクのあるコーヒー・・・。
そこまでは許せよう。なんでまたこんな騒がしく、悪寒のする場所に来なければ?
どうにもこうにも、「アルバス」。君のせいだ。誰だかは知らんが。
畜生め。
そんな悪態をついていても、ニコラスはふと視界に入った書籍に見入った。
『愛する人、秘密を』・・・愛し合っていた夫婦の話だ。
老衰死した夫の遺書を読むと、思い出とその一つ一つの隠し事が綴られている。
が、その秘密の中には、実は妻の――。
「ニコラス・バーモントさん。3番カウンターへどうぞ。」
「あぁ、はいはい・・・」
案内の女が目の前なのにもかかわらず、マイクで呼びかけてきた。うえ、香水くさい。
「で、バーモントさん。メモリー閲覧会館へ、どのようなご用件で?」
「あぁ、いや、、ニコラスでいい」
「えぇ。ニコラスさん」
「妻の…手紙に知らない男の名前が載ってたんだ。その、、、」
「あぁ、浮気調査ですね。自身のメモリーではなく、他者のメモリーでしたら――」
「私自身の、記憶が見たいんだ!」
年寄りだからと畳みかける女と、香水の香りに腹が立った。
女は一瞬たじろいだが、すぐに続けた。
「なるほど。ご自身の忘れた記憶を、確認したいと?」
「えぇ。その通りです」
「では、こちらへ伺ってみてはどうでしょう」
彼女が資料とメモ書きをクリップした、ファイルを差し出してきた。
そこには、”パスト=リストアセンター”。要は過去復元である。
「え、こちらでなら記憶を思い出せるかと・・・?」
「申し訳ございません。こちらで管理が可能、そして閲覧許可を出せるのは、
亡くなった方の覚えている限りの記憶、そして生きている現在覚えているものだけなんです」
「そうですか…わかりました。そちらへ伺ってみます」
「こちらも、知り合いに連絡しておきますので、こちらに連絡先を書いておきます」
「どうも」
そういってカウンターを去る老人を、彼女は先ほどとは打って変わって心配そうに見つめた。
過去復元をしたいという客は、大概は嫌な記憶を忘れている故に、思い出したために心身に傷を負った者が多いのだ。
一方彼は、すぐには確認できないことと
記憶を思い出すことに大きな不安をさらに抱える結果となった。
更新、遅れてすみません。